MUDDY WALKERS 

銀河鉄道物語

 銀河鉄道物語(2003)各話レビュー

 第23話「非情なる裁定」(バルジ隊長抗命事件)


あらすじ

 死するブルースを乗せてディスティニーに帰還したビッグワンとシリウス小隊、が、イワノフはバルジの命令違反を問題にし、銀河鉄道の査問会に彼を訴える。

 Aパート: ビッグワン帰還、バルジの査問会
 Bパート: 小隊解散、バルジ追放

コメント

 リフルが伝えた情報は別宇宙からの侵略軍により銀河鉄道のみならず宇宙全体の危機が迫っているというものであった。彼女の言葉と続く事件から、危機のスケールと危険性を正確に看取していたバルジに対し、同じ場所に居合わせながら、以前からアルフォート軍に関心を寄せていたはずのイワノフの無能さと査問会のいい加減さはどうだろう。被査問人に弁護人も付けず、当事者であるイワノフが査問員席に座を占め、これで公平な裁定ができるのかと思うが、元よりあまり悪人のいない銀河鉄道物語の世界では、5話のガイサンダーなど悪役になると悪成分が過剰、非リアリティすら感じるほどの非道ぶりになり、先にも述べたが、(声優にも被害が及ぶ)この辺はもう少し考えて書くべきではなかったか。ガイサンダーは海賊だったが、イワノフは銀河鉄道の経営陣の一員で、この人物の酷さとそれを黙認しているレイラ以下経営陣の所行は主人公の属するこの組織自体への信頼を損ねてしまう。
 主人公サイドの組織が必ずしも清廉ではなく、派閥争いや不正義が横行しているというのは昔では「機動戦士ガンダム」の地球連邦軍がそうであったが、富野監督による当初のシナリオでは、正義のガンダムを持つホワイトベースの面々は後に連邦と決別し、独立部隊として連邦、ジオン双方に対峙するという話が考えられていた。が、これは未完成なシナリオで、実際に放映された内容ではなかったし、その正式な続編といえる機動戦士Zガンダムでは放映できなかったこの内容が敷衍されたため、作品の地球連邦は前作と比べても相当おかしい、曲がった組織として描かれ続けた。最初のガンダムではある種リアリティを感じた連邦指導層の描写はそれが未完成な演出法であったゆえに、後の作品では作品世界それ自体を損ねてしまう毒となってしまったのである。そういうものを描きたければ、世界観をもっと緻密に構築しなければならない。ガンダムはあまりに拙かった。
 銀河鉄道物語でもガンダムで見られたこの演出法への反省は見られず、シリウス小隊の面々は理不尽な理由で各々どん底に突き落とされる。唯一救いがあったのはそれまで何ともハッキリしなかった学とルイが急接近し、互いの絆を確かめ合ったことだろうか。が、アルフォート軍の総攻撃はすぐ間近まで迫っていたのである。
(レビュー:小林昭人)

作品キャラ・用語紹介

査問会 
 クーロン星系での命令無視、暴行の件でバルジを裁いた銀河鉄道の審問機関。銀河鉄道社員の査定権と人事権を持つが刑罰権は有さない。様子を見るに銀河鉄道の執行機関の一つ、監査委員会の役員で構成され、さらに査問人の一人として執行役員のイワノフがいる。審判は原告と被告が対峙する弾劾主義でなく、純然たる糾問主義のようであり、審判員を高い位置に置く様式は戦前の行政裁判所に酷似している。事件を起こしたそもそもの当事者が査問人の席にいるなど、現代の裁判と比べてもおよそ原始的、忌避の制度すらない前時代的な制度であるが、作者の松本零士の意識が戦前のため、このような組織が松本作品にはしばしば登場する。

鉄道公安官 
 太平洋戦争後の混乱と食糧難の時代に旧国鉄が組織した鉄道専門の警察組織。警乗に際しては米軍から払い下げられた銃を携行し、主として列車や駅構内での犯罪の取り締まりに当たっていた。公式な殉職者は成田闘争における2名だけだが、当時は学生運動や左派闘争の盛んな時期であり、爆弾や火炎ビンを用いたテロが横行していたことから、列車を中心とした爆破事件の未然阻止などには活躍しており、その際の負傷も多くある。採用は元々警乗できる警察官の員数不足が発足の理由であったことから、除隊した旧軍人が多かったと見られ、陸軍航空隊の叩き上げの少佐であった松本零士の父も所属していた可能性がある。JRの発足で鉄道公安の所轄が警視庁に移ったため、警察官に転職した者もいるが、多くは解雇された。ここで犯罪と捜査について知識を持つ者が合流したことが、あまり公にされることはなかったが、国鉄民営化の暗部である解雇闘争が数十年に及ぶなど異常なほどに長期化し、また過激化していった原因の一つではないかと考えられる。銀河鉄道物語が前作999と異なり、旧国鉄であるJRの支持を受けられなかったことも、邪推ではあるが、この作品のテーマが同グループの暗部である、以前の公安官を彷彿とさせるものであったことがあったように思える。

カオルmemo

 上官イワノフに対する命令違反と暴行、隊員ブルースを死なせた失策によってバルジは査問会にかけられる。その結果バルジは解任、シリウス小隊は解散され学はベガ小隊、デイヴィッドはリゲル小隊、ルイはスピカ小隊に配属となるが、バルジは村瀬に「やるべきことを、やるだけだ」と宣言し、密かに動き出すのだった。
 凶弾に倒れたブルースの葬送と別れの時を描く静かな回、家族のような紐帯に結ばれていたシリウス小隊はイワノフの策略でバラバラにされる。兄貴分のブルースを失った学は、もともと感情的に過ぎるキャラだったが、解散を告げるバルジの胸ぐらをつかんだり、ベガ小隊での作業中に茫然自失で列車に挟まれそうになるなど、描写が極端で共感しにくいのが残念である。松本アニメに熱血漢な主人公はつきものだが、熱血漢=無礼ではないし感情過多でもない。この極端さがなければ、もっと魅力的な主人公になっただろう。イワノフはアルフォート帝国軍侵攻の事実をもみ消すが、それで何を得るのかがよくわからない。しかしバルジの解任、シリウス隊の解散という流れは、松本アニメを知るものには「さらば宇宙戦艦ヤマト」のヤマト発進までの流れを思い起こさせ、これが終りではなく終りの始まりであることを予感するのだ。

今週のメンヘラ社長

始発駅の星、また若者が出発していく。
見えなくなった運命を、
またその手で取り戻すために。


カオルのひとこと
 結局「わからない〜」で物事を済ませて隊員任せのメンヘラ社長、若者が出発していく・・・と他人事ですが、出発しているのはアイアンベルガー、乗っているのはオッサンばかりなんですけど・・・。社長は一体、おいくつなんでしょうね?

評点

★★★ 悪役作りにもリアリティは欲しい。(小林)
★★★ 感情的すぎる学、いかにも作られた感のある悪役イワノフは減点事由。(飛田)

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