トンデモ司令官ルチアーノ編第3弾、前回のチャーチ艦隊との戦いから少し時間が経っており、戦艦ラガーガードとその艦隊は惑星Kから前線基地まで残り3分の1の距離にある惑星Oにまで進出していた。「地球からの増援艦隊は急には間に合わない」、惑星で修理を続けつつ、司令の伊達は地球で増援艦隊の編成が行われていることを伊勢に伝える。どうも彼らはその後も小規模な戦いを続けていたようである。27話の宇宙要塞の戦いは一見普通の話だが、良く見ると結構ものすごい戦いで結構シビアな内容である。
ガルベストン前線基地ではラフィット艦隊が宇宙要塞に到着したことが伝えられる。地球の銀河進出の要衝である宇宙要塞、ここを潰せば地球を守る砦はなくなる。「ラフィットに生きて帰るなと伝えよ」、司令ルチアーノはラフィットに死んで来いと言い、ドールン隊長に惑星Oに停泊中の地球艦隊の進撃を阻止するように命じる。宇宙要塞さえ潰せば連合艦隊も進撃を諦めるという読みだが、相変わらず人使いが荒い司令官である。
地球側は出羽総司令が出戦して要塞の指揮を取っている。以前の要塞司令は伊達だったが、彼は連合艦隊司令官に転属したため、伊達の上官の出羽が出てきている。それだけなら地球軍高級幹部の人材の払底ということだが、実はそれだけで済む話ではなく、この宇宙要塞、見ると結構お寒い状況になっている。
筆者もレビューのために再視聴して初めて気づいたが、実はオペレータなども描き分けがなされており、出てくる兵士やオペレータの人相風体が戦艦ラガーガードや連合艦隊の兵士に比べ明らかに老けているように見えることがある。
ここでハタと気がつくのは、三惑星連合というのはガルベストンみたいな軍事国家ではないということである。銀河警備軍の兵力は元々多くなく、ここにいるのは正規兵と言うより、後置部隊や予備役など二線級の部隊から足腰の立つ人間を総ざらいしたような面子ばかりである。そうなると、これは結構大変なことが起きていると気づくことになる。
「地球からの増援艦隊は急には間に合わない」
冒頭の伊達司令のこの言葉はかなり意味深である。増援は編成されているので地球や三惑星連合の国力が尽きたというわけではないが(爆撃さえされていない)、官僚組織である銀河警備軍の戦力は払底しつつある。総司令の出羽は伊達や酔狂で前線に出てきたのではなく、本来戦場に出ないようなロートルの兵士たちを掻き集めて出戦させた以上、警備軍トップの彼は陣頭に立たなければいけなかったのである。ここでトップが体を張らなければ、若い兵士たちと違い、年老いた父母や妻子を持つ、こういった兵士たちがどうして必死で戦うだろうか。
「これはかなりまずいんじゃないか」、再視聴して気づいた銀河警備軍の払底ぶりに注目してこの要塞戦を視聴すると、概ね話はこちらの想定通りに進んでいることが分かる。ラフィット艦隊も多いとはいえないが、やはり二線級の戦力は脆く、前回よりも容易に要塞の防衛網は突破されてしまう。加えてバトルマシンの攻撃があり、前回でもなかった動力室への侵入を許してしまう。そしてすでにおなじみになったラフィットのチート勧告。
ラフィット 「地球司令に告ぐ、要塞は完全に包囲した。戦っても無駄だ。もう抵抗を止めて降伏せよ。もはや、君たちは全滅寸前なのだ。要塞を放棄して立ち去れば、命だけは助けてやる!」
出羽 「我々は最後の最後まで戦い抜く、降伏など絶対にしない!」
ラフィット 「ハーッハッハッハ! 強がりだけは一人前だな、それではゆっくり最期を見届けさせてもらうぞ、我がバトルマシンの威力を、思い知れ!」
ラフィットが地球軍の総帥出羽(カポネーロに相当)を半人前扱いしていることに注意、最初この意味が分らなかったが、出羽がロートル兵士を寄せ集めて抗戦したのなら納得は行く。ラフィットも攻略はしたものの、地球防衛の要衝に何でこんな弱兵ばかりいるのか不思議だったに違いない。
この戦いで一つ感心したのはラガーガード艦長の伊勢の災厄情報の扱い方。宇宙要塞の戦いは不利だとクルーに率直に伝えつつ、コメントを加えてクルーらの士気が阻喪しないように配慮している。宇宙要塞はラガーチームの訓練所で、戦況は彼らにとっても気がかりなものだった。守備兵力が強力なものでないことを知っていればなおさらである。
「最悪の状態になっている。 しかし最後の最後まで希望は捨てないぞ。」
今週の言葉は伊勢艦長、真相を教えると動揺するからと気まずい情報を隠蔽することはどこでも見られる光景だが、現代ではそういう対処はむしろ好ましくない。隠蔽されている分、憶測が憶測を呼び、それが政府や組織の不信に繋がるからだ。市民の知性を信頼して包み隠さず事実を教え、希望を失わないように励ますこと、たぶん脚本家藤川の時代に行われていたことはその逆だが、本来はこうあるべきと彼はこの場面を書いている。
総司令の最期かと思いきや、出羽はバトルマシンにエネルギー転換炉の高熱粒子を浴びせて爆破する。要塞に近づきすぎていたラフィット艦も大破し、地球軍を見くびっていたラフィットに出羽は総反撃を命じる。
「地球防衛艦隊の諸君、敵のバトルマシンは爆破した。奮起して敵艦隊を撃破しろ!」
「肉を斬らせて骨を断つ」、出羽の反撃命令で生き残った要塞砲が火を噴き、無人スナイパーミサイルがラフィット艦を直撃する。要塞は大破しつつ、敵を十分引きつけた出羽の反撃でラフィットは戦死し、旗艦を失った艦隊は文字通り総崩れになって壊滅する。
ここで反撃を指令する出羽の言葉で、これまで総司令自らが指揮していたロートル軍団の名前が明らかになる。「地球防衛艦隊(アース・ディフェンス・フリート)」、星間国家である三惑星連合の時代では、地球を守る軍隊はアメリカの州軍と同じく、ローカルな後置兵力なのである。
連合艦隊を編成した後の兵力を全て掻き集め、総司令の出羽自らが陣頭指揮に立ち、文字通り、肉を斬らせて骨を断つ作戦でガルベストンの進撃を食い止めた銀河警備軍、しかし、彼らの戦力もすでに尽きていた。この戦いで宇宙要塞は放棄され、矢尽き刀折れた地球政府の防衛担当の一官庁、銀河警備軍の戦いは終焉する。続く戦闘は総力戦、もはや官僚の戦いではなく、戦いは三惑星連合の各々の国民に引き継がれることになる。
ベストを尽くした後、率直に自らの限界を認め、軍権を差し出して、続く戦いを国民とそれを代表する政府に委ねた銀河警備軍の軍官僚と、ほとんど国を乗っ取る様相で度重なる敗戦をひた隠しにし、専横を続けたガルベストンの軍官僚、意識的にどこかで見た光景が描かれているが、どちらが我々にとって望ましい政府の姿かは、あえて書くまでもない。
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