MUDDY WALKERS 

銀河鉄道物語

 銀河鉄道物語(2003)各話レビュー

 「黄昏」(惑星アーベント疎開活動)


あらすじ

 母星が超太陽化した惑星アーベントの疎開に従事するシリウス小隊、灼熱の惑星で残った住民を探す学の前にあるはずのない清々しい光景が姿を現す。

 Aパート: 惑星アーベントの避難活動、草薙イネの家
 Bパート: 草薙マコトの死、惑星の最期

コメント

 銀河鉄道物語はストーリーの末尾に必ず次回の一カットが含まれるが、予告で時代がかった茅葺き屋根の家屋を見て、これが本当に未来の話かと思わせる第12話、学を案内したイネの家は昭和30年代どころか大正時代か戦前のようである。一人で小麦畑を守っていたというイネに彼は避難を言い出せず、話はイネのペースで進む。惑星は崩壊しつつあり、彼は何としても彼女を惑星から連れ出さなければいけないのだ。やって来たシリウス小隊の面々も巻き込まれ、ルイは学の婚約者、ディビッドとブルースは使用人と運転手、バルジは執事と誤解される。バルジに本当の息子(マコト)を連れて来て説得するよう求める学だが、息子は10年前の惑星アグリの崩壊で死亡していた。そしてイネは学をリンゴ樹のある丘に連れ出す。
 「集団幻覚か、、」、惑星を去る列車でブルースが呟いた言葉に学は握りしめたリンゴを見る。イネばあさんも彼らが見た小麦畑も全て幻影であった。しかし、惑星アーベントのリンゴは確かに彼の手にあり、彼らが見た光景もまた現実にあったことのように思えた。一人駅舎に佇む駅長とともに惑星は姿を消し、無人となった惑星アーベントは最期を迎える。
 全26話の中でもスタッフに天啓でもあったのかと思えるほどに台詞回しも無駄なく、演出もカットも適切で、この話のためだけに駆り出された大塚周夫(アーベント駅長)や麻生美代子(イネ)など古参声優の名演に加え、音響監督の塩屋翼が自らイネの息子マコトを演ずるなど、エンディングまで丸々つぶしてまとめた第12話は全26話の中でもスタッフの総力を結集した傑作回である。
 惜しむらくは映像でイネと小麦畑の消滅の際に駅舎や駅長のみならず惑星までもが消滅してしまうことで、惑星に染み付いた人々の情念が茅葺き屋根や草薙イネの姿となって現れたものという話は理解できるものの、それで惑星までもが幻覚であったという描写は冒頭と矛盾している。ここさえもっと抑制的に描いてさえおれば、12話はアニメ作品としてほとんど完璧な出来であった。
(レビュー:小林昭人)

作品キャラ・用語紹介

草薙イネ CV:麻生美代子
 居残り者を探す学の前に姿を見せた惑星アーベントの住人の老婆、アーベントは太陽が灼熱化し、その地表はすでに干からびているはずだが、彼女と彼女の周辺の小麦畑だけは清々しいかつての光景を保っていた。実は駅長同様の惑星アーベントの精霊で、彼女の姿を借りた精霊は学らに滅びゆく惑星のかつての姿を教え、学に惑星の記憶を受け継いだリンゴを渡した。

アーベントのリンゴ 
 草薙イネの所有地にある丘の上に立つリンゴの木は通常のリンゴ栽培のそれよりもかなり大きく、樹高十数メートルというかなりの巨樹である。通例リンゴの木の寿命は収量性が維持できる樹齢で30年程度、樹高も5メートルほどが最大であることから、これは地球のリンゴが他星系の植物と交配した宇宙生物であると考えられる。おそらくはアーベントの固有種。学曰くその果肉はかなり美味で、収量も多いことから壮年期の個体と思われる。惑星の滅亡と共にその果実は有紀学に受け継がれ、その種子は銀河鉄道株式会社の社員やSDF隊員により各地の惑星に植樹されていると思われる。

今週の殉職社員

アーベント駅駅長 CV:大塚周夫
 冒頭でバルジらに面会するアーベント駅の駅長、惑星から脱出する住民を列車に誘導している。膨張する太陽を見上げ、惑星はこの星の子供じゃないかと嘆く駅長だが、実は草薙イネ同様惑星の精霊の化身と思われ、本当に銀河鉄道の社員だったかどうかも疑わしい存在である。ラストは一人残ったホームで太陽に向かって敬礼し、惑星と運命を共にする。この部分の描写に筆者は不満があるが、演じた大塚周夫はさすがの名演で、台詞は僅かだがベテランの貫禄を見せつけた。

カオルmemo

 1年後には太陽に飲み込まれてしまう惑星アーベント。銀河鉄道の協力のもと住民の移送が行われる中、残留者がいないか確認するため巡回していた学は、一面小麦畑の広がる不思議な場所にたどり着く。そこに暮らすイネは学を惑星開拓のため旅立った息子のマコトと思い込み、学を探しにきたデヴィッドとルイ、ブルースとバルジ隊長も老婆の妄想に巻き込まれていく。
 イネに「執事」と呼ばれてジロリと学を睨むバルジに笑いがこみあげる。学以外の隊員をすべて学の使用人(ルイは嫁さん候補)と勘違いするイネとシリウス小隊の面々とのやりとりはコミカルだが、その結末は意外なものだった。本当のマコトさんから話してもらえばわかるはず、という学にバルジはマコトが既に死亡していることを伝える。「もうすぐ消えちまうんだな、この風景も」「それが、運命だ」。デヴィッドとブルースの会話をよそに、学に故郷の風景を見せに行くイネ。死んだ父さんに「どんどん似てきた」という老婆の言葉は、母の反対を押し切ってSDFに入隊した学がなにより母から聞きたかった言葉ではないか。息子が死んだことも消え行く星の運命もイネは知っていた。その運命の中で人は何を残すのか。「残照」「慕情」そしてこの「黄昏」と続くテーマがそこにある。

今週のメンヘラ社長

今週もお休みです・・・



カオルのひとこと
 ブルース回(9話)、バルジ回(11話)などに登場しないことからすると、メンヘラ社長はどうやら学以外の社員の運命には興味はないようです。むしろ学をストーキングしているかのように思えてきました。イネばあさんが惑星アーベントもろとも消え去ったのは、イネが過干渉気味に学のパンツを脱がすなど破廉恥な行為に及んだことがメンヘラ社長の逆鱗に触れたからかもしれません。恐ろしや〜・・

評点

★★★★★ 銀河鉄道物語のベストエピソード。(小林)
★★★★★ 「ありがとね、ありがとね」というイネに涙がこみあげる。(飛田)

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