MUDDY WALKERS 

An another tale of Z

 SF小説”An another tale of Z” 各話レビュー

第7話「自由コロニー同盟」

 マシュマーと永遠の別れを誓って本国に戻ったハマーンは、12歳の公王ミネバから木星艦隊司令官解任の辞令を受ける。そのあと父のマハラジャ・カーン首相から新たに外交官に任命され、自由コロニー同盟の首都オルドリン市にあるジオン公使館へ転任をすることになる。華やかな宮廷生活を離れ、一般市民とほぼ同様の扱いで新任地に赴任することになったハマーンは、慣れない生活、そして自由で民主的な社会の有り様に戸惑いながらも、次第に同盟の空気に順応してゆく。しかし、封印したはずのマシュマーの記憶が、彼女を悩み悲しませるのだった。一方のマシュマーもまた、木星艦隊司令を解任され、本国へと戻ることになる。木星から地球圏への長い旅路、船上で過ごす彼の頭に浮かぶのは、やはりハマーンのことだった…。

【この一文!】
 リーデルはジュグノーの会社の顧問弁護士をしていたことがある。ハイマンを調査員として首相に紹介したのはジュグノーである。依頼の内容までは知らないが、ハイマンが木星に行ったことは知っている。
「彼はジュグノーさんのおっしゃる通りの優秀な調査員でしたよ。調査結果はお見せできませんがね、立派な内容でしたよ。」
「それは良かった、リーデル君。わしもあの子は気の毒だと思っておる。」
 別にジュグノーは根っからの封建主義者ではない。リーデルも良く知っている。レダでのあの二人の功績は抜群だった。グラスを掲げ、ジュグノーはリーデルと乾杯すると、マティーニのグラスを一杯煽った。
「レダ星域会戦における、若い二人の功績を祝して、乾杯!」


▼首相官邸で開かれた晩餐会で顔を合わせた、自由コロニー同盟のリーデル・フォン・ミッテラー首相と、ジオン公使ジュグノーとの会話。一方はマシュマーの上司、もう一方はハマーンの上司である。「レダ星域会戦」以来、二人の関係をあれこれ詮索する輩が出てくるが、彼らも、あるいはその一味、いや首領の一人といってもいいかもしれない。しかし、一つの事象に対する受け取り方は、千差万別。ここでおおらかに乾杯できる二人に、「自由コロニー同盟」の新しくすがすがしい風を感じる。

第8話「再会」

 数ヶ月の船旅を終えて、木星から地球圏のコロニー「サイド5」に帰還したマシュマー・セロ。首都オルドリン市の宇宙港に降り立つと、そこには永遠の別れを誓ったはずの最愛の女性の姿があった。偶然か、それとも運命に引き寄せられてなのか、二人は今度は自由コロニー同盟の首都オルドリンで、ともに任務につくことになったのだ。あまりのことに、すぐにはロマンティックな気分になれない二人。しかしそれもつかの間のことだった。
 もう一人、マシュマーの帰還を待ち構えている人物がいた。首相のリーデルである。首相官邸にマシュマーが出頭すると、人払いをしたリーデルはこう問いつめる。「単刀直入に聞こう。君は我が国の軍人か、それともジオンのスパイか。」二人の関係は、すでに首相の知るところになっていたのだ…!

【この一文!】
「危機の原因はノイマン社がジオン本国での競争試作に敗れたことだ。これまで軍は複数のメーカーに按分して注文していたが、第三次軍備拡張計画では競争試作の勝者にのみ発注することになった。平たい話が、軍がノイマンを見捨てた、そういうことだ。技術が低いわけではない。「ザク」を開発したメーカーだからな。「ガリバルディ」は私も見たが制式採用された「リゲルグ」よりバランスが取れており、同盟向きの機体だ。エンジンさえ良ければ、競争にも勝っただろう。」

▼本国に呼び戻されたマシュマーの役職は、第一作戦課長、そして国防調査室参事官。彼には、同盟軍の再編という大きなプロジェクトが任されることになる。自前の戦艦、モビルスーツを製造する能力のない同盟が、連邦への依存を脱却しつつ強力な軍事力を整備するにはどうしたらいいか。モビルスーツの技術供与という形で、マシュマーとハマーンは再び共同作戦を練ることになる。そこで語られるハマーンの言葉。そこに、連綿と積み重ねられてきた「歴史」の一端が顔をのぞかせる。過去の悲喜こもごもが、登場人物の手によって今の時代に取り上げられ、未来へ躍動する力となっていく。

