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 機動戦士ガンダム(1979)各話レビュー

 第3話「敵の補給艦を叩け!」

 脚本/荒木芳久 演出/小鹿英吉 絵コンテ/斧谷稔 作画監督/安彦良和

あらすじ

 <サイド7>を出港したホワイトベースは月軌道上にある連邦軍の基地<ルナツー>へ向かう。これを追撃するシャアはそれまでの戦闘で3機のザクを失ったため、ドズル中将に補給を求める。一方のホワイトベースではミライが補給を受ける隙を狙って攻撃に討って出てはどうか、と提案。艦長代理を務めるブライト・ノアは、戦闘に参加すべくブリッジに集まってきた面々の意見を聞く。

コメント

 1話で主人公が主役ロボットに乗り、2話で仲間が揃った。3話はいよいよ真骨頂を発揮しはじめる話かもしれない。少しずつ、「彼ら」の生きる世界の背景が、描かれ始めるからである。
 ホワイトベースで辛くも<サイド7>を脱出したアムロらは、病床にあるパオロ艦長の勧めで連邦軍の基地、<ルナツー>へ向かう。主要メンバーは私服から連邦軍の制服に着替え、母子や老人に食料を配ったり、質問に答えるなどしていた。もとはといえば彼らも避難民なのだが、戦闘要員となったからには一般市民との区別をつけるために軍服着用となったものと思われる。

 
 敵を退けて一路<ルナツー>へ向かう艦内は、ようやく一息といったムードで、たまたま乗り合わせてともに戦うことになった互いを知り合う会話も交される。そんな中から、彼らが生きている世界の背景が少しずつ見えてくる。たとえばブリッジに向かうエレベーターでのブライトとセイラの会話。「宇宙に出たの、初めてなんです」というブライトにセイラは「エリートでらっしゃったのね」と言葉を返す。どうやら、この世界では、地球にいる人の方が、宇宙に出ている人よりも「エリート」らしい。放映当時から今に至るまで、宇宙に出る人が「エリート」というのが私たちの認識だが、この世界ではそうではないようである。

 一方のシャアは、上官のドズル中将に補給を要請していたが、老朽艦で2機のザクしか送ってもらえないことが判明する。2話で補給艦の到着前に<サイド7>に侵入して連邦軍の新型モビルスーツのデータを収集して手柄を立てようとしたシャアだったが大失敗、計3機のザクを失い、これまでいい所ナシである。この会話からは、敵の軍備が決して潤沢ではないことが窺い知れる。

 正規の軍人がほとんどいないホワイトベース、それを追うシャアの側も補給を受けなければ攻撃もままならない。そうとは知らないミライ・ヤシマの一言から、ホワイトベースは動きをかける。左右ビーム砲に主砲、なんと手引書を読みながらという素人軍団である。

 

 アムロはガンダムで、リュウはコアファイターで出撃すると、太陽を背にしてムサイに近づいてゆく。ガデムの補給艦パプアとドッキングしてムサイには物資が搬入されていたが、そのときガデムはミノフスキー粒子の濃度が強すぎることに気づき、近くに戦艦がいるのでは、と予測するが、そんなジオンのヴェテランたちの裏をかいて攻撃を仕掛ける。そしてアムロがシャアのザクを引きつける一方、リュウのコアファイターが邪魔で主砲の撃てないカイがハヤトとともにガンタンクに乗り込み出撃。小惑星に着陸して補給艦を狙い撃ちする。彼らはそれぞれに自分の出来る最善を尽くして、なんとかシャアを撃退した。

 
 ブリッジに戻った彼らは、ホワイトベースに逃げ込んだときとは少し様子が違っていた。自分たちが攻撃をすると決め、やり遂げたことで、チームとしての意識が芽生えてきたようだった。

 さて、3話まで観てきたが、とにかくものすごく場面の展開が早く、何度も場面が切り替わり、短い台詞から多くのことを語ろうとする、情報量の多い作品である。3話ではじめて、本作の「設定」の代表格の一つである「ミノフスキー粒子」という言葉が出てくるが、それが何かという説明をあえてしないのも本作の特徴の一つである。観ているうちに、彼らがそれを何のために用いているのかがわかる、という、非常に映画的な手法といえよう。また、主人公側のホワイトベースと、敵側のシャアの状況描写がほぼ均等になされていることにも気づく。そのことが、1話あたりの濃度を上げているのだ。

この一言! 「しかし、一体どういうことなのだ?連中は戦法も未熟なら、
        戦い方もまるで素人だ」

 「モビルスーツの性能の違いが、戦力の決定的差ではないということを、教えてやる」

 何かにつけて、芝居ががった大仰な台詞回しをするシャアが、この地味な戦いの中でもアニメ史に残る名台詞を吐いている。そうはいってもガンダムと戦い始めれば10秒で言うことが変わる。主人公側の素人くさいあたふた感と裏腹に、シャアの側は上から目線で戦いを始めながらボコボコにやられる、というのがこの作品の基本パターンである。今回も、上記のような上から目線で始まった戦いで、ガンダムに殴る、蹴るの暴行を加えるが、それでもびくともしないことに焦って、10数秒後にはこうのたまう。

「ええい、連邦軍のモビルスーツは化け物か!」

 ホワイトベースの作戦は、アムロとリュウがシャアのザクとムサイを引きつけておき、その隙にホワイトベースの主砲で背後から敵を攻撃するということだった。一番の目的は、敵に補給を受けさせないことである。そうすれば、これ以上攻撃を受けずにルナツーに逃げ込むことができる、という計算である。

 対するジオンは赤い彗星のシャア、歴戦の勇士のガデムと戦い慣れした面々が揃うが、ホワイトベースの若者たちは、相手に戦力や性能を知られていないことを逆手に取り、それぞれが持てる力を出し合って、必死に立ち向かって勝利する。そこで出るのが、このシャアの一言である。

「…パプアがやられ、ガデムも死んだ。どういうことなのだ?モビルスーツにしろ、あの船にしろ、あきらかに連邦軍の新兵器の高性能の前に敗北を喫した。それはわかる。しかし、一体どういうことなのだ?連中は戦法も未熟なら、戦い方もまるで素人だ」

 その答えがここですぐに出てくるわけではない。しかしこの回のエピソードからその答えを出すとしたら、どうだろう。「未熟な素人だからこそ」と言えるのではないだろうか。彼らには頼るべき上官も経験もない。そんな中、最善を尽くすためにブライトが取った行動は、ミライやハヤトの声を聞き、自ら手を挙げて戦うために集まった者の決を採るということだった。いわば、全員がこの戦いの行方に責任を持つ立場になったということなのだ。

 この素人軍団は、これからどんな戦いを繰り広げて行くのだろうか。その先に、どんな可能性があるのだろうか。敵の目的、彼らの行く先に加えて楽しみなことがまた一つ増えた。

<今回の戦場> 
地球連邦軍前進基地<ルナツー>宙域
<戦闘記録>
■地球連邦軍:<サイド7>から<ルナツー>へ。シャアの補給部隊を沈める。
■ジオン公国軍:ホワイトベースを追撃。補給中に攻撃され敗退。辛うじてザク2機受領。

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