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 機動戦士ガンダム(1979)各話レビュー

 第4話「ルナツー脱出作戦」

 脚本/山本優 演出/貞光紳也 絵コンテ/貞光紳也 作画監督/富沢和雄

あらすじ

 <ルナツー>に入港したホワイトベースは、民間人の収容を拒否されたうえ、トリプルAの軍事機密兵器を勝手に運用したかどで、ブライト以下主要メンバーが拘束されてしまう。そんな中、ジオンのシャアが、ガンダムとホワイトベースを奪取するため攻撃をかけてきた。ブライト以下ホワイトベースの面々は、命令違反を承知でこれに立ち向かおうとするが---。

コメント

 避難民を乗せたホワイトベースは連邦軍の前進基地<ルナツー>に入港する。ここではじめて、主人公が属する側の地球連邦軍が登場する。普通なら、よくここまで連邦軍の最新鋭兵器をここまで無事にもってきてくれた、と歓迎され、ヒーローの扱いを受けてしかるべき展開だが、本作はそういうカタルシスを否定するかのような作風が見られる。シャアの追撃を封じて<ルナツー>へたどりついたホワイトベースの主要メンバーのうち、ブライト、ミライ、アムロ、カイ、ハヤト、リュウ、セイラは軍のトリプルAの機密である兵器を勝手に運用したとして拘束されてしまうのだ。ここからわかるのは、地球連邦軍の官僚的な体質である。
 軍にはその組織の性格上、規律が求められるのは当然のことだ。その意味で、彼らが拘束されるのは致し方のないことと言えなくもない。しかし、避難民を船から降ろして休ませることもできないといい、ホワイトベースは没収、ガンダムは封印。ブライトの「シャアのムサイが追撃してくる」という警告にも耳を貸さず、目の前に迫る緊急事態対応よりも手続き重視という、まさにこれぞ「お役所仕事」というものを見せられる。ガンダムの「リアリティ」は実はこんなところにあったのだなあ、と大人になってしみじみわかる一場面である。

 一方、シャアはガンダム追撃を諦めることなくノーマルスーツによる特殊工作を仕掛けることを決意。早速、宇宙遊泳でルナツーの軍港に侵入し、時限爆弾を仕掛ける。爆発の混乱に乗じてガンダムと木馬を奪うという作戦なのだろう。この爆発が、監禁されていたアムロやブライトらにとっては不幸中の幸いになる。爆発で重力ブロックが電源を喪失したため電子ロックが解除され、彼らは閉じ込められていた部屋を脱出。警備兵を倒してホワイトベースに乗り込み、ガンダムの封印を解くのである。
 そんな中、ブライトが警告した通り、シャアはムサイで攻撃を仕掛けてきた。しかも事前の特殊工作が功を奏して、出港しようとしたマゼランを感知した爆弾の爆発により、サラミスが転覆。港の開口部を斜めに塞いでしまい、ホワイトベースが出撃できなくなってしまう。ブライトらの意見を聞き入れ、最後にワッケイン司令はホワイトベースの主砲でマゼランの熱核反応炉を撃つよう命令し、場爆破によってマゼランを排除。ホワイトベースはルナツーを出てシャアのムサイを撃退した。

 さて、そんな流れの中、この回では補足的な設定説明が会話を通してなされていることに注目したい。まず一つ目は、ミノフスキー粒子について。シャアのムサイはホワイトベースを追って<ルナツー>の至近距離までやすやすと近づく。

「ルナ2のレーダーには捕捉されていまいな?」
「はい、ミノフスキー粒子の濃度はやや少な目ですが、大丈夫でしょう」
「敵を目の前にしても捕捉されんとは奇妙なものだな。科学戦も詰まるところまで来てしまえば大昔の有視界戦闘に逆戻りという訳だ」

というシャアとドレンの会話から、ミノフスキー粒子が、敵のレーダーを妨害する役目を果たすものだということが伺い知れる。

 また、監禁された一室では、アムロとカイがこんな会話をしている。
「ほんじゃあさ、ガンダムが最高にジオンのザクより優れてるってのはなんなんだよ?」
「戦闘力さ。今までのザクタイプのモビルスーツと違って、戦いのケーススタディが記憶される」
「ケーススタディが記憶される?ってことはガンダムって、戦闘すればするほど戦い方を憶えて強くなるって理屈か?」
「そうさ。しかも操縦の未熟な僕でさえ歴戦の勇士のシャアとどうにか戦えたのは、僕の上手下手よりガンダムの教育型コンピューターの性能がいいってことだよ」

