MUDDY WALKERS 

An another tale of Z

 MUDDY WALKERS◇  

 

 SF小説”An another tale of Z” 小林昭人さんインタビュー

「Zで積み上げられたものを壊してこそ、
新しい可能性を生み出すことができる」(3)

新しい世界観の中で蘇るキャラクター

当初の設定よりも、彼女を女帝でヒロインとした
ZZスタッフの解釈の方がハマーン「らしい」。
ならば、それにふさわしい実を。

 主人公以上に第一部で特別な輝きを放っているのは、ヒロインであるハマーン・カーンです。彼女も原作の設定とはまったく違った存在ですが、彼女をジオン公国の皇女としたのは?

■小林 ハマーンについてお話しするには、まず、原作のハマーンがどういう女性だったか定義する必要があるんじゃないかと思います。私の見方では彼女は「ミネバの看護婦」で、それ以上でも以下でもない。ただ、キャラクターデザインも良かったし、声優の榊原良子の好演もあって設定以上に良いキャラクターになっている、という印象がありました。続編のZZガンダムでは事実上のジオンの女帝でヒロインになっていましたが、そうなったのは、やっぱりZガンダムの描きように原因があったと思うのですよ。何も知らない人には、ハマーンはどう見てもジオンの支配者にしか見えなかった。 
 この作品のハマーンはジオンの皇族で、ミネバの叔母にあたります。系図からいえば傍系になるのですが、主要な皇族がほとんど死に絶えているために、皇位継承者となっている。こういう設定にしたのは、やっぱり私は富野さんの当初の設定よりも、ZZなどで示されたスタッフの解釈を支持しているということですね。それにふさわしい実を考えたわけです。

 ハマーンは皇女としての立場と、十九歳の恋する少女としての立場の間で大きく揺れ動くキャラクターですね。

■小林 見ての通り、彼女にはいろいろと無理があります。まず属している国がああいうものですし、彼女自身私人としてよりも公的機関としての役割の方を優先せざるを得ない傾向がある。
 先にマシュマーの話がありましたが、価値観でいえばハマーンにむしろ注目していただきたいですね。作者としては細かい部分で書いているのですが、彼女はマシュマーのようなコスモポリタンじゃありません。さりとて、マハラジャのような保守本流でもない。実は民主主義者でもないというのは後で分かりますが、相対している国(同盟)とは価値観の点で正反対の存在なんですよ。マハラジャみたいな人はそうでない時代も知っていますから、その点、価値を相対化して融通無碍に振る舞えますが、ハマーンには最初から帝国主義の物差ししかない。肩も凝りますし、気疲れもしますよね。しかも、性格は基本的に真面目。ですからプライベートな時間で「少女の一面を垣間見せる」のさえ、彼女の場合は逡巡しますし、葛藤があるわけです。
 この作品では同盟はジオンに比べれば劣等国ですが、その国を見る彼女の視線というものは、マシュマーという窓を通してですが、ある種羨望に近いものがあったはずです。ジオンでは抑圧されていた彼女の感情鬱憤というものを、同盟では割と普通に発露することを許されている。そういう彼女が変わっていく過程は、たぶん、三話あたりから徐々に書き進めていったと思います。最初は軍事作戦という名目でのお忍びでの外出から、だんだんとエスカレートして大胆になっていきますよね。

 一方で、皇女としての彼女はあまりにも優秀であるために、読者にとっても時折近寄りがたい存在と感じられるかもしれませんが。

■小林 それゆえに彼女は孤独です。生まれながらの出生の秘密と併せ、彼女は日々ダモクレスの剣のようなものと向かい合っている存在なんです。彼女の心には実は大きな大きな闇があります。末期以降のエリザベス一世のように、彼女は冷酷無表情無慈悲な存在に常になろうとする方向にバイアスが掛かっているのですよ。ですから、一般の人には何気ない仕草でも、彼女にとっては必死の演技です。その辺を読者の方々が何気に掴んでくれれば、作者としてはニヤリという所でしょうね。どうやって闇に打ち勝つのか、それも彼女の魅力の一つです。

→(4)第二部の展望 へ

<<BACK  NEXT>>