MUDDY WALKERS 

銀河鉄道物語

 銀河鉄道物語(2003)各話レビュー

 第6話「闇の慟哭:前編」(特急323・224・811号爆破事件)


あらすじ

 突如として銀河鉄道の列車を襲った爆弾テロ事件。凄惨な現場に動転した学は錯乱し、バルジに任務を外される。

 Aパート: 特急323号遭難、学錯乱
 Bパート: 学謹慎、ショウとの出会い

コメント

 「人は皆、幸せを探す旅人のような、、」、以前の999の主題歌から取ったナレーションだが、これまでの話を見る限り、冒頭から少々頼りない印象である。どうもスタッフがこの作品で語るべきテーマをまだ掴んでいないのではないか、そんな感じに思える始まりだが、実はこの物語全般の流れを変える転轍手と言える回である。
 冒頭はホログラム室での学の訓練シーン、相変わらず素手でテロリストと対峙する学にブルースは呆れるが、追い打ちを掛けるのは続く323号の遭難事件で大量の死体を見た学が父や兄の死を思い出して動転し、そのまま錯乱するシーン。ここでこの物語のスタッフが2話から手を替え品を替え、何とかして視聴者に説明しようと苦慮しているもの、主人公有紀学の持つ死への畏れを感じ取ることができる。おそらくこれがバルジやブルースが学をSDF隊員として不安を感じている理由であり、この物語の前半分はこのトラウマを克服する有紀学の苦闘が描かれることになる。タイトルの「闇の慟哭」は事件を起こしたテロリスト・ショウの悲惨な境遇を指しているが、一方で主人公の心の奥底にある闇をも示しているのである。
 学の場合、父も兄も明確な死の場面がなく、肉親の死は銀河鉄道からの連絡で知るのみであった。特に父親は休暇で帰宅した半日後に殉職しており、こういう事情では彼が決定的な終わりである死について受け容れることを拒み、自分にも他人にも認めたがらない心境は理解できる。そして、323号の事件では誰一人救い出せず、現場で死以外のなにものも見いだせなかった彼の心は破綻するのである。
 バルジに小隊の任を外された彼の焦燥をよそに、銀河鉄道を狙う爆弾テロは続いている。323号に引き続き224号、811号が爆破され、シリウス小隊とビッグワンは通信途絶したアディロス分岐点にスクランブルする。
(レビュー:小林昭人)

今週の被害車両

  ■特急323号・・・全損、生存者1名
  ■特急224号・・・全損、生存者なし
  ■特急811号・・・全損、生存者なし

作品キャラ・用語紹介

FW−308
 以前の銀河鉄道で制式採用されていた大型拳銃、外見は松本作品では有名な「戦士の銃」に酷似しており、同銃のモデルとなったコルト・シングルアクションアーミーに似た外見である。第11話では副官時代のバルジがこの銃で射撃している場面が見られる。作品の時代ではより小型の新型銃(モデル不明)に置き換えが進んでおり、作中でこの銃を携行しているのは学一人である。元は渉の銃であるが、生産中止で部品のサポートが終了しているのか、1話の戦いで損傷したのか不明だが発砲はできなくなっている。24話で修理したと思しき場面があるが、結局、最終回まで一度も撃たれなかったので、学がこの銃を撃つ場面はオープニングの場面だけである。銃としては使えないのでテロリストを殴りつける鈍器とか、突きつけて相手を威嚇するといった用途に使われることが多い。バルジとの会話から、この銃を知らないブルースとディビッドは第1話の事件以降に入社した銀河鉄道の社員で、見た目と異なり社歴は10年以下と案外浅いことが分かる。

カオルmemo

 列車爆破事件が発生し、現場に駆けつけたシリウス小隊。漂う無数の遺体を見た学はパニックに陥り、バルジ隊長から無期限謹慎を言い渡される。ベガ小隊、スピカ小隊、そしてシリウス小隊が真相解明に動き出す中、学は絹子おばさんの計らいでベンダーのショウと言葉を交す。
 撃てない銃で訓練シミュレーションをやりとげるも、ブルースに「甘いな」と突き放される学。その甘さとは何なのか。事故現場で過呼吸に陥る様子から、学がはじめて死の現実を目の当たりにし、激しい葛藤に襲われたことがわかる。それまで、学にとって死はただ父や兄が姿を消したということだった。しかしそれは英雄的な行為の結果であり、輝かしいものだった。そのことが、死の恐ろしさから学を遠ざけていたのだ。しかし現実は凄惨である。美しく輝かしい死はない、という事実が学の心を凍らせた。「よく考えるんだ、父と兄が命を落とし、そして殉じた仕事が本当に自分に勤まるかをな」と謹慎の理由を説明するバルジ隊長。学を気遣うルイはバルジの姿勢を問いつめるが、バルジは自分自身で決めなければ未練が残ると突き放す。死とは愛する者と自分の間を引き裂く闇。その暗さ、深さを知らなければ、立ち向かうことは出来ないのだろう。

今週のメンヘラ社長

立ち止まってはいけません、学。

あなたは、至純なる魂。


カオルのひとこと
 いつもは運命、運命といっている総司令ですが、学のこととなると、ちょっと違うようです。立ち止まらされている学に対して、立ち止まってはいけない、と。学だけは、運命に逆らうことを望んでいるようですが、一体この人にとって、学は何なんでしょうか?

評点

★★★ 作品のテーマがある程度明らかになる話。(小林)
★★★ 死の前に立ちすくむ学。ここからの展開に注目。(飛田)

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