 ここからは、なぜ素人のアムロがシャアと互角に戦えたのか、ということがガンダムの「教育型コンピュータ」という設定を通して説明されていることが伺える。

 さらに、先にあげたマゼラン排除の場面からは、宇宙世紀の艦艇のエンジンが「熱核反応炉」という原子力技術で駆動されていることを、窺い知ることができるだろう。<サイド7>から疾駆してきたホワイトベースとガンダムが、ここで一旦動きを止めることで、この世界を動かす様々な要素を語らせる、という技巧の効いた展開であった。

 
 ところで、1〜3話までは作画監督を安彦良和が務めていたが、今回は富沢和雄が務めている。テレビ版ガンダムは、なんと2006年までDVD化されず「幻」となっていたが、その理由の一つと思われるのが、作画の不安定さだ。安彦氏以外が作画監督を務めている回で、しばしば作画崩壊を起こしているのだ。4話はその作画崩壊回の1回目。地味ながら世界観の一端が語られる回だけに、ぜひとも笑いをこらえて最後まで見てほしい。

この一言! 「不幸にして我々より彼らの方がうまく使ってくれるのだ。」

 この回では<ルナツー>のワッケイン司令とのやり取りを通して、地球連邦軍の硬直化した体制が描かれている。主人公らが監禁されて軍事裁判にかけられるのでは、という展開は初めてみたとき、かなりショッキングなものだった。軍事という世界、戦場のリアルが垣間見えた気がしたからだ。
 しかし、今見てみると、作り手の主眼はもう少し別のところに置かれていた気がする。それが、このパオロ艦長の放った今回の一言である。

「…どうだろう、ワッケイン君…ホワイトベースにしろ、ガンダム、ガンキャノン、…ガンタンクは今まで機密事項だった。だからなのだ、不幸にして我々より彼らの方がうまく使ってくれるのだ。…すでに二度の実戦の経験がある彼らに…そう、しかし彼らはしょせん素人だ。司令たる君が戦いやすいように助けてやってくれたまえ…わしが責任を持つ…」

 軍規によりブライトらはホワイトベースに立ち入り禁止を命じられるが、シャアが追撃してくると知って、違反を承知でホワイトベースに乗り込もうとする。そんな彼らを退去させようとするワッケインに、ブライトは「あなたの敵はジオン軍なんですか? それとも私たちなんですか?」と食い下るが、そのとき、ストレッチャーに乗せられたパオロ艦長が、ワッケインに諭した言葉である。
 彼らは地球連邦軍の将官であり、戦争のプロフェッショナルであったはずだ。彼らはムサイごとき軽巡洋艦でシャアのようなプロの軍人が<ルナツー>に挑んでくるとは考えなかった。しかし、彼ら将官の読みよりも、士官候補生のブライトの読みの方が正しかった。連邦軍のモビルスーツが戦場に投入されたことで、戦略も、また戦況も大きく変わろうとしていたのだ。そして彼ら「素人」の実戦をその現場で見ていたパオロ艦長は、彼らがこれまでの戦略を知らない素人「だからこそ」我々よりも「うまく使ってくれる」と彼らを認めた。
 これからは熟練の将官ではなく、常識にとらわれず新しい状況にどんどん対応していく、若者の力こそが必要とされるのだ。
 パオロ艦長はワッケインに、そんな彼らの「若さ」に希望を託せ、と諭している。新しい時代を切り開くのは、我々老兵ではなく彼らであると。その言葉を聞き入れてマゼランを排除し、出港するホワイトベースを見送るワッケイン司令。こうして名実ともに、ホワイトベースの「素人」戦士たちは本作の主役となったのだ。
 そして、ブライトにとっては頼みの綱であったパオロ艦長はこと切れる。

「ジオンとの戦いがまだまだ困難を極めるという時、我々は学ぶべき人を次々と失ってゆく。寒い時代だと思わんか?」

 ワッケイン司令は、失われていく過去を見ていた。しかし目の前を飛び去ってゆくホワイトベースには、未知の領域へ否応なしに送り込まれていく少年たちの命が滾っている。

<今回の戦場> 
地球連邦軍前進基地<ルナツー>
<戦闘記録>
■地球連邦軍:<ルナツー>施設がシャアの特殊部隊の工作で爆破されマゼランを失う。
■ジオン公国軍:<ルナツー>に侵入し特殊工作でガンダムと木馬の奪取を試みるも失敗。

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