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An another tale of Z

 Zガンダム第1クールのレビューを終えて 小林昭人さんインタビュー

戦中派の戦争体験が織り込まれた痕跡が
最初のガンダムには随所にある。

2.擬似戦争ドラマ

■カオル 再放送が繰り返されて人気となった「機動戦士ガンダム」。どこが「特別(スペシャル)」だったのでしょう?

■小林 玩具用販促ロボットというマンガなデザインで、第二次大戦級の大戦争を大まじめにやっていた点でしょうね。とにかく一つ一つの描写がひどく現実感があり人間臭い、アニメというよりは戦場ドキュメンタリーみたいな所があった作品なんですよ。これはですね、制作陣の中に戦中派がいたんです。一応この作品は富野喜幸氏の作品ということになっていますが、後のサンライズ社の社長や役員ですね、この辺には戦争体験者がいた。

■カオル 傍証はあるのでしょうか?

■小林 ガンダムはロボットアニメで初めて軍隊の階級制を本格的に用いた作品ですね。少尉とか軍曹とか普通に出てくる。実はこれ、当時の環境じゃ聞かないと分からないものなんです。同じ頃の東映映画じゃ軍曹が平気で大尉殴っていましたから(兵隊やくざ)、「初の修正主義的映画」と呼ばれたなんか、ガンダムより後の映画のくせに曹長のほうが少尉よりも偉い(笑)。ピンタしたりランボーみたいに重機関銃を持って「くたばれー!」なんて米兵なぎ倒していますからね。命令無視して米兵撃つなんか普通、これが当時の軍隊知識なんです。

■カオル 今とはだいぶ違いますわね。

■小林 だから、市井に知識のない当時の制作者が体験のある上司に聞くのは当たり前なんです。当時は吉田満の「戦艦大和ノ最期」を皮切りに、戦争体験の話をしても良い的なムードが戦後30〜40年近く経ってようやく出てきました。当時10〜20代だった人なら定年ですよね。しかし、まだ老いぼれるには至らない。だから若い世代に聞かれれば知識を披露すると同時に口も出したと思います。そういう痕跡は最初のガンダムには随所にありますね。

■カオル 「特別」な作品になり得たのは、そういう背景があったからなんですね。実をいうと私もガンダムで軍隊の階級を覚えたクチです。当時のガンダムブームの最中、ガンダムは戦争を肯定的に描きすぎている」という批判の声があったことも覚えています。それの対して新聞に、「若者たちはこの作品の人間ドラマに惹かれているのだ」と解説する記事が掲載されたこともありました。この辺りも、先にブームになったヤマトとは少し違っていますね。ヤマトの頃はまだ階級も艦長の下が「班長」と軍隊式を避けていました。

■小林 後の時代になると彼ら(サンライズ役員)は本当に老いぼれてしまいますので、このテイストは引き継がれなかった。ちなみにガンダムの階級は日本陸軍のそれですね。曹長とか伍長なんて階級は海軍にはないんです。まあ、人数の点からも海軍より陸軍経験者の方がマスが多かったと思います。そういう点でもドメスティック、特異な感じがしますね。そして先に言った再放送がありますから、この作品を82年に視聴したとして、Zガンダムは85年、人によってはたったの三年間です。このくらいなら多くの人は話を覚えているでしょうし、現に覚えていたと思います。映画を見に行った人の後、82〜83年に視聴した人がおそらく多数派です。

■カオル アニメ雑誌やムックもたくさん出版されていましたからね。私は再放送も劇場版も、1回ずつぐらいしか見ていませんが、「ロマンアルバム」を買いそろえたりして、場面やセリフは自分でも驚くほどよく覚えていました。

■小林 で、Zガンダムをこのファースト(最初のガンダム)の続編としてみると、全てにおいて違和感がある。

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