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 機甲艦隊ダイラガーXV(1982) 各話レビュー

 第6話「流星雨に散れ」

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この忠告を受け容れぬと、
諸君は天からの制裁を受けることになるぞ!

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流星惑星
 ラガーガードが行路の途中で停泊した小惑星、どうも大規模な遊星群のただ中にあるらしく、地表は降り注いだ隕石で凸凹になっている。この宙域についてはガルベストンの方が調査が進んでいたらしく、ドレイクが伊勢らに流星雨の襲来を警告する。

あらすじ

 就寝中のガルベストンの隊長ドレイクは艦が流星雨に巻き込まれる夢を見る。同じ頃、次の恒星系に向かっていたラガーガードは以前ドレイクたちが遭難した流星雨に巻き込まれていた。ドレイクは副官ロシェに艦を流星雨に急行させるように命じる。

見どころ

 「ロシェ、艦を廻せ、全速力だ!」、この作品を見る楽しみの一つであるキャラクターたちの内心のコンテクスト、ドレイクはガルベストン軍人としてラガーガードを撃滅しようとしていたのか、それとも救助しようとしていたのか。前回でアシモフが敵と気づきつつ救助活動を行った描写と対比したい。彼の行動は「あくまでも地球人全滅を狙う卑劣な敵」と解釈しても筋は通るし、たぶん、大方の視聴者(10歳前後)の見方はそうだろう。しかし、保護者の年代になると、ドレイクがラガーガードを助けようとしているように見えるのである。この二重のコンテクストはこの作品では度々用いられているが、非常に高度なシナリオ技法である。

 「なぜそのようなことをするのだ」、損傷したラガーガードを流星惑星に追い込み、自ら回線を繋いでラガーガードと交信するドレイク、宇宙図の作成と諸生命の融和という伊勢による旅の目的の説明に、彼は不審な素振りをする。彼との対話の過程で地球側は敵の名がガルベストン帝国ということ、銀河支配を狙う軍事国家であることを知る。「とにかく、諸君らは地球とやらに帰るのだ」、素っ気なく伊勢との交信を打ち切り、攻撃もせずに不可解な言葉を残して引き上げるドレイク。その理由はすぐ後に明らかになった。大流星雨が惑星に迫っていたのである。

「この忠告を受け容れぬと、諸君は天からの制裁を受けることになるぞ!」

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 今週の言葉はドレイク隊長、ロボットアニメの好きな10歳のお子様なら、その後降り注ぐ流星雨と合体して血路を拓くダイラガーに「ガルベストンはやっぱり悪い奴」だと思うが、一緒にテレビを見ている保護者はこの場面に首を傾げるに違いない。交信の必要はなかったのである。ドレイクがわざわざ着陸して交信しなければ、事情を知らないラガーガードは修理中の惑星で流星雨に穴だらけにされていたに違いなく、「天からの制裁」、敵である彼の一言が艦を救ったのである。そうなれば、冒頭のシーンと副官ロシェとの以下のやり取りは、やはりラガーガードを救助しようとしていたのではないか。

ドレイク 「ウム、、」
ロシェ 「隊長、流星雨が収まりそうです。」
ドレイク 「間に合わぬか、、」
ロシェ 「ドレイク隊長? まさか隊長は奴らを?」
ドレイク 「ウヌ、、ロシェ、私は彼らを助けるために航路を変えてまで来たと思っているのか?」
ロシェ 「は、はあ、、」
ドレイク 「バカめ、私はガルベストン帝国の軍人だぞ。祖国の利益をまず考える。あの謎の艦は我がガルベストン帝国に取って極めて有害だ! 放っておいたら取り返しのつかないことになる。叩くなら今のうちだ。いくら流星雨を抜けたといっても、無傷でいるわけはあるまい!」


 子供向けだから複雑なストーリーはウケないとか、政治劇はダメというのはあくまでも販売会議での大人の意見で、現実はどうも違うというのは少し事情を観察すれば分かる話である。実際は子供向けでもあからさまなアクションとか幼稚化した設定などの作品は子供にもウケない。東映でもサンライズでも評価されているのはストーリー性の高い作品で、今回の話のように「子供にちょっと分かるかな」といった作品でも、実は案外見られてしまう。そして、そういう作品は大人になって見ても別の発見があるものである。ヤマトや東映映画で腕を磨いたベテラン脚本家、藤川桂介の円熟した筆力を楽しむ、これがこの作品の大人の楽しみ方である。