第9話「闇の胎動」

 同盟軍の再編成に、ジオンからの技術供与という形で関わることになったハマーンは、マシュマーの誘いでイタリアに住む姉、マグダレナ・ド・セロ伯爵夫人のもとに訪れていた。マシュマーより20歳年上の姉は、本来なら父の後を継ぐはずだったマシュマーにかわって、銀行家となっている。その姉から、二人は地球連邦軍内部で急速に勢力を伸ばしつつある新興部隊「ティターンズ」をめぐる動きについて聞かされた。
 一方、同盟の首都オルドリンでは、軍の再編、軍制改革、そしてモビルスーツの技術供与といった動きが着々と進んでいた。経営危機に陥ったジオンのノイマン社からやってきたキーゼ博士とその一行は、早々に仕事に取りかかりはじめる。リーデル首相のもとには、「ティターンズ」の奸計によって危機に陥った土星の衛星タイタンにある国「タイタニア共和国」から支援要請が届いていた。リーデルは、タイタニア政府を支援することを首相のヤビンスキーに約束する。

【この一文!】
「チェザーレに似ていると言われるのは、心外ですね。」
 マシュマーが言った。
「お父様よ、マシュマー。でも、たぶん世間があなたのやったことの意味が分かるには何年もかかるわね。そして、あなたが何者なのかも。」
 マグダレナは暖炉に薪をくべた。ずっと昔、まだ父様が生きていた頃、家族でこうして語り合ったことがある。あの時はベアトリスも生きていた。
 その前に戦死するかもしれませんよ、マシュマーがはにかんで言った。
「ハマーンはいい子ね。」
 白樺の薪がメラメラと燃える炎を眺めながら、同じく炎を眺める弟の姿は、彼女の知る父親の姿に良く似ているとマグダレナは思った。


▼マシュマーが故郷のイタリア・ジェノバに戻ったのは一年戦争以来のこと。ハマーンが休んだ後、彼は姉のマグダレナと夜が更けるまで語り合う。我らがヒーロー、マシュマーの心にくらい影を落とす、父チェザーレ。父に似ていると言われるのは心外だ、という弟をたしなめつつも、マグダレナは彼の働きを賞賛する。そんな弟に、父の面影を見ているマグダレナ。似ている、と言うのは容貌のことだけを言っているのではないのだろう。彼女の見る父親像は、弟のそれとどう違っているのだろうか。

第10話「同盟艦隊出撃」

「ティターンズ」の来襲を知ったタイタニア警備隊の軍事顧問、連邦警備隊のブレックス・フォーラ准将は、困難な戦いを予想して顔を曇らせていた。半年前にもティターンズ艦隊からの攻撃を受け、何とか追い払いはしたものの、すでに人員、物資ともに底をつきつつある。連邦に属する彼にとっては他国の出来事だが、その状況を理解したブレックスは自らも残ってタイタニアを支援することを約束していた。
イタリアでの休暇から戻ってきたマシュマーは、ハマーンとの関係が実は砂上の楼閣であったことを思い知らされる。レダ星域会戦後の政治交渉によって、木星圏は非武装化されることとなり、オルドリンのジオン公使館では、「木星非武装化宣言」を祝賀する宴が開かれていた。そこでマシュマーは、ジオンの情報部の男、マチアス・フォン・フリッツ中将と挨拶を交わす。ハマーンを同伴した彼は、彼女を「婚約者」としてマシュマーに紹介したのだ。
 あまりのショックに憔悴しきったマシュマーをよそに、同盟国防局では、タイタニア政府を支援するための土星派遣艦隊の編制が着々と進められていた…。

【この一文!】
「艦長のエドワード・マーロウ大佐であります。司令官閣下の指揮の下、タイタンまでこの艦と共にお供いたします。」
マシュマーは微笑すると、差し出されたマイクを受け取り、艦隊の全乗員に訓示した。
「全乗員に告ぐ! 同盟軍宇宙艦隊、土星派遣艦隊司令官のマシュマー・セロ少将である。本艦隊はこれより海賊勢力の跳梁により苦戦中のタイタニア警備隊救援のため、土星第六衛星タイタンに向かう。長い征旅と困難な戦いであるが、同盟軍の精鋭である諸君らの技量と士気であれば、目的達成は容易なことであると信じる。諸君らの健闘を期待し、かつ苦痛を共に分かちあわんことを誓う、以上!」


