MUDDY WALKERS 

銀河鉄道物語

 銀河鉄道物語(2003)各話レビュー

 第10話「分岐点」(アルファ32分岐点囚人脱走事件)


あらすじ

 アルファ32分岐点で囚人が脱走し、駆けつけたシリウス小隊がステーションに乗り込む。セクサロイド・ユキと組んだ学は自身の生死に無頓着なアンドロイドに疑問を持つ。

 Aパート: 囚人脱走、ビッグワン到着
 Bパート: 囚われたユキ、学の決意

コメント

 第1話で有紀渉のシリウス小隊に乗り組んでいた隊員は本作ではバルジ以外姿を見せないが、機関車ビッグワンの「備品」としてオペレータを務めていたユキはこの時もおり、本作の世界でも医者ロボットとして乗り込んでいる。医者としては高潔かつ無私で、自身の危険も顧みず負傷者救援に身を挺する姿に心を打たれるが、それは彼女が自分を「機械」と自覚しての行動だった。シリウス小隊のパーティーに参加することを拒む彼女に学は自分たちとの間にある壁を感じる。
 折しも囚人脱走事件があり、学はユキと共に脱走犯を追跡して対峙する。卑劣な策略を弄する機械人間にユキを人質に取られた学はついに銃の引金を引く。それは機械であっても自身が「仲間」と認めた彼女を救うための窮余の行動だった。
 ついにやってしまったな、という学の犯人射殺劇、視聴者としてはやや残念だが、そこはシノギ社会の銀河鉄道、極妻社長のレイラによれば、アタマを取った彼は一つ成長したらしい。ユキはおそらくあの場所で凶漢に破壊されても修繕は可能だったと思われるが、学に守られたことで彼に特別な感情を覚える。ディスティニーに帰還した学はバルジによる冷凍食品(ピザ、焼きそば、フライドポテト)ばかりのパーティーに出席するが、そこには盛装したユキの姿もあった。
 銀河鉄道物語の場合、ストーリーや声優の演技、音楽はこの時期の松本作品としてはかなり良い線行っていると思うが、惜しむらくはアニメーターがそれに追いついていないことである。重要人物でありながらほとんど止め絵で済まされている社長レイラと同じく、このアニメーターは線が細く髪の長い松本美女は明らかに苦手としており、典型的な松本美女のユキも本来の魅力を十分出し切れていない恨みがある。これが80年代の作画だったら、このエピソードはより品良く、印象的なものになっていたに違いない。 (レビュー:小林昭人)

今週の被害車両

  ■銀河鉄道087号(囚人護送列車)・・・囚人脱走により小破

作品キャラ・用語紹介

機械人間 
 前作、銀河鉄道999では主人公星野鉄郎と対置される存在であった体をサイボーグ化した元人間。鉄郎はこの改造手術を受けに謎の美女メーテルと共にアンドロメダに向かうのが物語の主な筋である。メンテナンスが続く限りほぼ無限の生命力を持つが、物語では否定的に描かれており、本作でも機械人間の銀河鉄道社員は一人も出てこない。999では機械の体を除けばその能力は普通人類と大差なく、加速装置や怪力など超能力も備えていなかったが、本作では改造により夜目が利いたり、ロープで数十メートルをよじ登るなどの能力を持ち、捕縛に当たったバルジらを手こずらせた。

