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銀河鉄道物語

 銀河鉄道物語(2003)各話レビュー

 第8話「残照」(ペガサス・エクスプレス遭難事件)


あらすじ

 研修で操車場で働く学は頑固な整備主任ホイットマンの厳しい指導を受ける。そんな折、ホイットマンの出身星ロザムンドで観光列車ペガサス・エクスプレスが遭難し、ホイットマンと学は秘蔵していた機関車825号で救援に向かう。

 Aパート: 学の整備研修、ペガサス・エクスプレス遭難
 Bパート: 825号出場、ホイットマンの最期

コメント

 通常会社の社員研修と言えば半分物味遊山の楽しいものもあるが、ブラック企業銀河鉄道株式会社ではそんなことはなく、意固地な整備士ホイットマンの下に配属された学は老整備士の鉄拳制裁と説教で腐っている様子である。ホイットマンは惑星ロザムンドの出身で、惑星の崩壊で家族を失い、唯一残った旧式機関車825号のみが彼の生きがいであった。が、825号は解体処分されることが決まっていた。
 一方、ホイットマンの元故郷ロザムンドでは観光列車ペガサス・エクスプレスが観光客を乗せ、崩壊した惑星で物味遊山を楽しんでいた。ロザムンド星は強い磁気を持つ惑星で、崩壊後もその磁場と鉱物組成で独特の奇景奇観を呈し、観光名所となっていたのである。が、列車は特殊磁場で制御不能に陥って遭難する。シリウス小隊が救助に出動するが、惑星の強い磁場に到着したビッグワンも走行を停止してしまう。そこに特殊装備を施したホイットマンと学の825号が駆けつけ、列車を救出する。
 「旧式機関車」825号の外見がディーゼル機関車であることに少し驚く。作品に登場する銀河鉄道の旗艦列車(999)やSDF小隊の列車は蒸気機関車をモチーフにした車両が多く、史実のディーゼル車はそれらに取って代わった新型機関車であるが、2000年代の作品である銀河鉄道物語の時代ではこれらもすでに旧式で、むしろ蒸気機関車であるビッグワンの方が新型として設定されるという逆転現象が生じている。
「頼んだぞ、学」、825号で学とホイットマンが出場したという知らせを受けたブルースは初めて学を信用する言葉を発する。何か思うところがあり、隊員の中でも孤高を保っているように見える彼だが、不器用な表現がその人柄と学に対する信頼が進んでいることを暗示させる。
(レビュー:小林昭人)

今週の被害車両

  ■銀河鉄道227号(ペガサス・エクスプレス)・・・磁気嵐で走行不能
  ■機関車825号・・・救難作業中に磁気嵐を受け小破

作品キャラ・用語紹介

機関車825号
 ホイットマンが猫可愛がりしていた旧式の銀河鉄道機関車、作品の紹介では「825号」は客車貨車も含む列車の識別名(「のぞみ203号」、「特急スーパーあずさ5号」など)で、特定の機関車を表す番号ではないはずだが(機関車ならば「DD51(型式名)」、「1137(製造番号)」で、「DD51 1137」と表記される(例・トワイライトエクスプレス))、825号の場合は製造番号が車両に表記されず、デッキに通常の列車と同じ丸型のプレートのみが与えられている。惑星ロザムンドの事件があまりにも悲惨であったため、銀河鉄道は825号を永久欠番としており、ホイットマンの機関車は惑星の崩壊を生き残った機関車貨車の中で唯一残った車両と思われる。特殊なロザムンド星での運用に対応するため、旧式ではあるが ビッグワン以上のシールドを持ち、比較的小型の車両であるが、牽引力も現用機関車に劣らない。

