MUDDY WALKERS 

銀河鉄道物語

 銀河鉄道物語(2003)各話レビュー

 第19話「静謐の刻」(SDF御一行様慰安旅行)


あらすじ

 学とシリウス、ベガ、スピカ三小隊のSDF一行は休養のため、村瀬の実家である惑星ロブンテロルドーの温泉旅館に逗留する。

 Aパート: お座敷列車610号、旅館「村瀬」
 Bパート: SDF演芸会、トラ捜索作戦

コメント

 毎回大事件が頻発し、その都度宇宙海賊や侵略者と戦っているように見えるSDFだが、本当の鉄道保安員の任務はむしろ目立たず地味なものかもしれない。宇宙生物の巣や産気づいた女性、演劇集団のパフォーマンスにいちいちポーズを取って出場を命ずるSDF司令が笑いを誘う。だが、実は最終回に向かう前座となる回である。
 雪山の山中に迷い込んだ飼い猫トラの捜索で陣笠を被り、蓑を着込んでかんじきを履くバルジたちの姿も笑えるが、社員旅行をモチーフに隊員相互の触れ合いを演芸会やテニスなどイベントを交えながら丁寧に描いていることには好感が持てる。が、少し残念なのは登場するトラとシロボタ(ネコ)など動物の描き方がなっていないことである。第1話に登場した有紀家の飼い犬、秀太郎も何とも可愛げがなく、どうも描き手が実際に動物を飼ったり可愛がったりしたことがないのではないかと思わせる。同じ松本作品でも宇宙戦艦ヤマトのミーくんはシロボタよりはるかに「猫らしい」。動物には習性や仕草があり、単に線が似ていれば良いというものではない。
 楽しい話だが、話はSFでも「らしく」見せるためにはリアリティが要る。旅館もこれだけの規模の宿泊施設を夫婦二人で切り盛りできるはずがない。何十人分もの料理を誰が作るのか、露天風呂の掃除は誰がやっているのか、実際の旅館ではジュリアと村瀬がいい仲になっている時間に館主夫婦が息子の嫁候補を評定しているような余裕はない。
 この話では今まで平行線に見えた学とルイ、村瀬とジュリアの関係にも触れられる。ドラマの男女関係というものは話を盛り上げるスパイスである。一時の休息の後、銀河鉄道物語はいよいよ最終章に突入する。
(レビュー:小林昭人)

作品キャラ・用語紹介

銀河鉄道610号(フジ) 
 SDF一行を乗せて惑星ロブンテロルドーに向かう娯楽列車で、旧国鉄では多く見られたお座敷列車である。実際のJRでは世知辛い世情からこの種列車は減少傾向にあり、残っている車両も車両の老朽化から解体が進んでいる。

温泉旅館
 この作品の作られた2003年でもやや危うい存在だったが、前作999の時代はいわゆるバブル期で、温泉やスキーリゾート、高級リゾートマンションが各地に建設されていた。「リゾート大国」は国のスローガンでもあったが、実際は日本独特の終身雇用制による福利厚生費目当ての開発であったことは否めない。後にバブルが崩壊し、当時開発された多くのリゾート地が閑古鳥となった。作品に登場する旅館村瀬も筆者としては同じような旅館をいくつも見た記憶があるが、現在ではこの種の旅館は例外なく寂れている。旅館も露天風呂だけでは顧客を誘引できず、今はスーパー銭湯の時代である。社員の慰安旅行も今は従業員の半数以上が非正規のため、慰安の必要や経費を出す会社自体が少ない。そのため、銀河鉄道物語で描かれている光景は現在ではむしろ懐かしささえ感じるものである。

カオルmemo

 SDF各小隊ご一行が、村瀬隊長の実家である温泉旅館に慰安旅行に出かける。いつものように管理局局長の出場命令から話は始まる。しかしその内容がちょっと可笑しい。天駆けるお座敷列車の中は、もっと可笑しい。女子に囲まれてババ抜きに興じる学。猛者たちと腕相撲で盛り上がり座卓を破壊するブルース。茶を啜る3隊長とユキ。生きるか死ぬかの瀬戸際で救難活動に没頭する彼らの、リラックスした姿に頬がゆるむ。
 村瀬の故郷「ロブンテロルドー」を逆から読めば「踊る露天風呂」となるように、前話に引き続きフジの人気ドラマ「踊る大捜査線」を思わせる脚本。湾岸署を舞台に同時多発的に起こる大小様々な事件事故と人間模様を織り交ぜ1日を描くその脚本には、そこに必ず「次」につながる種々の予感が隠されている。ともすればオタクの同人マンガ的になりがちな内容を、そうした手法で引き締めている。
 「こんなことしていて、いいのかな」羽目を外す隊員たちに戸惑う学だが、いざ猫の遭難騒ぎに豹変して「出動」する彼らの姿にうろたえる。「SDFたる者、いかなる事態にも臨機応変に対処すべし!」、そう諭すブルースに、彼らのプロフェッショナルな魂を見る。その先にある困難にも、彼らはこうして命を燃やしていくだろう。

今週のメンヘラ社長

今週もお休みです・・・



カオルのひとこと
 こんなに楽しいんだから総司令も、スクール水着で参加すれば良かったのに・・・

評点

★★★★★ 最終回への緊張を感じさせつつ、ユーモアに富んだ楽しい話。(小林)
★★★★★ 笑いの中に織り込まれたドラマの予感に期待が増す。(飛田)

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