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 機動戦士ガンダム(1979)各話レビュー

 第5話「大気圏突入」

 脚本/星山博之 演出/藤原良二 絵コンテ/斧谷稔 作画監督/青鉢芳信

あらすじ

 ホワイトベースは地球に向かうことになり、リード中尉の率いるマゼランを随行に<ルナツー>を出立する。しかしシャアはまだ、ホワイトベース追撃をあきらめておらず、大気圏突入を図る木馬に攻撃をかける。ホワイトベースを援護するためアムロはガンダムで出撃するが、ホワイトベースとの距離が離れすぎて船に戻れなくなってしまう。

コメント

 ♪さらば〜地球よ〜 旅立〜つ船は〜、という主題歌にもあるとおり、1974年にテレビ放映され、一大ブームを巻き起こした「宇宙戦艦ヤマト」は地球から宇宙へ旅立ってゆく船だった。ガンダムは「宇宙戦艦ヤマト」が掘り起こした、従来より高年齢の10代のアニメファンを意識して企画されており、当然ながら本格SFアニメの金字塔ともいえるこの作品を大いに意識していた。ただ意識していただけでなく、ヤマトを超えることを目標にしていた、といっていい。どのように超えていこうとしたのか。ヤマトの逆をゆく、という方法であった。

 例えば主人公。ヤマトの主人公、古代進は宇宙戦士訓練学校で訓練を受けており、人類滅亡の危機の中、地球を救うために旅立つヤマトの乗組員として選ばれたという人物であった。一方ガンダムの主人公アムロ・レイは戦うための何の訓練も受けていない素人で、もとはといえば避難民の一人であった。もしヤマトの世界にいたならば、遊星爆弾による被災を逃れて地下都市に避難した多くの市民の一人にすぎない。

 ヤマトでは、艦長の沖田は若い古代の成長を助け、イスカンダルへの航海を終える直前、地球を見ながら死んでいった。ガンダムでは主人公たちの乗るホワイトベースの艦長パオロがいたが、彼らが連邦軍本部の指令を受けて<ルナツー>を出る前、4話の最後で息を引き取り、ホワイトベースは頼るべき大人のいないまま出港せざるを得なくなる。

 そして5話。地球からはるか14万8千光年彼方のイスカンダル星へ向かって旅立っていったヤマトとは反対に、宇宙基地<ルナツー>からホワイトベースは地球へ、大気圏の内側へ下りるべく発進するのである。♪必ずここへ、帰ってくると〜 手を振る人に 笑顔でこたえ〜 と歌われるヤマトとは逆に、ホワイトベースは避難民を降ろすこともできず、見送るのは<ルナツー>司令のワッケインと副官のみであった。随伴に巡洋艦サラミスがついてはいたが、それも途中までである。

 これはどちらが優れているとか否定するとかいうことではない。そうではなく、SFであっても似たテーマ、似た舞台、似た設定、まねたような展開を決して目指さないという制作陣の意志の現れと見るべきであろう。ヤマトの描かなかったものを描こう、という強い思いがそこにある。


 艦内の避難民たちのうち高齢の者は地球から宇宙へ移住した過去があり、地球に戻れることを心待ちにしている。ホワイトベースには大気圏を突破する性能があり、サラミスからリード大尉と副官を乗せた大気圏突入カプセルについていけば、そのまま地球へ降下できるはずであった。ところが大気圏突入準備に入る直前になって、ブライトは執拗に後をつけているシャアのムサイが3機のザクの補給を受け、攻撃の意図があることに気づく。大気圏突入まであと数分。ブライトはアムロに発進を命じ、ホワイトベースは接近戦を仕掛けてくるザクに対して機銃で応戦するのだった。

 
 ガンダムが戦闘できる時間は4分。アムロは苦戦しながらもバルカンとガンダムハンマーで2機のザクを仕留める。しかし先行するサラミスのカプセルが被弾。ホワイトベースへの収容を余儀なくされる。シャアはアムロを一瞬追いつめるがタイムアウト。残る1機のザクはホワイトベースの下に回り込んで攻撃を続けており、アムロは残りのバルカンでこの1機も仕留めようと奮起する。しかし、もう時間がなかった。ホワイトベースは大気圏突入体制に入り、セイラはアムロに帰投するよう呼びかけるが、ガンダムはザクとともに地球の重力につまかり落下を始めていた。