▼木星から帰還した男は、本国で同盟軍の再編計画という大きなプロジェクトを自ら構想し、実現した。そしてその試金石ともなる戦いへ、自らの艦隊を率いて旅立っていくことになる。土星派遣艦隊司令官として旗艦「レイキャビク」の乗組員の前に立つ彼は、数日前、これほど気の乗らない作戦は初めてだな、と思っていた彼とは別人だった。最愛の人を得て、我らがヒーロー、マシュマー・セロは、木星艦隊司令だったときよりも、さらに大きな男になっている。訓示の前の微笑みに、心高鳴る一瞬。

第11話「逃避行」

 同盟軍の主力モビルスーツ「ガリバルディ」の改装を進めつつ、土星に向かって航行する同盟艦隊。司令官室に基地からファックスで送られて来る新聞で、マシュマーはハマーンがフリッツとの婚約記者会見会場から逃走したことを知る。それは彼に取って喜ばしいニュースではあったが、しかしこれからどうするのか? 身動きの取れない彼は、唯一頼りになる人物、姉のマグダレナに連絡を取った。
 同盟艦隊に先んじて土星に向かっているティターンズ艦隊では、指揮官のジャマイカン・ダニンガン少佐が密かに怖じ気づいていた。追って来る敵将は「レダ星域の勇者マシュマー」、資料によれば睡眠時間2時間、知能指数600の天才だという。こんな敵と戦って勝ち目はない。ジャマイカンは対決を避け、彼らが土星に着く前にすべての決着をつけてやろうと企んだ。一方、同盟艦隊では、情報部から送られてくるティターンズの情報に戦慄していた。核ミサイルを含む膨大な量の武器弾薬。苦戦は必至と思われた…。

【この一文!】
「何をしているんだ、ハマーン?」
 どこにいるのかは分からないが、もし、分かったら、艦を降りてでも彼女のもとに駆けつけたい。できないことは分かっているが、想いは止めようがない。
(姉さんは、助けてくれるだろうか、、)
 姉とはいえ、他人の力を借りなければ何もできない。確かにマグダレナは豪胆な頭の良い女性で、その人脈も調査力もマシュマーをはるかに凌ぐ。子供のころからマシュマーは姉に何度も助けられた。しかし、今回はどうか。答えなど分からないだけに、焦燥感が募る。

 ウオオオオーッ! マシュマーは呻き声を上げ、ダン! と、司令官室の机を叩いた。


▼「レダ星域の勇者マシュマー」、睡眠時間2時間、知能指数600の天才。私たちが物語を通して知っている彼はそんな男ではなかった。これはもちろん情報部長ハウスの「仕事」だ。そのころ当の本人は、自分の意志でどうこうできない長い旅路の途上で、苦悶している。フリッツを「振った」ものの、行方知らずになってしまった最愛の人。彼は姉にすべてを任せて、ただ思い煩うしかないやるせなさに、思わず感情を露にしてしまう。彼の雄叫びと机を叩く音とが聞こえそうな場面。いつも冷静で、大らかだった男が秘めた「熱さ」が心を打つ。

第12話「タイタンの戦い」

 土星の衛星タイタンの上空では、タイタニア警備隊がティターンズの猛攻になすすべもなくなっていた。戦士たちはティターンズに比べて明らかに貧弱な兵器で粘り強い抵抗を続けていたが、武器弾薬は底をつき、敗北はもはや時間の問題となっている。残る最後の護衛艦「クストー」で指揮を執っていたタイタニア警備隊のリックス司令官は、最後の突撃を敢行するため、同乗していた連邦警備隊のブレックス准将に退艦を求めた。残された兵力で最後の抵抗を続けるタイタニアの兵士たちをよそに、ティターンズ艦隊司令のジャマイカンは、タイタニア共和国のコロニー「アルバータ02」への核攻撃を命じる。
 その頃、宇宙ステーション「オベロン」にあるタイタニア執政官府には、無情な通達が届けられていた。サイド5にあるタイタニア政府は、彼らを見捨てたのだ。降伏の意思表示を示すタイタニア執政官府に対して、ティターンズは次なる核ミサイルを仕掛けるべく、「アルバータ01」に向けてモビルスーツ中隊を出撃させていた…。

