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An another tale of Z

 SF小説”An another tale of Z” 小林昭人さんインタビュー

「Zで積み上げられたものを壊してこそ、
新しい可能性を生み出すことができる」(1)

創作の動機と、目指したもの

「正統なる続編」を否定するなら、
作話だけでなくマーケティングでも上を行くこと。
そうでなければ書く意味がない。

 本作は、2005年からウェブ版として公開されていたそうですね。作品のコンセプトの一つに、「機動戦士ガンダム」の続編ということがありますが、すでに20前に「Zガンダム」という続編が製作され、一定の評価を得ている中で、あえてそれに変わる続編を書こうと思われたのは、なぜですか?

■小林 一連のガンダム諸作品を見てみると、いわゆる「ガノタ」の諸々の議論が始まるのは「Zガンダム」からなんですよね。私の場合も「逆シャアの後」とか、「一年戦争から百年後」といった迷惑にならない位置での創作も考えることはできました。しかし、そういう作品の場合、「Zガンダム」の後に延々と繰り返されてきたパターンを無視できない。少年が、親父の作ったモビルスーツに乗って成長していく、というストーリーです。ファーストガンダムから百年後なら、もう五回くらいはやられていますよね、これを作品に織り込まなきゃいけない。
 しかし「Zガンダム」の時点なら、それを考える必要はありません。なぜなら「少年が大人になる物語」というのは「Zガンダム」が発明したものだからです。正確にいえば「Zガンダム」というのはその前年までに放送されていた「ザブングル」「ダンバイン」「エルガイム」の延長上にある作品ですから、「ザブングル」が発明したパターンということですが。「イデオン」がそんな作品かといえば違うと思いますし、「Zガンダム」とほぼ同年に放映された「レイズナー」の主人公エイジは最初から訓練されたパイロットでした。「少年が大人になる物語」はアニメSFのスタンダードではなかったんです。全て「Zガンダム」から始まっている。


▲「機動戦士ガンダムUC」のPV

 だからガンダムの場合、一見シリーズは厖大に見えますが、「Zガンダム」さえ崩せばどんな続編でも創作は可能になります。その前でもその後でもうまく行かない。たぶん、綿々と繰り返されてきたガンダム作品と同じようなものしか作れないと思います。最近もそんな作品がありましたが、そうなってしまうんです。
 そして、放映二十年後の時点では「Zガンダム」は既に昔の作品で、賞味期限はとっくに切れており、作風にも旧さとアラが目立つものになっていました。そういうわけで、これを作り直すことには実はほとんど抵抗がありませんでしたね。

 「Zガンダム」で確立された「少年が大人になる物語」というガンダムのストーリーラインを壊して新しい物語を創作するという意図があったということですね。

■小林 そうですね。実は私の作品では戦闘シーン、描写こそ短切ですが、どのガンダム作品よりも毅然と人を殺しています。そういう大会戦がもう四話にあるのですが、これはその辺りのことを相当考えて作った話なんです。
 その理由ですが、一つはまず、「カミーユ・ビダン」みたいな主人公は出さないという意思表示です。ガンダムは最初はいつも緩慢とした戦闘で、主人公が乗っているガンダムがたまたま無敵なために、多少撃たれたくらいでは死なない。周りは適当に死ぬので、それを見て、「これが戦争?」とか、「こんなの人の死に方じゃないですよ!」など、主人公が非日常の世界に放り込まれて愕然とする台詞があるわけです。
 が、この作品の世界は違う。登場するのはいわゆるプロの軍人です。致死性の弾がいきなり飛んできますし、それに対応できるだけのスキル、訓練を積んでいなければ最初の五秒で死ぬ戦場、それがこの作品の世界です。なぜそうしたかといえば、たぶん一番大きな理由は「最初にガンダムを盗むような話にはしたくない」ということでしょうか。この作品の戦場では、ガンダムに乗っていようといまいと、カミーユ・ビダンのような素人や、マニュアルを持ってガンダムに乗ったようなアムロなら、まず確実に死んでしまいます。これは「ガンダム式」の作劇よりインパクトがあると思いますし、より実際にも近いのではないでしょうか。

 二つ目の理由は、やっぱりそうは言っても、「ガンダム式」の作劇は成功率が高く、それなりに完成されたシナリオだったということです。主人公が素人だとは視聴者は分かっていますから、「次どうするんだろう」「ああするんだろう」と例えばエマに言い寄るようなカミーユのつまらない行動にも意味を考える。現にファースト以外のほぼ全作品が、この辺ではつまらない話しかしていません。それだけ、「型」というものの完成度が高かったんですよ。これは私が最初に素人からプロ同士の戦いにしたところで覆せるインパクトじゃない。だから、最初の戦いが終わったら、次は主人公たちをもっと苛烈な戦場に叩き込む必要がありました。しかし、これには実は三つ目の理由が折半するくらいの比率であったかもしれない。

 三つ目の理由は、「Zガンダムがコケた理由」です。「Zガンダム」の展開は遅く、十話近くまでモビルスーツといえばガンダムとハイザック、ガリバルディ、リックディアスしか登場せず、艦隊戦といっても数隻で、アーガマとアレキサンドリア、サラミスしか登場しなかった。この調子で二ヶ月も続けば、視聴者の半分から三分の一は見るの止めてしまいます。そうなると、店頭にハイザックのガンプラを積み上げたおもちゃ屋さんはどうなるでしょう?
 だから私は、大会戦を第四話、放映一ヶ月後に持ってきたんです。ファーストは何をやっていたでしょうか、五話で大気圏に突入して、六話でガルマの大機甲師団と戦っていますね。この辺が視聴者と小売店の忍耐の限度です。既にある「正統なる続編」を否定するような作品を書く場合は、作話のみならずマーケティングにおいても上を行かなければいけません。そういう作品でなければ、そもそも書く意味がないと思いますね。

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