 
 タイムリミットのある緊迫した戦闘、摩擦熱で燃え尽きてしまうという大自然の脅威。戦い慣れしない素人集団で最新鋭兵器を地球の連邦軍本部に届けなければならないという重責。それらが相まって、この回は手に汗握る展開となった。特にザクのコクピットで「助けてください、シャア少佐〜!!」と叫びながら宇宙の藻屑と消えてゆく兵士の姿が、目に焼き付いて離れない。死と隣り合わせ、という戦場の恐ろしさを実感させるものではなかっただろうか。

 ガンダムはホワイトベースとともに、今回もその性能によって無事大気圏突入を果たす。しかし次もまた「ヤマトと逆」のワナがあった。開戦当初にコロニーが落とされるという惨劇があっても地球は青く美しい。しかし彼らが降下したその大陸は、敵であるジオン軍に占領されていたのである。

この一言! 「あなたなら、できるわ」

 よく「戦いたくない主人公」と形容されるアムロだが、ここまでを見る限り、彼は決して戦うことを厭ってはいない。むしろ天からのギフトに目覚めた者の「やる気」のようなものが見て取れる。「今度こそシャアの動きに追いついてみせる。これで何度目なんだ?アムロ」と、むしろシャアとの対戦に闘志さえ見せている。今回の「この一言!」は、そんなアムロの「やる気」を引き出したと思われる言葉をセレクトすることにしよう。

 大気圏突入のタイミングで攻撃を仕掛ける。それはシャアにとって、相手が敵に対して全神経を集中できない隙をつくる時間である。しかし、自分たちにもリスクはある。もし帰還が遅れ、地球の引力につかまってしまうと、ザクは大気の摩擦熱で燃え尽きてしまうというのだ。

 シャア隊を迎撃するホワイトベースでも、そのリスクが通信席に座ったセイラ・マスからガンダムのアムロに伝えられる。発進後4分というタイムリミットが設けられたのだ。しかし、それだけではなかった。

「後方R3度。ザクは4機よ」
「4機も?シャアは手持ちのザクはないはずだ。そうじゃない?セイラさん」
 シャアが補給を受けたことを知らないアムロは動揺を隠せない。自分に出来ることは、シャアを引きつけてホワイトベースを守ることだけだ、と思っていたのだ。だがセイラはそんなアムロに、
「事実は事実よ」
と容赦なく現実をつきつける。さらに

「後方のミサイルと機関砲でリュウとカイが援護するけど、高度には気をつけて」
と厳しく言い渡し、そうでなくても高くなっているハードルをさらに上げるのだった。
さすがのアムロも思わず
「戦ってる最中に気をつけられると思うんですか?」
と言い返すが、そこで必殺ともいうべきこの一言でとどめを刺す。そう、

「あなたなら、できるわ」と。

 それは彼の乗るガンダムの性能ではなく、それを操るアムロ自身の能力への信頼を言い表す言葉だ。だからこそ、発進したアムロはこう言うのだ。

「今度こそシャアの動きに追いついてみせる。これで何度目なんだ?アムロ」
「ホワイトベースには近づけさせるものか」
と。

 これとは対照的なのがブライトである。無事大気圏に突入したガンダムを発見したとき、彼は言う。
「奴め、あとで締め上げなければならんが、このモビルスーツがあれば連邦軍はジオンに勝てる」

 確かにアムロは発進後4分で戻るという命令を守らなかった。しかしホワイトベースを援護できたのは、モビルスーツの性能である以上にパイロットの能力であったことは確かだろう。上官であるブライトは、ガンダムの性能に目を奪われてその重要な一点を見逃していた。それが禍根となってゆくのは、もう少し後の話である。

<今回の戦場> 
地球の大気圏上空
<戦闘記録>
■地球連邦軍:大気圏突入直前にシャアのモビルスーツ隊と交戦、2機撃墜、 1機は自滅。
■ジオン公国軍:大気圏突入直前のホワイトベースに攻撃を仕掛けるが失敗。
シャアは<サイド7>からここまでに8機のザクを失う。

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