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 機甲艦隊ダイラガーXV(1982) 各話レビュー

 第34話「燃える空洞惑星」

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地球艦隊の攻撃司令官といっても、私の平和的解決を
図るという方針を認めてくれるのでなければ、
結果は前と同じになる。

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空洞惑星
 ラガーガードが先遣隊として発見した北極に巨大な空洞を持つ惑星。極地地方には海を持っている。既に惑星としての寿命を終えつつあり、崩壊は時間の問題であった。

あらすじ

 褐色惑星に基地を建設し、先発隊として発進した戦艦ラガーガードは崩壊寸前の惑星を発見する。一方、テレスは地球艦隊の攻撃司令官に任命され、ローチャーが探査基地に到着する。

見どころ

 二枚舌管理職ローチャー登場の34話、褐色惑星の戦いでブランク探査隊を下した地球艦隊は惑星に基地を建設する。司令官となったアシモフと再会した伊勢とラガーチームは先遣隊として護衛艦隊と共に進発する。目的はガルベストン本星の探索だった。アシモフは本星が銀河系中心を隔てて太陽系の反対側のオリオン腕(現在はノーマ腕)にある可能性を指摘する。

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 ちょっとこれは面白い所で、この作品が放映された1980年代は銀河系の構造というものは現在ほど分かっていませんでした。我々の太陽系が属するオリオン腕というのは、戦後に電波望遠鏡による観測で明らかになった銀河系の渦状構造による命名なのですが、実はかなりマイナー(小さな)渦で、大きな腕であるペルセウス腕と中規模の腕であるサジタリウス腕の狭間にあることが分かっています。銀河系の反対側までは伸びていないんですね。今はやはりマイナー腕であるノーマ腕がアシモフの言ったガルベストン本星の位置になります。これは銀河系中心を隔てた太陽系のちょうど反対側で、中心から2万5千〜3万光年という銀河系のハビタブルゾーンの只中にあります。直線距離で言えば5万光年ですが、中心部を迂回するとすれば、作品の説明通り7万光年の位置にある星になるでしょう。銀河の構造自体不明瞭な時代に、銀河における生命の存在可能領域、ハビタブルゾーンの概念が取り入れられていたことには驚くばかりです。

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 銀河の話はさておき、基地建設を進めるアシモフらの遥か彼方、ぼんやりと浮かぶ赤色矮星に衝突でひしゃげた小惑星という何やら地獄落ちした場所にテレスらの探査基地があります。ルチアーノの敗戦と前線基地の失陥はこの基地で粛々と探査活動を進めているテレス氏の活動に影響を及ぼします。しかし、いくら左遷されたとはいえ、何もこんな地獄の一丁目みたいな場所に基地を作ることもあるまいにと思いますが、探査艦隊の一つ、ブランク艦隊の壊滅を知り、テレスは地球艦隊が彼らの探査区域の近くにいることを知ります。「戦いは何としても避けなければならない。そんなことに費やす時間は無駄だ」、本星の崩壊まで残りわずか、ルチアーノがほとんど惑星を発見しなかったこともあり、彼の使命は重大です。テレスは副官サークに残りの探査艦隊に地球艦隊との交戦を避けるように命じ、地獄落ちした惑星の、流星の降り落ちる空を仰いで慨嘆します。

「だが、地球もルチアーノが前線に出てから変わってしまったようだ。おそらく我々の艦隊と出会えば潰そうとするだろう。困ったことだ、また可住惑星発見の作業が遅れるぞ。」

 左遷されたとはいえ、テレスは両軍中で最も聡明な指揮官です。彼は地球艦隊の目的がガルベストン本星にあることを見抜いています。そこに司令室から大艦隊接近の報告がもたらされます。「ガルベストン本星防衛軍隊長、ローチャー、到着しました」、頼みもしない援軍が入港許可を求めてきたことにテレスは少し逡巡します。さらに本星から内務長官に復帰したテレスの父テスの通信が入ります。勅命でテレスが可住惑星の探査司令官と兼任で地球艦隊の攻撃司令官に任ぜられたという父の言葉にテレスは動揺します。「ガルベストンの運命に背を向けるわけにも行かない」、自分の和平方針は否定されたはずだというテレスにテスは任命を受諾するように求めます。ハト派二人の突然の復帰、ガルベストン本星には何やら動きがあるようです。以前の話で皇帝コルセールの周辺がタカ派で固められていることを見ればなおのこと。