セクサロイド・ユキ  CV:鈴木菜緒子
 医療ロボットとしてシリウス小隊に配備されている女性型アンドロイド、高度な知性と自我を持ち、その医療技術は人間の医者を遥かに凌いでいる。物語では「セクサロイド」と呼ばれているが、「セックス」と「アンドロイド」をもじったこれは原作者の松本零士が売れっ子になる前に描いていた数多い日陰マンガの一つ「セクサロイド」に登場する未来の性欲処理用ロボットから取ったものである。同様の作品である石森章太郎の「009ノ1」と同じくやや気恥ずかしい語感があり、本作でも登場するたびに選挙運動のように連呼しているのは当の本人のユキだけである。他の隊員や乗客からは単に「ロボット」と呼ばれている。華奢な外見に似合わず強靭なボディを持ち、16話では高空からのダイブで救難艇から転落した乗客(大山)を救出している。固有の武装や必殺技、飛行能力こそないが、数百メートルを転落して地上に激突しても不死身で、身体能力も仮面ライダー並みと思われる。実は社長レイラの友人。
 なお、ユキは当人の言によれば量産型のロボットで、破壊されても補充の個体があるという話だが、作品ではどう見てもそのように見えず、ユキ以外の同型ロボットが他の小隊に配備されている描写もない。後の話で実は量産型ではなく一品物で、松本零士の現在は裁判に負けて著作権を主張できないある作品(宇宙戦艦ヤマト)に登場する女性ヒロイン(森雪)の人格を受け継いだロボットと述懐している。その流れでは宇宙戦艦ヤマトのアナライザーが先祖として適当だが、この辺の話は制作に介入した老松本の世迷い言として、後の話同様無視するのが適当である。が、この余計な一言のせいで、後のユキは医者のみならずシリウス小隊の戦闘オペレータまで務めることになった。画面では活写されなかったが、モデルが森雪とすると、医者とオペレータと仮面ライダーのほか、任務中のシリウス小隊隊員の炊事洗濯や畑作も彼女の担当と思われる。

今週の殉職社員

アントニア人SDF隊員
 銀河鉄道に地球人型以外のエイリアン社員がいることは前作999で明らかであるが、囚人護送を担当していたアントニア人隊員もその一人である。機械人間の囚人を護送してアルファ32分岐点に到着するが、反抗した囚人によってコスモガンで射殺される。その血液は強い毒性を持っており、触れるもの全てを腐食させ、生物の場合は死に至らしめる。囚人の一人ライザに付着し、溶解した緑色の皮下組織は学らの囚人追跡の手掛かりとなった。

カオルmemo

 アルファ32分岐点で囚人列車から4人が脱走。シリウス小隊に出動命令が出る。囚人はアントニア人を殺して銃を奪うが、そのとき女囚が強酸の返り血を浴びる。デヴィッドとルイ、バルジとブルースはそれぞれ単独で逃亡していた囚人を捕らえる。学とユキは血の跡をたどって2人の囚人を追いつめるが、酸の血を浴びて死線をさまよう女囚を手当しようとするユキを囚人の男は人質に取り、学に銃を捨てさせる。
 自分はアンドロイドであって人間の仲間ではないと考えているユキ。任務への忠実さゆえ人質に取られたユキを助けるため学は銃を捨てるが、最後にはそれを拾って発射した。「後悔しているか」。その問いに「後悔していません」と答えた学に、はじめてブルースは「有紀」とその名で呼びかける。ユキを仲間として守り切ったことで、ブルースは学を相棒と認めたのだ。
 よく出来た話だが、学が「銃を撃たない」という信念に固執しなければ女囚は助かり、ユキも撃たれなかった。女囚はいわば、学の友愛を際立たせるために仲間の囚人の手で殺されたようなもので、1人で済む犠牲が2人になったと考えると腑に落ちない話だ。ドレスアップしたユキが加わる最後のパーティ場面が救いとなった。

今週のメンヘラ社長

あなたはまた、
自らの手で運命を切り開いた。
あなたは。

カオルのひとこと
 学が銃を撃った! 「アルプスの少女ハイジ」における「クララが立った!」のような位置づけなのでしょうか、メンヘラ社長にとっては。運命通りなら銃を撃たない学が撃たれてTHE END…、人の命をもてあそんでいるように思えるのは、私だけでしょうか?

評点

★★★ ユキの尻アップは2回目だが、これは減点事由。(小林)
★★★ 銃が絡むとややわざとらしい話になる。(飛田)

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