MUDDY WALKERS 

銀河鉄道物語

 銀河鉄道物語(2003)各話レビュー

 第18話「死活」(SDF本部襲撃事件)


あらすじ

 突然SDF本部を襲った謎の侵入者、隊員が次々と斃される中、重傷を負った学を置き、ブルースは一人侵入者を追う。

 Aパート: SDF本部襲撃、学負傷
 Bパート: オーウェンの幻影、死神の最期

コメント

 「組んだ人間が必ず死ぬ」、死神の仇名を持つブルースは工作員のSDF侵入で同行していた学が負傷したことでますますジンクスへの思い入れを深める。9話でオーウェンの死について語られているため、負傷を押して追跡に向かおうとする学を一喝するブルースも最初のそれとは違うニュアンスであると分かる。自身にまつわる不吉なジンクスを払拭すべく、「もう誰も死なせない」と、一人危険な単独行に身を投ずるブルースだが、アルフォート軍の工作員は恐るべき敵だった。
 だいぶ前の話で「これまでの松本零士のキャラと違う」と説明した筆者だが、作品での有紀学は実は結構乱暴で荒削りなキャラである。命令無視は日常茶飯事、すぐキレる上に甲高い声でまくし立てるなど、それだけ見ればおよそ好感の持てないキャラだが、そうなっていないのは成熟した大人のブルースやバルジがしっかりと脇を固め、主演の矢薙直樹の演技の拙さは横に置き、渋い大人たちの中で「かわいげ」のあるキャラとなっていることがある。同様のキャラがりんたろう版キャプテン・ハーロックの台羽正だが、りんたろうの作品ではブルースに相当するキャラがいないため、単に生意気で憎たらしいだけのキャラになっている。学も(ブルースのいない)二部ではかなりうっとおしかった。いずれにせよ、この回でのブルースは災難だった。
 「ブルース、撃て!」、例によって指示を無視し、負傷した体で足手まといになった上、工作員の人質に取られた学のためにブルースは重傷を負うが、植物人間に羽交い締めにされた学の叫びで瀕死のブルースは震える指で引き金を引く。彼がアルフォート人の特殊武装で串刺しにされる前に神経ガスで麻痺していたのも学のせいだが、事件後にケロリと「死神の名前、返上ですね」と言ってのける学に頬を緩めたのは病床のブルースだけではなかっただろう。確かに彼により、ブルースに取り憑いた死神は過去へと去ったのである。
(レビュー:小林昭人)

今週の被害車両・施設

  ■SDF本部・・・アルフォート工作員の侵入により各所破損
  ■銀河鉄道531号・・・工作員の破壊活動により全損

作品キャラ・用語紹介

アルフォート星団星人 
 まだ本編では正式に公表されていないが、第1話から度々姿を現している別宇宙の侵略者。植物性の宇宙人で細胞を自在に増殖させ、堅い樹皮でできた蔓のような触手を操ることができる。作品では人間の女性型で登場する例が多いが、どうもこれは日常生活の便に適した画一的フォームのようで、本当の実体は不定形、むしろ植物である草木や樹木に近いと思われる。そのため、いわゆる人間のような臓器は解剖学上備えていない。一見顔のように見える頭部は仮面であり、目に該る部分にクリスタル(おそらく光学センサー)を嵌め込んでいる。階位が上がると念動力など超能力を使うことができるようになり(工作員の影響でブルースが死神を幻視したことなど)、触手もより強靭に遠くまで伸ばすことができるが、より樹木化が進むため運動性は低下する。
 同じ植物性宇宙人でもマゾーンは女王ラフレシアが剣戟でハーロックと決闘などしていたが、アルフォート人指導者にその能力はなく、最終話付近で登場する将軍フォレシスは下肢がほとんど樹木と化し、専用の台座から座ることさえできない姿で念動力や触手を使って部下を指図していた。おそらくはこれがアルフォート人の究極の姿と思われる。モデルがマゾーンのため、死ぬと青白い炎を上げて跡形もなく消滅する。

カオルmemo

 SDF本部に何者かが侵入し、全小隊が召集される。負傷した学をおいて単独行動するブルースは謎の植物人間に遭遇。神経ガスで朦朧とする中、「死神」という自身のジンクスと対峙する。
 本作はフジテレビ系列で放映された。今回は会議室から指令を出すSDF隊長などフジの人気ドラマ「踊る大捜査線」版ともいえる作風で、作画も美しく見応えがある。描き込みたい要素が多々ある中で、ドラマの焦点をブルース対死神に絞ったのが功を奏した。
 これまで組んだ3人のパートナーが皆殉職していることから、「死神」の異名を取るようになったブルース。学を4人目の殉職者にしたくないという思いから、今回も単独で侵入者を追うことになる。怪我をおして駆け付けた学が神経ガスに巻かれて列車の前に飛び出したブルースを助け、侵入者に捕らえられた学はブルースに「死神を撃て」と言い放つ。
 朦朧としたブルースが見る死の幻影、学だけでなくルイ、デイヴィッド、バルジ隊長などシリウス小隊全員の倒れた姿を見るところに感銘を憶える。ブルースは単に相棒を失うことでなく、ともに死線を乗り越え家族のような紐帯で結ばれた仲間を失うことを恐れていたのだ。死神は、そんな愛し過ぎる性分ゆえの恐れが生んだ自分自身の幻影ではなかったか。

今週のメンヘラ社長

あの者は一体なぜ?
私には見えない大きな力が、
運命という大きな歯車を、動かし始めている・・・

カオルのひとこと
 13話以来、久しぶりのご登場です。さすが、学が絡むだけありますね。もっとも、SDF本部が狙われ、隊員に死傷者が出ていることを考えると当然ではありますが。運命に委ねるというのが総司令メンヘラ社長の基本方針ですが、どうやら、ご自分以外の何者かが運命を動かし始めていることに気づいたようです。それって、あの異星人のこと? それとも、運命は自分で決めると叫ぶ、学さんのこと?!

評点

★★★★ 冒頭の展開は意表を突く。(小林)
★★★★★ ブルースに対する制作スタッフの愛を感じる。(飛田)

<<BACK  NEXT>>

 MUDDY WALKERS◇