「地球艦隊の攻撃司令官といっても、
私の平和的解決を図るという方針を認めてくれるのでなければ、
結果は前と同じになる。」


 今週の言葉はテレス司令。「それとも私にルチアーノと同じことをやれというのか!」、ローランら旧知の部下たちの前で心情を吐露するテレスですが、先のルチアーノの敗戦は実は重大な事件でした。ガルベストン艦隊は最終話の52話までにおおよそ15個艦隊ほどが登場しますが、一連の戦いですでに9個艦隊が失われています。地球攻略は絶望的になり、カポネーロ以下タカ派も残るは地球艦隊を自陣に引き込んで起死回生の決戦を挑むくらいしか策がありません。タカ派としてはここは国民に人気のあるテレスやテスを立てて大敗戦の非難の矛先をかわそうと試みたのでしょう。惑星探査をしつつ、地球艦隊攻撃の矢面に立てという辞令に彼らの狡猾さを感じます。主導権を渡すつもりはさらさらありません。そこで選ばれたのがこのローチャー、前のルチアーノとは違うタイプで、テレス麾下に配属された彼は早速上官にベルトラン艦隊をラガーガード討伐に向かわせたことを報告します。「誰の命令だ!」、憤慨したテレスはサークにベルトラン艦隊の作戦中止を命じます。しかし、ローチャーにもベルトランにも作戦を中止する気はさらさらありません。ベルトランは空洞惑星の海底に潜み、ダイラガー撃滅のための罠を張ります。

 先遣隊として空洞惑星に到着したラガーチームは惑星の探査を開始します。空洞惑星はすでに崩壊しつつある星で、極地に名前の由来である空洞を発見したラガーチームは空洞から発信される電波源の正体を突き止めにクウラガーとリックラガーが空洞の奥に進入します。しかし、それはベルトランの思うツボでした。海中から発進した彼の艦隊は更にカイラガーを空洞に押し込め、崩壊する惑星と共にラガーチームを葬ろうとします。ラガーチームの危機を受け、ラガーガード以下の艦隊も惑星に到着し、極点に空いた巨大な空洞の上空で両艦隊は戦闘に入ります。そして、空洞の奥深くまで進入したクウラガーとリックラガーをバトルアタッカーが待ち受けていた。

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「この際、ベルトランに援軍を送って、一気に地球を葬ってしまうべきではないでしょうか」、テレスの司令室ではベルトランが中止命令を無視しているというサークの背後から現れたローチャーが司令官に戦闘拡大を進言します。「私には私のやり方がある」、部下でありながら、ことごとく自分の方針を無視するローチャーにテレスは苛立ちを隠せません。結局、艦隊戦で劣勢に立たされたベルトランは惑星の崩壊を見て退却し、ラガーチームも間一髪で惑星の地底から脱出します。ガルベストンのバトルアタッカーはダイラガーに十分対抗できる機体ですが、地球の艦隊も以前のような警備艦隊ではなく、明確な戦闘哲学を持ち、個艦レベルでも新型ガルベストン艦を上回る戦闘力を持っており、以降のガルベストン軍は苦戦することになります。新鋭艦とバトルアタッカーの登場で、艦隊戦では優勢だったガルベストンが劣位に立ち、得意なロボット戦で今度は地球が苦戦すると優劣が逆転しているのが興味深い所です。このようにして空洞惑星での両軍の対決は幕を閉じます。

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 ルチアーノみたいな自信過剰な人は世の中にあまりいないと思いますが、ローチャーみたいなタイプは意外といるのではないでしょうか。カポネーロの命令で本星からテレスの部下に派遣された彼は表立っては決して上官であるテレスに逆らいません。むしろテレスの任務である「可住惑星の発見」のためにとか、破滅に瀕した本星の意向を忖度してといった調子で、再起用された勢いでタカ派に過ちを認めさせようというテレスは調子を狂わされることになります。従順ですがその行動はタカ派そのもの、数多い背任行為でテレスに非難されても蛙の面に水。彼は身内にさえ平和解決を図るテレスの方針にあえて逆らうのはこれまで地球との交戦で殺された何百何千ものガルベストン兵士の恨みを晴らすためだと言っています。が、その真の動機が栄達欲であることは、後に出てくる彼の部下(アントノフ、エンマ)などにはほぼ見抜かれています。実は部下にすらあまり尊敬されていない、ゴマスリ管理職のローチャー氏ですが、彼の登場により、ガルベストンの運命はさらに救いのない方向に傾くことになります。