キャラクター紹介

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ドレイク (CV山本竜馬)

 ラッカルの後任のガルベストンの副将でテレスの部下(ハト)、勇猛だが思慮深い人物でテレスが最も信頼する彼の謀将、前線基地司令官の直属、惑星探査隊指揮官としてグラモン、バラタリアなど他の諸将を束ねている前線基地のナンバー2。副官にロシェがいる。渾身頭脳のような性格でラガーガードや地球艦隊の動きを常に観察し、地球側の意図を探っている。戦術家としても優れており、ミラ星、サラ星艦隊を撃破するなど彼の作戦は地球艦隊を度々苦しめている。ラガーガードが接触した最初のガルベストン人で15話では伊勢との直接会談に望んでいる。16話のバラタリアの反乱以降は降格され、一艦隊の指揮官に収まるが、テレス後のルチアーノ司令には冷遇され、圧倒的多数の地球連合艦隊との戦いに挑んで戦死する。彼の死はテレスに衝撃を与えた。

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ロシェ

 智将ドレイクの名副官ロシェ(ハト)はドレイクの片腕である。ドレイクとは強い信頼関係で結ばれており、彼の不在時には臨時に艦隊の指揮を取ることもある。同じく艦隊の指揮を取った副官は彼のほかにはエンマ艦隊のサムス(仮面なしの隊長クラスの副官)しかいないことでも彼の優秀さが伺える。地球との和平を望むテレスの意を受けたドレイクの心境を良く理解しており、また軍事的にも有能な補佐役として地球艦隊に対する勝利に貢献した。23話ではドレイクの最後の戦いに随行し、ドレイク共々壮絶な戦死を遂げる。

今週のバトルマシン(1分10秒)

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武器:ビーム砲、ロケット弾、牽引ロープ爪、機関砲など

 ドレイク隊のバトルマシン第3号、土建メカのようなこれまでのタイプに比べると宇宙戦に特化したタイプのようであり、外見も従来のメカロボより洗練された形状である。手足などは付いていないが、その分宇宙空間では俊敏でダイラガーのビームを幾度となくかわす。武装も多彩でビーム砲や近接してのロケット攻撃、機銃などようやく登場した初の戦闘マシンといった趣きの機体である。間にラガーガードが惑星に避難したり修理したりするシーンがあるため五月雨式にダイラガーと戦うが本格的な戦いが始まった後は1分足らず(40秒)でラガーソードの露と消えた。これまでの機体に比べれば戦闘マシンっぽいが、こんなエビの化け物でダイラガーに勝てるはずもなかった。

「隊長」という階級


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 この作品が放映された80年代当時は戦争の影響から軍国主義や軍隊的価値観の発露は現代よりも厳しかった。例えば宇宙戦艦ヤマトはヤマトに乗艦する主人公らは「ヤマト隊員」であり、また、それより前の作品「0戦はやと」も、明らかに戦闘機である零式艦上戦闘機に登場する主人公らは「正義のゼロ戦隊」の所属で軍隊ではなかった。

dairugger 太平洋戦争の体験がある程度公の場で論評できるようになったのは実は案外遅く戦争から30年近く経った70年代半ばのことである。その典型的な作品は吉田満の「戦艦大和ノ最期」であるが、これは1974年(宇宙戦艦ヤマトよりも後)に公表された作品である。戦争体験者である吉田には高度成長とその後に続くヤマト・ブームに批判的な傾向もなかったとはいえない。

 その後、ガンダムの登場を経て階級など軍隊的価値観についてはある程度社会的な認知も行われるようになっていくが、80年代はまだまだ厳しかった。一応ダイラガーでは登場人物たちは軍人と名乗っており、彼らが軍人であることは間違いないのだが、階級について言及がないために、彼らの上下関係は分かりにくいものになっている。

 一応、彼らの階級を現代風に当てはめてみると、伊勢は「キャプテン」と呼ばれているので、階級が海軍のそれとすると彼は大佐である。あと、階級について言及されている士官はないが、「チーフ」と呼ばれている安芸たちはたぶん少佐くらいの士官と思われる。ラガーメンバーはいわゆる尉官で少尉〜大尉級の士官だと思われるが、この辺は妥当な線でもある。伊勢は年齢の割に階級が高いような気がするが、少佐や中佐を「キャプテン」とは呼ばないし、ラガーガード最大の攻撃力であるダイラガー指揮官としては大佐でも格下くらいで、米海軍の機動部隊では伊勢と同格の士官は准将の地位が与えられている。

