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銀河鉄道物語

 銀河鉄道物語(2003)各話レビュー

 第1話「旅立ち」(銀河鉄道707号遭難事件)


あらすじ

 大宇宙を巡る巨大な宇宙交通システム銀河鉄道、無数の星々を繋ぐ広大な路線には銀河の平和と鉄道の安全を守る銀河鉄道警備隊SDFの活躍があった。

 Aパート: 707号遭難、学兄弟の密航&回想シーン
 Bパート: アルフォート艦の襲撃、有紀渉の最期

コメント

 2003年に制作されたOVA第1話、元になった銀河鉄道999は1979年の作品で、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」に着想を得たマンガは少年キングで全114話が連載され、アニメと映画は「宇宙戦艦ヤマト」と並ぶ第一次アニメブームの中心的作品として好評を博した。それから20年の時を経て、再び「銀河鉄道〜」の発車となったわけだが、原作者の松本零士氏はすでに制作の第一線から身を退いており、この作品は若いクリエイターが前作のテイストをどう解釈し、どう新しい要素を加えたかに見所がある。
 声優陣については主人公の父親有紀渉は井上和彦、副官バルジは大塚明夫、銀河鉄道の社長で預言者めいた謎の女性レイラは麻上洋子、主人公・学の上官ブルースは子安武人とベテランが脇を固め、主役とヒロインは新人の矢薙直樹、真田アサミという構成は往時の大河ドラマを彷彿とさせる。
 が、少し興を削ぐのは、作画についてはアニメータが松本零士の線をあまりにも「真似しすぎている」所である。元々松本の線はデフォルメされ、痩せぎすで骨ばった線に特徴がある。また、ボールペンでぐるぐると黒丸を書くだけの瞳まで再現しているので、どのキャラもギスギスしていて線が多すぎる。元作品のテイストをどう「翻案」するかもアニメータの力量なので、この点でこの作品は80年代の作品に遠く及ばない。アニメータの人間性もだいぶ違うと思わせる。
 個人的に印象的だったのは女社長レイラの裏人格シュラに導かれ、主人公の父が機関車で敵戦艦に特攻する場面で、この場面は999と同時期のヒット作「さらば宇宙戦艦ヤマト」のラストを彷彿とさせる。当時は「特攻賛美」とこの場面を激越に批判していた松本氏だったが、実は批判していた理由はこれが当時すでに疎遠になっていたプロデューサーの西崎義展氏によるものだったからで、彼自身はこの場面をいたく気に入っていたことが分かる。
(レビュー:小林昭人)

今週の被害車両

  ■銀河鉄道707号・・・全損
  ■銀河鉄道001号(ビッグワン)・・・大破、機関車全損

作品キャラ・用語紹介

惑星タビト
 主人公の父有紀渉とその妻カンナ、息子の護、学の兄弟が住む地球型惑星。鉱業と農業(タビト茶)が主産業である。街並みは未来の都市であるにも関わらず昭和30年代の日本を彷彿とさせ、多くの道路は未舗装で電信柱が林立している。住宅も現代では建築基準法に通らないトタン屋根の木造住宅が主である。渉の家は1階がラーメン店(銀河亭)、2階が住居と昔は多くあったものの、現在ではあまり見ない店舗兼住宅である。屋上がベランダであることから、木造ではなくモルタル建築で、隣家も同様の作りであることから、おそらく借家と思われる。SDFとの連絡手段は黒電話、出前は自転車など生活様式でも現在より半世紀ほど前の 社会がモデルである。

銀河亭
 SDF隊長有紀渉は作中での振る舞いと会社の礼遇ぶりから通常の会社なら上場企業の部長クラス、銀行で言うなら主要都市の支店長クラスの職員で本来なら妻が内職をする必要はないはずだが、銀河鉄道の給料が安いため、渉の妻カンナが営んでいる中華料理店。店舗であると同時に有紀家の住居でもあり、タビト鉱山の鉱山労働者が主な客である。第2部映画で松本世界の英雄、星野鉄郎が立ち寄って推薦したこともあり、店の評判はかなり良い。カンナがキャベツの千切りをする場面があるため、メニューにはカツカレー、トンカツなど洋食もあるようである。

