MUDDY WALKERS 

銀河鉄道物語

 銀河鉄道物語(2003)各話レビュー

 第11話「慕情」(隊長バルジの休日)


あらすじ

 本部でルイが飾ったスズランに隊長バルジはふと顔を曇らせる、スズランはバルジのある思い出と、辛い記憶を思い起こさせるものであった。惑星コルネリアでバルジのかつての恋人カタリナに会った学とルイは彼女がまだ恋人を待っていることを知る。

 Aパート: バルジの思い出、コルネリアの女
 Bパート: カタリナとの出会い、別れ

コメント

 銀河鉄道物語は単に戦いの話ではなく、鉄道会社に勤務する社員たちの話ということで中盤は休暇のエピソードがいくつかある。今回は隊長バルジで、任務で訪れた惑星コルネリアで別れた恋人を思い出す。バルジの恋人カタリナはかつての事故で有紀渉が救い出した乗客の一人であった。渉の紹介でカタリナとの仲を深めるバルジだが、第1話の事件と渉の殉職が二人を引き裂く。
 銀河鉄道には前から安月給疑惑があるが、ルイの休暇申請を前に「休み中はすることがない」、「映画やお稽古など(ルイが過ごすような)」を自分らがやったら「1年かかる(1年分の給料でも足りない)」と言っているディビッドとブルースに申し分のない社畜ぶりを感じる。その代表が隊長バルジで、彼は入社以来一日しか休暇を取ったことがないのだ。その唯一の例外が、タビト事件の直後に彼が恋人のために取った1日であった。が、直後の事件で渉が殉職したことにより、別れ話を切り出されることを恐れたカタリナは手紙を置いて姿を消す。訪れたバルジは去り際に彼らを見守っていたボーイからカタリナに求婚したことを知らされる。
 第1話で殉職したためにその人となりが明らかでない学の父渉の実像も明らかになるエピソード、冒頭で宇宙海賊と銃撃戦をしたり、燃える列車に飛び込んで乗客を救出したり、学の父は妻のラーメン店と息子たちを置き、結構壮絶な人生を歩んでいたようである。 (レビュー:小林昭人)

作品キャラ・用語紹介

カタリナ CV:田中敦子
 数多い銀河鉄道の大惨事、プロキオン軌道変異事件で有紀渉に救い出された事件唯一の生存者。生還後は渉の勧めで料理学校に通い調理師の資格を身につける。その際にバルジと知り合い、彼の恋人になる。料理人としての腕は確かだが、やや早合点な所がある女性で、タビト事件の直後にバルジの前から姿を消す。実は渉の殉職によりバルジは求婚の意思をより強固なものにしていたが、事件を知った彼女が思い描いた彼の心情はまさにその真逆であった。描写を見るにボーイの求婚は受けず、惑星コルネリアで料理店を開業して彼を待っていると思われる。電話の呼び鈴でSDFのスクランブルを勘付いたり、有紀学を見て彼が渉の息子であることを見抜くなど勘の良い女性だが、自他共に認める朴念仁で勘の悪いバルジとの関係では、その勘の良さが災いしたように思われる。なお、微妙なすれ違いで別れたこの二人の関係の伏線は最終回まで回収されることはなかった。

結婚指輪 
 惑星クレズナードのホテルで待ち合わせていた恋人カタリナのためにバルジが購入した大粒のクリスタルの指輪。カットの形状と、石は見たところ有色なのでサファイアかエメラルドと思われる。普通、結婚指輪は永遠の愛の証として最も硬度の高い宝石であるダイヤモンドが選ばれるが、欧米の慣習として先に母親の指輪を贈っている場合、重複を避けるためにあえてダイヤ以外の石を選ぶ例もある。バルジの場合、母親の指輪まで贈ってあの場で引き下がることはありそうになく、また社長すらスクール水着で経費節減に努めている銀河鉄道の安月給ではダイヤは小さいのしか買えないので、おそらくディスティニー駅の百貨店で買える、いちばん大きく目立つ石をキヌコばあさんに選んでもらって購入したというのが最もありそうな話である。

モデスティの女 
 ブルースの言による、実は脚本家による少しひねり過ぎの作中用語。「モデスティ」とは植物や銀鉄に数多く登場するどこかの惑星名ではなく、実はスズランの花言葉で、「謙遜」、「慎み深さ」を表している。スズランの花を見てバルジが憂いを帯びた表情をしたのを見た彼が花言葉から隊長に似合いそうな女性像を想像して言葉にしたものと思われる。曰く「慎み深い女」、いかにもビッグワンを取ったら何も残らない亭主関白のバルジには似合いそうな女である。このビッグワン戦闘隊長による小難しい言い回しは以心伝心のシリウス小隊ではバルジ以外に直ちに伝播し、以降カタリナは「モデスティの女」とディビッドやルイらに呼ばれることになったが、見ての通り作品の表現としてひねり過ぎのため、大方の視聴者は「ルイの飾った宇宙生物である植物の名」、「モデスティ星の女」と取るに違いなく、11話では場所や時系列が見えにくいシナリオの進行とも相まって、別段そう取っても問題ないものになっている。

カオルmemo

 立ち往生した列車の乗客を代替便に乗り換えさせるため惑星コルネリアのホテルに護送したシリウス小隊。カタリナの店で学と食事をしたルイは、窓際に飾られたスズランに目を留める。それは出動前、バルジ隊長が何かを思い出すように見つめていた花だった。
 カタリナはかつて渉が大事故から奇跡的に救出した少女で、いつもスズランのブローチを胸につけていた。渉の紹介で彼女に出会ったバルジは交際を申し込み、忙しい勤務の傍ら逢瀬を重ねる。しかし緊急出動で誕生日のデートに間に合わず、一夜をともにする中呼び出されたこともあった。それでも彼女を愛するバルジは求婚の決意を固めて休暇を取るが、そのとき、渉が殉職することになる大事故が起こる。
 「きれいな人だったなあ」、カタリナを思い出す学に「諦めなさい」と諭すルイがいい。「彼女は誰かのことを待ってるわ。宇宙のどこかに余程愛した人がいるのよ、きっと」。どうしてルイに分かるのさ、という学に取り合わす、彼女はさりげなくバルジに休暇を取るよう勧める。男心が分かるデヴィッドとブルース、女心のわかるルイ、どちらも分からないのは学だけだが、バルジは良い隊員に恵まれたものだ。デッキに佇むのバルジの背には、いつ果てるとも知れぬ慕情が溢れている。

 

今週のメンヘラ社長

今週はお休みです・・・



評点

★★★ 別れ話としてはやや無理があるが良い話。(小林)
★★★★ 時系列がわかりにくければ、バルジの額の傷に注目するとよい。(飛田)

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