MUDDY WALKERS 

gundam

 機動戦士ガンダム(1979)各話レビュー

 第2話「ガンダム破壊命令」

 脚本/松崎健一 演出/藤原良二 絵コンテ/斧谷稔 作画監督/安彦良和

あらすじ

 ジオンの攻撃でコロニーが損傷したため、民間人が連邦軍の新造戦艦ホワイトベースに避難してきた。パオロ艦長は重傷を負い、正規の軍人も大半が戦闘不能状態となる中、士官候補生のブライト・ノアは民間人の力を借りて、何とかホワイトベースを出港させようとする。アムロは残されたモビルスーツのパーツの破壊を命じられた。一方ジオンは混乱に乗じてシャア少佐と数人が<サイド7>に侵入していた・・・。

コメント

 第1話では、主役ロボットが立ち上がった。第2話のお約束は、主人公とともに戦う「仲間」を集めることである。そしてもう一つ、「主役ロボットは唯一無二でなくてはならない」という暗黙の了解を成立させる必要がある。タイトルはそのことを表すものである。
 前半パートは、ジオンの戦艦ムサイの攻撃でコロニーが損傷、ホワイトベースに逃げ込んだ民間人の姿を描きながら、これから「仲間」になっていく一人ひとりをさりげなく紹介している。パイロット候補生のリュウ、「あの、ヤシマ家の・・・」という艦長の一言からも育ちの良さが伺い知れるミライ、「おやめなさい」という言葉づかいから高貴な育ちでは?と思わせるセイラ、そのセイラに「不良みたいな」と言われる皮肉屋のカイ、など。艦長に代わって指揮を執るブライトは第1話のアムロの父との会話で「軍に入って6ヶ月、19歳」だと言っていた(見た目は39歳ぐらいに見えるのだが)。ハヤトとフラウも第1話で登場済みで、これでほぼ主要なメンバーが揃う。

 

 その一方で、敵であるジオンのシャアの動向が描かれる。どうやら作戦の成功を祝う晩餐会を上官が用意していたようだが、<サイド7>に立ち寄ったため間に合わなかったというのである。そこでシャアは補給を要請し、自らは補給が来る前に<サイド7>に侵入、先の二人(デニムとジーン)が果たせなかった連邦軍のモビルスーツの情報収集を実行しようと企てる。ここまでで約10分、そして、残っている住民がいないか呼びかけに回っていたセイラが、不審な動きをしている敵兵を見て銃を手にする。ここで前半パートが終わるのだが、まったくムダも隙もない見事な脚本で、その展開の早さと情報量の多さに驚かされる。それは、全体としての構図があり、それに沿って人物が動いているからだ、とわかる。その構図とは「戦いのプロ対素人」というものである。

 後半パートでは、「戦いのプロ対素人」の構図がより明確になっていく。一つはセイラのジオン兵(実はシャア)との遭遇、そしてアムロと赤い彗星(こちらもシャア)との初の対戦である。
 <サイド7>に逃げ後れた住民がいないか探していたセイラは、破壊されたモビルスーツの残骸付近で怪しいジオン兵を目撃する。銃を手にして物陰から近づくセイラの物腰は落ち着いた感じに見えるが、銃口を向けられた敵はまるで動じることなく、余裕綽々でセイラの命じるままにヘルメットを脱ぎ、さらにその下のマスクまではぎ取った。そのときセイラは怯んで思わず銃口をそらしてしまう。その一瞬の隙に、敵は彼女の拳銃を足で薙ぎ払った。
 連邦軍のモビルスーツのデータを収集した敵兵の一団は、宇宙港からコロニー外へ脱出する。そのときアムロは、ガンダムのビームライフルの照準を合わせようとして、やはり怯んでしまう。人型兵器を眼前にしたときは、恐怖に怯えながらも果敢に立ち向かっていった彼が、である。