SDF送迎車
 1話で渉を迎えに来た銀河鉄道の大型高級車。ビッグワンに搭載されているものか、各駅の駅長専用車であるかは不明だが、おそらく後者で同型車は銀河鉄道の本拠地ディスティニーでも見ることができる。旧国鉄でも送迎車など役職待遇を受ける駅長は主要駅の管理駅長などと限られていたため、一見ひなびた田舎の星にしか見えないタビト駅は実は重要な駅で、その駅長は銀河鉄道でもランクの高い駅長と思われる。なお、実車の印象は通常この種の用途に用いられることの多いトヨタ・クラウンよりはるかに高級そうな自動車で、ロールスロイス・シルバースパーに酷似している。

今週の殉職社員

有紀渉(シリウス小隊隊長)CV:井上和彦
 主人公学とその兄護の父であるSDFの隊長、副官バルジの上官。数々の事件事故で活躍した歴戦の隊員であり、SDFの数ある隊長の中でも高位にあると思われる。銀河鉄道株式会社の社員は階位が上がるにつれコートの丈が長くなる属性を持つが、有紀渉のコートは他の隊長(バルジ、村瀬、ジュリア)と比べても特に長く、ほとんどSDF司令官に匹敵する長さである。が、収入はそれに伴っていないらしく、作中でも通常の鉄道会社に比べ異常なほどに大事件大事故が頻発する銀河鉄道株式会社は損害賠償や補償などで財政は常に火の車であり、渉も高位のSDF隊長であるにも関わらず自宅は借家で、妻カンナは家計を助けるためにラーメン屋を営んでいる。良き家庭人であり、理想的な夫であったが第1話のアルフォート帝国軍との交戦で殉職する。なお、エンディング歌の「銀河の煌」は、これが主人公学の歌とするとどうにも釣り合いが取れず収まりが悪いが、実はこの父親の歌と考えると妙に平仄が合い、歌詞も納得できるものである。

カオルmemo

「無限に広がる、大宇宙」から始まる松本ワールド。宇宙空間を疾走する列車、襲いかかる隕石群、そこへ駆けつけるのが「ビッグワン」なる蒸気機関車で、これに主役のSDFが乗っている。救援を指示する隊長の前に突き出される密航者の子どもたちが実は隊長の息子だった、というところから彼らがビッグワンに乗り込むまでの話にさかのぼる。隊長である父・有紀渉と二人の息子のキャッチボールなど、これまで私が見た松本アニメに見られない情景が描かれているのが印象的。「ヤマト」も「999」も主人公は父親を亡くしているが、こうした交流が描かれることはなかった。本作でも父・渉はこの後謎の戦艦に特攻して果てるが、父の投げたボールは兄の護、そして主人公の学へ届いていく。1話は学がSDFへ入隊するきっかけを語る話で、本来こうした回想は中盤あたりに挿入されるものだが、これを序章として持ってきたのは、ここにこれから語られる物語の主旋律が流れているということなのだろう。
 「999」とは違って砲塔があり戦闘機を搭載した戦う機関車の登場に驚く。旅には夢とロマンがあったが、ここにあるのは生と死の狭間であり、銀河鉄道が舞台でも物語が向かう方向は違っているようだ。

今週のメンヘラ社長

運命の歯車が動き出す。
それを、誰も止めることはできない。
人はただ、歯車の流れに身を委ねてしまう・・・。


カオルのひとこと
 冒頭に登場するナゾの松本美女。どうやら銀河鉄道の偉い人のようですが、社員の運命を司っているのでしょうか? 

評点

★★★ チグハグな点もあるが、苦労して松本テイストを演出している。(小林)
★★★★ 松本ワールド+アルファの期待度をこめて、★4つ。(飛田)

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