MUDDY WALKERS 

銀河鉄道物語

 銀河鉄道物語(2003)各話レビュー

 第14話「絆」(ドレイク大統領暗殺未遂事件)


あらすじ

 クラリオス星団共和国大統領の護衛を命ぜられた学とルイは共同して大統領護衛の任に当たる、実の父親を護衛する任務にルイは逡巡する。

 Aパート: ルイの護衛任務、大統領襲撃
 Bパート: 父親との対面、クラリオス軍縮演説

コメント

 今回学たちが護衛するのはルイの父親「クラリオス星団共和国大統領」。大統領なのに閣僚の一人も同行せず、夫人以外で人間は秘書だけ、護衛はサイボーグという様子を見ると、これはなかなかの独裁者、イラクのフセインやエジプトのムバラク、ムカベの同類と思われるが、どう見てもハリソン・フォードにしか見えない大統領の容貌から、モデルが「エアフォース・ワン」とも分かる回である。やはり映画のアーノルド・シュワルツェネッガーに似た容貌のSPをズラリと並べ、「SDFの護衛など必要ない」と言い放つドレイクだが、この大統領なら護衛などいなくてもテロリストなど一人で粉砕したに違いない。
 マッチョすぎる父親に愛想を尽かし、家出してSDFに入隊したルイだが、任務を通じ、父親が自分に見せていた姿は実は仕事で家族を省みることができなかったからで、愛情に欠けていたわけではなかったことに気づく。ルイを庇ってテロリストの銃弾を受けた大統領だが、それは政治家ではなく父親としての姿だった。
 話は変わるが、この作品、やはりアニメーターの力量不足を感じる。「エアフォース・ワン」は話は荒唐無稽なものの、大統領とその周辺についてはリアリティを追求した映画だった。それはセットの作り込みなどに現れているが、銀河鉄道物語の絵にはそういう意味での作り込み、ドラマ性、熱意が欠けているのである。ディグニティは少しも貴賓列車らしくないし、大統領の周辺もこれが理想を追求する人物のそれにしては殺伐としすぎている。大統領専用列車はアメリカのそれ(プレジデンタル・レールカー)もあり、実際の列車を参考にすることもできた。
 なお、リンカーンのゲティスバーグ演説がペンシルバニアに向かう列車の中で執筆されたことは有名な話である。ここで演説草稿を失ったドレイク大統領が溜め息をついた後、食堂車のテーブルでペンを取り、スラスラと演説を書く場面を加えていたなら、この話はもっと格調高い話となっていたに違いない。リンカーンが最初に書いた草稿は揺れる列車により1枚目はインクが掠れ、2枚目は鉄道会社の便箋に鉛筆で書かれていたのだから。
(レビュー:小林昭人)

今週の被害車両

  ■銀河鉄道125号(ディグニティ)・・・サイボーグSPの裏切りで特別車両全損

作品キャラ・用語紹介

クラリオス星団共和国 
 今回初めて登場した銀河鉄道の沿線にある星間国家。銀河鉄道は超国家的組織のため、その設立準拠法や事件の際の裁判などの基準が明確でないが、この国家は銀河鉄道とは別に独自の政府や法を持ち、銀河鉄道は恒星間移動の利用手段にすぎないと考えられる。同様の国家は銀河鉄道の沿線に無数にあると思われるが、クラリオス以外で登場した国家はなかった。しかしながら、大統領令嬢でありながら家出したルイ(未成年)が親権者の同意もなく、旅券の呈示やクラリオスの住民票も提出せずにSDFに入隊し、そのまま正規隊員になっていることについて外交ルートで抗議もしていないことから、その主権も行政も現在のそれに比べればかなりアバウトであると考えられる。

ドレイク大統領  CV:ささきいさお
 ルイの父親のクラリオス星団共和国大統領、仕事の鬼のような人物で、娘のルイとは確執がある。一部では軍備縮小の演説をするなど理想化肌の善良な人物に見えたが、二部で明らかになることとして実はかなりの長期政権で、ルイは物心付いた頃から縁談など権力に擦り寄るおべっか使いの追従を受けていた。このことからも在任期間は第14話の時点で軽く十年は超えており、実態としては「エアフォース・ワン」のマーシャル大統領よりも北朝鮮の金一族やアフリカや中東の独裁者の方が近いと思われる。そのため暗殺を極度に警戒しており、避難した食堂車の砂糖には口を付けず、護衛も信用できる護衛官をサイボーグに改造したサイボーグSPのみと徹底している。また、執務中に襲われた時に備え、銃弾よりも速くバリアーのボタンを押すためゲームウオッチを毎日特訓しているが、それは夫人も知らない大統領の秘密である。家出した娘の素行により、共和国の歴史に残る感動的な平和演説からそう遠くない未来に政治とは縁もゆかりもないタビト星のラーメン屋の女主人と昵懇になり、夫婦揃ってラーメンを啜る大統領の勇姿が見られるはずだが、それは別の話である。

今週の裏切り社員

ディグニティ号車掌 CV:三宅健太
 銀河鉄道には前から安月給疑惑があるが、貴賓列車の車掌でありながらクラリオス星の軍需産業に買収されたディグニティ号車掌は、余暇でエステにすら行けない銀河鉄道の安月給とロボットに置き換えられるような単調な勤務に倦んだ典型的な銀河鉄道の裏切り社員である。サイボーグSPが斃されたことを知って単身大統領暗殺に向かった彼だが、ルイの機転で暗殺に失敗し、援護に来た戦艦もSDF随一の火力を誇るアイアンベルガーに撃破される。その後、列車に乗り込んだブルースらによって捕らえられ、テロリストを一掃した大統領は意気揚々と軍需産業撲滅演説の会場に向かった。銀河鉄道はステータス性の高い列車や重要人物の乗る車両には機械人間やロボットではなく地球型ヒューマノイドの車掌をあてがう傾向があるが、今回のように金で買収されたり、途中でへたれたりなど、殉職するまで任務に精励するロボット車掌と比べると、その爪の垢でも煎じて呑ませたい気分になる輩が多い。

カオルmemo

 シリウス小隊にクラリオス星団共和国大統領警護の任務が回ってくる。バルジ隊長は学とルイを派遣することを決める。列車の執務室に挨拶にゆくと、大統領夫人が家でした娘との思わぬ再会に声を上げた。ルイは大統領令嬢だったのだ。そんな娘にドレイク大統領はサイボーグSPに守られているので警護は必要ないと言い放つ。しかし突如サイボーグSPは制御を失い、学とルイは二手に分かれて大統領を守り切ろうとする。
 松本零士の女性キャラとしては異色ともいえる、きゃぴきゃぴ感のあるルイだが、どこか育ちのよさと図太さがあるなと思っていた。この話でその理由が明らかになる。本作のキャラはいずれも過去を背負った存在だが、彼女も例外ではなかった。バルジの仕事人間ぷりを心配したり、やたら休暇を取ることを勧めるのにも彼女なり思いがあったのだ。暴走するサイボーグSPを意外に手早くやっつけて、これはと思うとその次があり、ルイ本人が試されるという構成もいい。「君と俺とは逆だって言ってたけど、案外似ているのかもしれないな」。父に憧れた学と父に反発したルイ。動機は違うが親に背を向けて飛び出した思いは同じだ。自分の運命は自分で切り開く。二人が互いを意識するきっかけも、ここにあったのかもしれない。

今週のメンヘラ社長

今週もお休みです・・・



評点

★★★ 話の内容からして2話構成でも良かった話。(小林)
★★★ 好きな話だが、背景となる世界観の描き込みが足りない。(飛田)

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