 この二人に共通しているのは、「敵」が敵でなく自分と同じ人間であると認識したとき、気持ちが折れてしまったということである。セイラの場合は、敵の素顔を見たとき、その人物が自分と関係のある人かもしれない、と思ったからだ。アムロはそうではなかったが、照準を向けているのが兵器ではなく人間であれば、間違いなく当たれば人を殺すことになるのである。そこで怯む彼らは戦いのプロではなく、また戦時中であっても敵に対して「殺したい」と思う強い憎しみを持つほどに、自分たち自身の生活の中で苦しみを経験してはいなかったということだろう。

 しかし休む間もなく、シャアが今度は自身の赤いザクで、出港しようとするホワイトベースに攻撃を仕掛けてくる。「相手がザクなら人間じゃないんだ」と言い聞かせ、アムロは無理だと止めるブライトを振り切ってシャアとの対戦に挑んだ。そして、シャアとの対決で、はじめてプロの戦いを目の当たりにする。
「これが、戦い・・・」
 アムロは、自分がただの素人でしかないことを、まざまざと見せつけられた。しかし、「通常の三倍」のシャアの赤いザクに翻弄されながらも、スレンダーのザクをビームライフルの一撃で撃破する。ザクはコクピットを打ち抜かれ、スレンダーは閃光の中に霧散した。

 

「あっ、ビームのエネルギーが・・・使い過ぎだ」
「火力が、違いすぎる・・・」

 アムロとシャアの対決は、ここで幕引きとなる。ビームライフルの圧倒的な威力で辛くも敵を退散させたアムロだが、ホワイトベースに戻ると、驚くべき言葉に迎えられる。戦場では、プロであろうと素人であろうと、命の数にも重さにも違いはないのだ。


この一言! 「甘ったれるな!ガンダムを任されたからには貴様はパイロットなのだ。
        この船を守る義務がある」

 「やります!相手がザクなら人間じゃないんだ」
とアムロが奮い立ち、見事敵を1機撃破する。「やった!」と喜び、ヒーローとして出迎えられるのが普通だと思うが、アムロを出迎えたブリッジには張りつめた空気が漂っていた。「アムロ!」と声をかけたフラウも思わず口をつぐむほどである。
 本作では冒頭から、「軍人」と「民間人」という二種類の人間が登場してくる。前半パートで揃った主要キャラクターでいえば、ブライトとリュウは軍人、アムロ、セイラ、ミライ、カイ、フラウ・ボゥは民間人である。そして本来、民間人は軍隊の庇護を受け、非戦闘員として守られるべき立場にある。ところが正規の軍人が負傷するなどしてしまい、民間人たる彼らは自己防衛のため武器を取らざるを得なくなった。そんな中で前述した「戦いのプロ対素人」の対戦が展開されていくのだが、それは後戻りのできない手段だった。敵を1機やっつけたらそれで「やったー!」ですむ話ではない。戦闘は終わった。しかし彼らにとっての戦争は始まったばかりで、もう、いつもの日常には戻れなくなってしまったのだ。
 19歳の士官候補生でありながら、重傷を負った艦長に代わってホワイトベースを発進させ、連邦軍の宇宙基地ルナツーまで航行しなければならなくなったブライトは、アムロにそのことを告げる必要があった。

「甘ったれるな!ガンダムを任されたからには貴様はパイロットなのだ。
この船を守る義務がある」


 「やります!」とアムロが言ったのは、単に、敵に対して怯んでしまった自分が悔しくて、何とかもう一度やれるところを見せたかっただけかもしれない。危機迫る中、自分がやらなければ、という思いももちろんあっただろう。しかし、一度敵を攻撃し、しかもすでに3機ものザクを撃破してしまったら、その戦いに対しても、これから起こる追撃戦に大しても、責任が生じてくる。
 彼らのまちに、戦争がやってきた。しかし彼らは「巻き込まれた」のではない。素人ながら、武器を持って立ち上がったのだ。そして同じ土俵に立った以上、もう「素人だから」は許されない。

<今回の戦場> 
スペースコロニー<サイド7>
<戦闘記録>
■地球連邦軍:ホワイトベースに避難民を乗せ発進。シャアの攻撃を退ける。
■ジオン公国軍:再度の偵察行でデータ収集に失敗。ザク1機を失う。

<<BACK  NEXT>>

 MUDDY WALKERS◇