キャラクター紹介

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ローチャー

 稀代の二枚舌管理職ローチャーはガルベストンの絶対防衛部の隊長(タカ)である。ルチアーノのような司令官級の将校ではなく、テレスよりも格下の隊長であるが、総司令のカポネーロには信頼されており、新たに地球攻撃軍の司令官に任命されたテレスを牽制するために探査基地に派遣された。格上のテレスの方針や任務を尊重する素振りを見せつつ、その実は地球軍との全面対決を進めるというローチャーだが、表立った意見は全て一見正論、非の打ち所のないものであり、面と向かってそれを言われるテレスにとっては苦手な将校である。後に再び解任されたテレスの後任の地球攻撃軍司令官に昇格し、地球艦隊と対決するが、テレスとの不毛な内部抗争とその結果とも言える五月雨式の地球軍との対決でかなりの艦隊を失っており、探査基地を発見した地球軍には劣勢を強いられた。最後は自ら半完成品のバトルアタッカーに搭乗してダイラガーと対決したが、やはり及ばずラガーソードの露と消えた。

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ローチャー隊

 ローチャー隊はローチャーが本星から率いてきた5人の隊長とその部隊を指すが、良く見ると少し怪しげな集団である。見てみると継続して艦隊を率いているのは5人のうちジャクソンとエンマの二人だけで、ベルトランも一度地球艦隊と交戦して以降は取り下げ(ハドラーと交替)られている。また、ローチャー自身が艦隊隊長クラスという発言をしており、ガルベストン艦隊は1艦隊40隻であることから、ローチャー隊の全容は多くても120隻、実働している様子からは60〜80隻くらいの艦隊を指揮官や編成(本星や探査基地の部隊を加えつつ)を変えつつ用いているようである。ローチャー自身の階位の低さもあって、ガルベストンの中でも下克上の風潮が強い集団で、グループを組みつつもメンバー相互の人間関係は希薄で、ローチャー自身が仲間を差し置いて探査基地や本星の有力指揮官を抱き込んで彼らより優遇することもしばしばである。このように機会主義的、実利主義的な集団では、打倒ダイラガーという成果主義がグループの唯一の結束手段である。

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マッケニー

 ローチャー5人組の一人で隊長クラスの将校、しかし、艦隊を率いる描写はなく、ローチャー自身が隊長クラスのため、おそらく参謀か小部隊の長である下級隊長(士官)クラスと思われる。後の作戦会議でローチャーと同席していた仮面姿の将校に含まれる可能性がある。

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ベルトラン

 ローチャー隊の一部を率いてラガーガードと対決した5人組の一人、しかし、全滅したわけでもないのに以降は登場しないため下級士官と思われる。後にハドラー艦隊が登場するが、これはベルトランと指揮権を交代した可能性がある。

今週のバトルアタッカー(1分20秒)

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武器:ビーム(左手)、ソード、ハンドスパイク

空洞惑星の地底に潜んでいたベルトラン隊のバトルアタッカーは強力なビーム砲装備など一見火力重視の機体に見えるが、その実はソード戦を得意とする格闘戦用機である。ソードは普段は格納されているが、ソード戦時にダイラガーソードと同じく形成され、左腕はハンドスパイクとして格闘戦に用いられる。ハンドスパイクとソードを用いた格闘能力、パワーはダイラガーを上回っているものと思われる。が、ソード戦で優勢に立ちつつも背後に回りこまれ、真上からラガーソードで真っ二つにされる。

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 前のグラヴV以降登場したバトルアタッカーは二足歩行やソードの装備など先行するダイラガーの異母弟のようなマシンであるが、後発だけに戦闘能力もパワーもダイラガーを上回るマシンが多い。バトルマシンの時代はダイラガーがラガーソードを抜き放った時点で決着はほぼ付いていた感じがあったが、新型機はそこでも侮れない性能を発揮し、得意のソード戦でダイラガーのお株を奪う機体まで登場している。

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