銀河鉄道227号(ペガサス・エクスプレス)
 惑星ロザムンドを周遊する銀河鉄道のクルーズ列車、乗客にはロザムンドの奇景奇観を眺めながらのディナーが供される。なお、戦争体験者である松本零士の場合、こういうレストランには贅沢と腐敗の象徴として「スパゲッティ・ナポリタン」が供されるが、21世紀の作品ではこんな場末の喫茶店メニューは出ない。代わりにカレーライス(らしいメニュー)が供されている。モデルは言うまでもなく当時のJR西日本の寝台列車「トワイライト・エクスプレス(TWE・運賃4万円)」だが、2003年では垂涎の豪華列車だったこれも、現在では比較にならないほどの超豪華列車「トワイライト・エクスプレス瑞風(瑞風・料金120万円)」に取って代わられている。当時のTWEや北斗星(JR東日本 )はそれでも乗客を上野や大阪から札幌に運ぶ定時列車だったが、現在の瑞風は純然たるレジャー目的のためのクルーズ列車である。客車は匠の技を寄せ集めた芸術品で、始発駅にはラウンジが作られ、発車には瑞風専用のBGMが作曲されて著名バイオリニストによって演奏されるなどサービスの質も桁違いである。食事もTWEは「フランス料理(JR謹製)」だったが、瑞風では三ツ星レストランのオリジナルメニューを料理人が出張して振る舞っている。が、原作松本零士で意識が2003年の銀河鉄道物語では、このような列車は想像さえできないものだったようである。

今週の殉職社員

ホイットマン CV:青野武
 ディスティニー駅操車場で整備主任を務める老整備士、惑星ロザムンド出身でかつては同駅で整備士を務めていた。825号は彼が初めて整備を任された機関車である。惑星の崩壊で駅は失われ、本部の整備工場でビッグワンなどSDF諸車両の整備を行っていたが、ペガサス・エクスプレスの遭難で意を決し、管理局の指令を無視して825号でロザムンドに向かう。825号の特殊装備を活用し、ビッグワンですら近づけない惑星で見事列車を救出するが、その際の電撃で感電して殉職する。彼の死後、廃車予定だった825号はディスティニー駅に永久保存され、彼の功績と惑星ロザムンドの記憶を人々に伝えることになった。

カオルmemo

 ・・・一粒の麦が大地に落ちるとき、誰がその音を聞くのだろうか?・・・「一粒の麦は、地に落ちて死ななければ、一粒のままである。だが、死ねば、多くの実を結ぶ」とは聖書の中でイエスが語る言葉である。自身の運命を一粒の麦にたとえて話したが、聞いている弟子たちにはちんぷんかんぷんであった。今私たちが、本作のナレーションを聞いてイメージを広げることができるのは、まさにイエスがそれを行動で示したことと、そこから受け継がれたスピリットの積み重ねによるのである。
 研修で老整備士ホイットマンにしごかれる学。そんな折、豪華列車ペガサス・エクスプレスが惑星ロザムンドの水琴窟内で制御不能に陥り、学抜きのシリウス小隊が出動する。しかしビッグワンも磁気にやられて走行不能となる中、故郷での事故を知ったホイットマンは相棒というべき機関車525号を駆って救援へ向かう。「人を助けるのに、理由がいるのか?」、どうして俺についてきた、と聞くホイットマンに学は答える。その言葉が老整備士の心に刺さったことは間違いない。故郷の危機に「誰も助けることができなかった」とその思いを吐露した彼は、その無念を晴らすかのように最後の命を燃やす。そして誰も助けられなかった自らの人生を、最後の最後で変えたのだった。

今週のメンヘラ社長

美しきもの、天空を駆けるペガサスよ、
その翼は折れ、土にまみれるだろう。



カオルのひとこと
 総司令は経営者というよりは預言者か占い師のように見えるのですが、ペガサス・エクスプレスが遭難することを予見していながら「運命に委ねる」のが通常運転です。

評点

★★★★ 救援に向かう825号は心躍る場面(小林)
★★★★ ようやく「らしさ」が出てきたお話。(飛田)

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