【この一文!】
 レオンチェフを引き連れ、基地の警備員を全員捕縛したことを確認したブレックスは彼らを倉庫に押し込めた後、基地のレーダーで射手座方向を集中的に走査するよう命じた。基地レーダーは強力な核融合炉で駆動できるため、旧式艦の「マイヨール」よりも長距離の走査が可能だ。前線基地とはいえ、これはバルセロナ級を停泊させる能力を持つ基地だ。全出力を指向性ビームに振り向け、何時間もの走査の後、レーダー手が遠方に薄ぼんやりとした光点を捉えた。
「遊星でしょうか?」


▼もはや残存兵力もわずかしかないタイタニアに対して、ティターンズ艦隊は非情な一撃で終止符を打とうとしている。土星に向かっている「我らがヒーロー」は、この危機的状況に間に合わないのだろうか? もちろん、そんなことはない。間に合うのが、ヒーローのお約束なのだ。そうは言っても、彼はスーパーマンではないし、「ワープ」のよう超科学を有しているわけでもない。しかし、来るはずだと信じる人物は、読んでいる私たけではなかったのだ。レーダーで、同盟艦隊を探し始めるブレックス。「遊星ではないのか?」といぶかるレーダー手。まさに手に汗にぎる展開。ゼーファーラーたちの熟練の技、キーゼ博士の手腕と明察、そして指揮官マシュマーの涙。「人間的」な力強さが凱歌を歌う、そんなクライマックスにただ拍手。

第13話「女帝の死」

 タイタニア十日間戦争と呼ばれることとなった今回の事件の報告書に目を通した地球連邦大統領のジョセフ・テオドア・マイノルは憂鬱な気分になっていた。タイタニアの多国籍麻薬密売組織を壊滅させるため、とする今回の派遣だが、その目的は曖昧で、しかもタイタニア警備隊の勇戦ぶり、核を撃ったとされる報道、同盟側の公式発表など、様々な情報が錯綜し、真実が見えてこないのだ。ティターンズ跳躍の背後にある議会における急進派の影が、暗雲として立ちこめている。
 一方、ジオン公国では、シャア・アズナブル大将がアルトリンゲン少将とともに、マハラジャ・カーン首相に、娘であり皇位第一継承者であるハマーンの行方についての調査報告書を提出していた。雲行きの怪しさを感じたシャアは、身を隠すべく、次なる道を画策し始める。

【この一文!】
「皇位継承順位第二位はグレミー・トト。もし、ハマーンの行方が三年以上不明の場合、もしくは本人に皇位継承の意思なき時は、ハマーンを廃除して、グレミーを第一位とする。」
 トト家まで来ると、マハラジャとも血縁関係は薄く、故ギレン・ザビの離婚した最初の妻の遠い縁戚という程度の繋がりしかない。もはや親族とも言い難い。ここまでするのかマハラジャ・カーン、シャアは背筋に寒気を覚えた。権力への執着と、それを行使する意思において、自分はこの男の足下にも及ばない。
「三年の間には、我が娘の気も変わり、戻ってくることもあるやもしれぬ。それまでは皇位継承問題は現状のままとする。卿らもご苦労であった、退出してよい。」
 処罰しないのか、両人は顔を見合わせると、揃って執務室を後にした。


▼フリッツとの婚約記者会見を最後に姿を消したハマーン。その足取りを、ジオンの情報部はつかむことができなかった。イオまでの足取りは掴んだものの、その後は行方不明。それが、シャアとアルトリンゲンがマハラジャに出した調査結果である。そのことを伝えた二人に、マハラジャは、今後の方策を言い渡した。あくまで外戚を立てて公王制を守り、自らの権力基盤を維持しつづけようとするマハラジャの姿勢に戦慄するシャアだが、一方で、マハラジャ「らしくない」言葉と対応にも気づいていた。ハマーンの行方を、知っているのは誰か? 本当に知らないのは誰か? 皆どこかで、ハマーンがこれで完全に身を引く女性でないことを知っている…。第二部への布石がたっぷり盛り込まれた第一部最終話。旅は終わった。さあ、次は…?

<<BACK  NEXT>>

 MUDDY WALKERS◇