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 探査艦ラガーガードは組織の点から見ると複合的な船で、作品ではアシモフ率いる甲板員など艦の運営要員と伊勢らの機動部隊チーム、サーチなど科学者チームと組織が明確に三分されている。各々の組織は独立しているようであり、運営要員の長がアシモフである。明らかに下士官の甲板員が陸奥を殴りつけたり、アシモフが独断でラガーメンバーを出動させたことを伊勢に詫びるシーンがあるため、アシモフは艦全体の長ではなく運営要員の長で、おそらく伊勢より先任の大佐と思われる。後に登場する伊達や萩、出羽などは現代で言う将官級の士官だろう。一覧するとこんな感じになる。

少将ケール、ネグレ、萩、伊勢(艦長就任後)
中将伊達
大将出羽、アシモフ(昇進後)

 伊勢はラガーガードの艦長就任後は艦の運営とラガーメンバーの指揮を兼務するようになり、加えて艦隊指揮も行なっているため、やはり将官に昇進したというのが妥当な所である。14話で合流した萩との上下関係は不明だが、会話の様子を見ると艦長就任前と後で明らかに態度の違いが見られるので、少なくとも同格(准将以上)にはなったことが察せされる。  要塞司令の伊達は連合艦隊転出後は大将でもおかしくないが、没後の艦隊司令アシモフと比べるとその裁量に明らかな差があり、また、艦隊の戦力(伊達:寄せ集め、アシモフ:最新鋭艦)、規模も異なることから、アシモフは2階級特進で大将に、交渉らしいことは何もしなかった伊達は中将止まりというのが妥当な線である。出羽は銀河警備軍のトップで、元帥でもおかしくないが、銀河警備軍に元帥の階級があるかどうかは定かで無いので、一応自衛隊の幕僚長や米軍の統幕議長と同じ大将級の将官だろう。ダイラガーの階級は今風に直すとこうなる。

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 ガルベストンの場合は上の五名は全員隊長と呼ばれているので混乱するが、どうも隊長というのは士官全般を指す言葉で、惑星探査隊長というのがテレス以下では最も高官のようなので、また、各隊長が率いている艦隊の規模が15〜40隻と大きいことを考えると、いわゆる「隊長」は最低でも少将級の将官で、ラフィット、グラモン、チャーチなどは少将と思われる。惑星探査隊長は他の隊長との上下関係があいまいのため中将の可能性もあるが、おそらく少将で他の隊長と同格と思われる。この同格の将官相互に優先関係が希薄なことはガルベストン軍の欠陥の一つである。ガルベストンは地球と比べると組織はあまり整然としていない。テレスは帝国軍のおよそ半数を率いる前線基地司令という地位からして大将級の将官で、サーク、アントノフなどは隊長と呼ばれていても佐官や尉官の将校だろう。これも一覧するとこんな感じになる。

尉官ないし佐官
(大尉ないし少佐)
アントノフ、サーク
少将ドレイク、グラモン、ラフィット、ティーチ、モーガン、バラタリア、チャーチ、ローラン
その他多数、ほか、ローチャーなど
中将ジゴローネ(憲兵隊長)、テレス(探査基地赴任後)、ローチャー(司令就任後)
大将テレス、カポネーロ(軍事大臣)

 前半から中盤にかけてのガルベストン前線司令部のまとまりの悪さなどはテレス以外の全員が同格の隊長と考えれば説明がつく話であり、各々の隊長のスタンドプレーを阻止できないことは地球側と異なり階級制度による規制がなかったためと考えれば、この場合はむしろ階級制度を表に出した方が視聴者にはわかり易かったと思われる。

 テレスは前線基地司令から探査基地司令に赴任する際に父テスが「格下の仕事」と憤慨する場面があるが、これがおそらく前半でも度々出ていた「惑星探査隊長」の職責で、となると、探査失敗と地球艦隊敗戦の責任を問われた彼は一度降格され、探査隊長として赴任したというのが妥当な所で、これも階級制をきちんと書いておけば降格された彼の悲哀も良く分かる話である。あるいは階級は据え置いたまま職階だけ下げられたか、そういった感じの描写になっている。

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