MUDDY WALKERS 

銀河鉄道物語

 銀河鉄道物語(2003)各話レビュー

 第2話「時の結び目」(特急ハクバ550号脱線墜落事件)


あらすじ

 SDFに入隊し、惑星タビトからディスティニーに向かう学、が、彼の乗る特急列車は途中で次元断層に落ちて脱線し、タイムスリップして五年前の惑星ハクメイに辿り着く。そこは学の兄護が任務中に殉職した惑星だった。

 Aパート: 学の旅立ち、ルイとの出会い
 Bパート: ハクバ550号遭難、有紀護の死

コメント

 このエピソードはこの作品に必要だろうかと首を傾げる話である。主人公の学はまだ銀河鉄道本社に辿り着いてさえおらず、護の死は前話で母カンナへの電話という形で伝えられていた。前話で分かっている内容をわざわざ微に入り細に入り語る必要があるのかと思える話だが、良く見ると学の知る過去とは微妙な違いが見られる。まず、学の兄護は運命論者ではなく、未来から来た弟に真実を告げられた後も銀河鉄道の規則は守りつつも、自身の死と部隊の全滅という最悪の結末だけは回避しようと尽力した形跡がある。
 まず、特急ハクバのタイムスリップと宇宙海賊への攻撃よりも学たちの救援を優先した護の行動は本来の彼の時間軸にはなかったものである。それにより罠として待ち受けていた海賊の戦車はその存在を暴露され、SPGのカノン砲で全滅していることがある(学の話では全滅したのは海賊ではなく護たちである)。護自身はやはり殉職するが、この行動により彼の部隊は救われ、後に出てくるSPG隊長ヨハンソンなど死んでいたはずの多くの隊員が助かっている。護の意図は定かではないが、運命を知りつつも彼にはやはり生きる意欲があり、できる範囲で全力を尽くして運命を変えたと見ることもできる。ただ、運命の女神は全ての恩典を彼には与えなかった。
 海賊ガイサンダーに胸を撃ち抜かれ、母カンナの握り飯を口に事切れる護だが、学の記憶する過去には記されていないそれは、運命に抵抗した護に対する神の与えしマナ(Mana)、彼の行いが過去と現在、未来に対して決して無益ではなかったことを示すものだったのかもしれない。有紀学の兄、有紀護はその死によって周囲の人間の運命を変え、時の結び目を一つほどいたのである。父は銀河鉄道の使命の重大さを兄弟に伝えたが、兄は定まった運命に敢えて抗うことで、弟に運命を諦めないことを伝えたのである。
(レビュー:小林昭人)

今週の被害車両

  ■銀河鉄道550号・・・惑星ハクメイに不時着し中破

作品キャラ・用語紹介

ロボット車掌550号 CV:魚建
 特急ハクバの車掌を務める銀河鉄道のロボット車掌。銀河鉄道には999の車掌さんなど異星生物、地球人の車掌も多くいるが、銀河鉄道物語の時代では多くの列車がこのロボ車掌に切り替えられている。ひょうきんな風体にやや機械的な間の抜けた声で話すが、れっきとした人格を持っており、その頭脳は車両の運転のほか、膨大な銀河鉄道株式会社の社則を全て記憶しているほど優秀である。が、作品でのロボット車掌の殉職率は非常に高く、作品に登場したロボ車掌のおよそ半数がアルフォート兵の凶弾に倒れたり、腐食菌の餌食になるなど、人間ではないので特に念入りに残虐な殺され方をしている。550号は特急ハクバの車掌であるが、数多い同型ロボと異なり、大事故にも関わらず列車と共に生還 した強運の持ち主である。

銀河鉄道運行法第三十三条第二項
「タイムスリップした者は決して過去の事象に介入してはならない」と、規定する銀河鉄道法の一条文。父親の銃を渡した護や、カンナの握り飯を残した学の行動は明らかにこの条文に抵触しているはずだが、作品でそのことが問題にされることはなかった。広大な銀河空間を運行する銀河鉄道では時空を超えたタイムスリップは時として起こることのようである。

今週の殉職社員

有紀護(SPG隊員)CV:緑川光
 学の兄護は父の死後SDFに志願するが、弟よりも早熟で文武両道に優れた護はSDFの中でもエリート部隊であるSPG(装甲擲弾兵)に配属される。作品の描写を見るに、全般的に弟よりも出来の良い兄であったことが伺え、SDF入隊もSPG転属も周囲の羨望の中、当然のように昇格していった姿が描かれる。学のSDF入隊は同期よりも2年遅れの20歳であるが、護の場合は父の死後間もなく16歳で入隊している。そのため、タイムスリップした惑星ハクメイでは学の方が兄よりも年上になっている。

カオルmemo

「銀河鉄道999」はSFというジャンルに入るものの、宇宙空間を走る蒸気機関車など実際にはファンタジーの色合いの濃い作品であり、そこに寓話的な要素も加えられていた。本作もその作風を受け継いでおり、作話は現実世界の様々な法則に拘束されない。しかし、そこにはご都合主義という罠がある。現実にはあり得ないことを起こすことで、主人公に都合のよい展開がいくらでも可能なのだ。この第2話は、そうした作話の罠にはまったものではないか。
 時空の狭間にはまって5年前にタイムスリップしてしまった特急ハクバ。銀河鉄道本社のあるディスティニーへ向かう途中だった学は、同乗していた同期入隊のルイとともに遭難するのだが、たまたまその場所、その時が兄・護が殉職した場所と時間だったのである。ちなみにルイは学にSDFの訓練学校をトップで卒業したと言っている。学も同様に訓練学校を卒業したのだろうが、それなら学校に入る時点で母のカンナは反対したはずだ。私が知りたかったのは、父と兄が殉職した、その同じSDFをそれでも志す学の思いで、それはタイムスリップという都合のよい設定を使わずとも描けただろう。むしろ兄・護の存在そのものが、蛇足だったような気がする。

今週のメンヘラ社長

(心の声)
学、あなたが来るのを、ずっと待っていました。



カオルのひとこと
 空間鉄道警備隊の入隊式であいさつするこの人は、銀河鉄道の総司令らしい。大勢の隊員のいる中じっと学を見つめ、その心に語りかける。一体、何者なんだろう? ナゾは深まるばかりである。 

評点

★★★ 護の死は1話で語られているため、やや蛇足といえるエピソード。(小林)
★★ 語るべきことは、他にあったはずでは?(飛田)

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