MUDDY WALKERS 

銀河鉄道物語

 銀河鉄道物語(2003)各話レビュー

 第9話「記憶の回廊」(ブルース・J・スピード記憶喪失事件)


あらすじ

 アリアドネ分岐点の電磁障害で惑星ディオに立ち寄ったビッグワン一行はそこで記憶を盗む妖精サライの伝説を耳にする。そんな折、ブルースの記憶がサライに盗まれる。

 Aパート: サライの伝説、盗まれたブルース
 Bパート: ディビッドの賭け、オーウェンの死の記憶

コメント

 「思い出したくない話」は誰にでもあるものであるが、その記憶が失われてしまったらどうなるかという話。任務に厳しく、何かと学に辛く当たるブルースだが、元々は陽気なプレイボーイで、ある記憶が彼の心に暗い影を落としていた。が、妖精サライは彼のその記憶をきれいさっぱり盗み去ってしまう。
  「あんなの本当のブルースじゃない!」と、ブルースの記憶奪還に奮闘する学を見るとマゾ体質かと思うが、「思い出したくない」を本当に失ったらどうなるかという問いかけは視聴者にも考えさせるものである。サライから記憶の入ったクリスタルを取り返したブルースは記憶を蘇らせようとするが逡巡し、学の叫びでクリスタルを割り、同僚オーウェンの記憶を取り戻す。「傷跡が消えちまうと、落ち着けない奴もいるのさ」、ブルースの記憶が戻ったことに安堵するビッグワン一行とは裏腹に、自ら頼んでサライに記憶を盗まれた女性はふさいでいた。
 「忘れたい話」は実は大事なものである。一人の人間が人生で経験できることはあまりにも少ない。心に痛みを覚える記憶はその痛みを通して人と人をつなぎ、他者への共感に導く媒介となる。おそらく「痛み」があるからこそ、人は進歩し、前に進むことができるのだ。社会全般に人の痛みに対する共感が欠けていると感じる今日この頃だが、「痛み」を背負って生きる人間は、そうでない人間よりも明日にはより近い場所にいるはずである。
(レビュー:小林昭人)

作品キャラ・用語紹介

サライ CV:加藤奈々絵
 惑星ディオに住む伝説の妖精、少年の姿をしており、テレポーテーションのほか、人の記憶を盗んで結晶化させる能力を持つ。伝説化した存在のため、寿命や生物か否かさえ分からないが、銀河鉄道の社長レイラと同じく人間外で、半神化した超生命体と思われる。記憶を盗むという特技から、いっそ最終話付近のアルフォート星団帝国との決戦でもフォレシス将軍から不穏な侵略願望を盗んでくれれば宇宙は平和、ビッグワンの活躍もなかったと思われるが、最終話で銀河鉄道の社長レイラがサライを乗せた特別列車を仕立ててアルフォート軍に突撃させることもなかった。ブルースや心に傷を持つ人々の記憶を盗むことで、自身は善行を施していると思っている。ディビッドとの賭けに負けたことで盗みを止めたとされるが、その存在自体惑星ディオの名物で、いい歳をしたバーテンすら知る観光産業の目玉のため、ビッグワンが去った後も地元住民の懇願により特殊能力を披露し続けていると思われる。

今週の殉職社員

オーウェン CV:石田彰
 かつてブルースの部下であったSDF隊員。現在の部下の有紀学より経験豊富な隊員で、「不死身のオーウェン」の仇名を持つ。シリウス小隊に配属後、ブルースと共に任務に従事していたが、とある事件で暴漢に刺殺されて殉職する。「死神」のジンクスを盲信しているブルースをあざ笑い、ただのブルースに引きずり降ろしてやると豪語していたが、自身が殉職したことでショックを受けたブルースの盲信はさらに強固になり、有紀学曰く迷信にまでなることになった。

カオルmemo

 惑星ディオで足止めされたシリウス小隊。休暇を与えられて羽根を伸ばす彼らは、住民から記憶を盗むという妖精サライの伝説を聞く。その夜、酔いつぶれたデヴィッドをよそに一人佇んでいたブルースが、翌朝まるで人が変わったように明るくなる。殉職した相棒オーウェンの記憶を失ったのだ。しかし心が軽くなったのもつかの間、落ち着かないブルースは失った記憶を取り戻すため、デヴィッドとともにサライを探し始める。あと9時間で惑星ディオを出発すると告げた隊長に、学はこのままでいいのかと食ってかかる。そんな学にバルジは言う。「俺たちに出来ることは何もない。記憶を取り戻すかどうかはブルース自身の問題だ」。
 6話で学に謹慎を言い渡したときもそうだったが、隊長バルジは個人の意志を尊重することを常としている。「俺たちに出来ることだってあるはずだ。それに、あんなの本当のブルースじゃない」と決めてかかる学とは対照的である。隊長は学と違い、死神と呼ばれる以前のブルースも知っているだろう。その上で、自身を苦しめる記憶が本当に大切なものならば、ブルースは取り戻そうとするはずだと思っているのだ。その器の大きさが隊員たちの個性を引き立たせ、輝かせている。

今週のメンヘラ社長

今週はお休みです・・・



評点

★★★★ ブルースの内心に踏み込んだ話だが、考えさせるエピソード。(小林)
★★★★ 難しいテーマを妖精の働きによって寓話的に表現し、成功している。(飛田)

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