◇MUDDY WALKERS
SF小説”An another tale of Z” 各話レビュー
マシュマーと永遠の別れを誓って本国に戻ったハマーンは、12歳の公王ミネバから木星艦隊司令官解任の辞令を受ける。そのあと父のマハラジャ・カーン首相から新たに外交官に任命され、自由コロニー同盟の首都オルドリン市にあるジオン公使館へ転任をすることになる。華やかな宮廷生活を離れ、一般市民とほぼ同様の扱いで新任地に赴任することになったハマーンは、慣れない生活、そして自由で民主的な社会の有り様に戸惑いながらも、次第に同盟の空気に順応してゆく。しかし、封印したはずのマシュマーの記憶が、彼女を悩み悲しませるのだった。一方のマシュマーもまた、木星艦隊司令を解任され、本国へと戻ることになる。木星から地球圏への長い旅路、船上で過ごす彼の頭に浮かぶのは、やはりハマーンのことだった…。
数ヶ月の船旅を終えて、木星から地球圏のコロニー「サイド5」に帰還したマシュマー・セロ。首都オルドリン市の宇宙港に降り立つと、そこには永遠の別れを誓ったはずの最愛の女性の姿があった。偶然か、それとも運命に引き寄せられてなのか、二人は今度は自由コロニー同盟の首都オルドリンで、ともに任務につくことになったのだ。あまりのことに、すぐにはロマンティックな気分になれない二人。しかしそれもつかの間のことだった。 もう一人、マシュマーの帰還を待ち構えている人物がいた。首相のリーデルである。首相官邸にマシュマーが出頭すると、人払いをしたリーデルはこう問いつめる。「単刀直入に聞こう。君は我が国の軍人か、それともジオンのスパイか。」二人の関係は、すでに首相の知るところになっていたのだ…!
同盟軍の再編成に、ジオンからの技術供与という形で関わることになったハマーンは、マシュマーの誘いでイタリアに住む姉、マグダレナ・ド・セロ伯爵夫人のもとに訪れていた。マシュマーより20歳年上の姉は、本来なら父の後を継ぐはずだったマシュマーにかわって、銀行家となっている。その姉から、二人は地球連邦軍内部で急速に勢力を伸ばしつつある新興部隊「ティターンズ」をめぐる動きについて聞かされた。 一方、同盟の首都オルドリンでは、軍の再編、軍制改革、そしてモビルスーツの技術供与といった動きが着々と進んでいた。経営危機に陥ったジオンのノイマン社からやってきたキーゼ博士とその一行は、早々に仕事に取りかかりはじめる。リーデル首相のもとには、「ティターンズ」の奸計によって危機に陥った土星の衛星タイタンにある国「タイタニア共和国」から支援要請が届いていた。リーデルは、タイタニア政府を支援することを首相のヤビンスキーに約束する。
「ティターンズ」の来襲を知ったタイタニア警備隊の軍事顧問、連邦警備隊のブレックス・フォーラ准将は、困難な戦いを予想して顔を曇らせていた。半年前にもティターンズ艦隊からの攻撃を受け、何とか追い払いはしたものの、すでに人員、物資ともに底をつきつつある。連邦に属する彼にとっては他国の出来事だが、その状況を理解したブレックスは自らも残ってタイタニアを支援することを約束していた。イタリアでの休暇から戻ってきたマシュマーは、ハマーンとの関係が実は砂上の楼閣であったことを思い知らされる。レダ星域会戦後の政治交渉によって、木星圏は非武装化されることとなり、オルドリンのジオン公使館では、「木星非武装化宣言」を祝賀する宴が開かれていた。そこでマシュマーは、ジオンの情報部の男、マチアス・フォン・フリッツ中将と挨拶を交わす。ハマーンを同伴した彼は、彼女を「婚約者」としてマシュマーに紹介したのだ。 あまりのショックに憔悴しきったマシュマーをよそに、同盟国防局では、タイタニア政府を支援するための土星派遣艦隊の編制が着々と進められていた…。
同盟軍の主力モビルスーツ「ガリバルディ」の改装を進めつつ、土星に向かって航行する同盟艦隊。司令官室に基地からファックスで送られて来る新聞で、マシュマーはハマーンがフリッツとの婚約記者会見会場から逃走したことを知る。それは彼に取って喜ばしいニュースではあったが、しかしこれからどうするのか? 身動きの取れない彼は、唯一頼りになる人物、姉のマグダレナに連絡を取った。 同盟艦隊に先んじて土星に向かっているティターンズ艦隊では、指揮官のジャマイカン・ダニンガン少佐が密かに怖じ気づいていた。追って来る敵将は「レダ星域の勇者マシュマー」、資料によれば睡眠時間2時間、知能指数600の天才だという。こんな敵と戦って勝ち目はない。ジャマイカンは対決を避け、彼らが土星に着く前にすべての決着をつけてやろうと企んだ。一方、同盟艦隊では、情報部から送られてくるティターンズの情報に戦慄していた。核ミサイルを含む膨大な量の武器弾薬。苦戦は必至と思われた…。
土星の衛星タイタンの上空では、タイタニア警備隊がティターンズの猛攻になすすべもなくなっていた。戦士たちはティターンズに比べて明らかに貧弱な兵器で粘り強い抵抗を続けていたが、武器弾薬は底をつき、敗北はもはや時間の問題となっている。残る最後の護衛艦「クストー」で指揮を執っていたタイタニア警備隊のリックス司令官は、最後の突撃を敢行するため、同乗していた連邦警備隊のブレックス准将に退艦を求めた。残された兵力で最後の抵抗を続けるタイタニアの兵士たちをよそに、ティターンズ艦隊司令のジャマイカンは、タイタニア共和国のコロニー「アルバータ02」への核攻撃を命じる。 その頃、宇宙ステーション「オベロン」にあるタイタニア執政官府には、無情な通達が届けられていた。サイド5にあるタイタニア政府は、彼らを見捨てたのだ。降伏の意思表示を示すタイタニア執政官府に対して、ティターンズは次なる核ミサイルを仕掛けるべく、「アルバータ01」に向けてモビルスーツ中隊を出撃させていた…。
タイタニア十日間戦争と呼ばれることとなった今回の事件の報告書に目を通した地球連邦大統領のジョセフ・テオドア・マイノルは憂鬱な気分になっていた。タイタニアの多国籍麻薬密売組織を壊滅させるため、とする今回の派遣だが、その目的は曖昧で、しかもタイタニア警備隊の勇戦ぶり、核を撃ったとされる報道、同盟側の公式発表など、様々な情報が錯綜し、真実が見えてこないのだ。ティターンズ跳躍の背後にある議会における急進派の影が、暗雲として立ちこめている。 一方、ジオン公国では、シャア・アズナブル大将がアルトリンゲン少将とともに、マハラジャ・カーン首相に、娘であり皇位第一継承者であるハマーンの行方についての調査報告書を提出していた。雲行きの怪しさを感じたシャアは、身を隠すべく、次なる道を画策し始める。
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