SF小説”An another tale of Z” 各話レビュー
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第2部 概要
宇宙世紀0097年。「亡国の恋」が結実し、つかの間の幸せを味わったマシュマーとハマーンだったが、父マハラジャ、そしてジオン公国公王ミネバの死は、二人を新たな局面へと導いてゆく。結婚し子をなしたことを秘めたまま、それぞれの立場を全うすることを決意した二人は、イギリスからそれぞれのコロニーへと戻っていた。しかし二人を結び合わせた運命は、ジオンとソロモン、二つのまったく違った国を引き寄せていく。その前に、地球連邦が不気味な存在としてますます脅威となりつつあった。
諸勢力がうごめく中、陰謀と攻防、そして個々が胸に秘めた思いを守り、なしとげるための戦いが繰り広げられてゆく第二部。
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■第14話「新共和国成立」
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25の市国の連邦制国家だった自由コロニー同盟は、0096年、国名を変更して「ソロモン共和国」となった。行政が一本化され、軍隊も国防軍に再編。これに伴う諸改革が行われている途上である。そんな中、地球連邦では不穏な動きが表面化してきていた。急速に支持層を広めつつある、ジャミトフ・ハイマン下院議員が、全コロニーの地球連邦への再併合を目指し、その道具となる部隊をより強力なものとすべく「ティターンズ強化法案」を議会に提出したのだ。ぎりぎり過半数で通った法案だったが、マイノル大統領は拒否権を行使する。
その頃ティターンズでは、エマ・シーン中尉が月とサイド2の航路帯、カペラ・イオパラダリス街道で任務に就いていた。テロリストとエウーゴ主義者を捉えて未然にテロ行為を防ぐのがその任務だった。ティターンズの制式機RX178を駆ってエウーゴのモビルスーツを撃破する彼女だが、その心にはある疑念がむくむくと湧きつつあった…。
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【この一文!】
(MSF21「リック・ディアス」、私の最高傑作であり、かつ、最後の機体になるな。)
MS「F(ファイター)」の称号は、共和国では制宙戦闘用、他のモビルスーツを駆逐しうる純粋な戦闘用モビルスーツのみに冠せられる。
キーゼは集まってきた各国の軍事関係者や政府関係者を見回した。これらの国々で、一機七,五〇〇万フェデリンの「ディアス」を買えるのは、ほんの一握りだろう。開発した共和国ですら三〇〇機が限度だったのだ。しかし、本当の危機の際には、最高のモビルスーツを手に入れることができるという絶対的保証の提供、共和国は連邦でもジオンでもないのだから、そのインパクトは小さくない。
▼第一部から約3年。その間にも世界情勢は刻々と変化している。ジオンからやってきた技術者キーゼ博士はすっかり自由で開放的な「自由コロニー同盟」に馴染んでいる。そしてこの間に、自身で最高傑作と評したモビルスーツ「リック・ディアス」を完成させた。技術者としてのプライド、それは己の生み出した機体が、真の危機に必要とされ、真価を発揮して最善の結果をもたらすものとなることだ。その最高傑作を共和国で生み出したこと、そこに技術者という立場にある者の秘めたる戦いがあるのだ、とふと感じた。それぞれの正義を貫くための秘めたる戦い。多くの戦いが、これから始まる。
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■第15話「アーガマ入港」
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カペラ・イオパラダリス街道で頻発していたティターンズとエウーゴとの衝突。ソロモン共和国にとっては対岸の火事だったが、そうとも言えなくなる事態が起きつつあった。ティターンズの旗艦「アレクサンドリア」に追跡されていたエウーゴの巡洋艦「アーガマ」がソロモン領空に入ってくるというのだ。「レイキャビク」がアレキサンドリアを牽制、アーガマは共和国軍に確保されてコロニー「アウラン・ガーバード」に入港する。作戦部長のマシュマーは国防省のシチュエーション・ルームで、その一部始終を統率していた。事態が収拾に向かったのもつかの間、エウーゴの影の支配者と呼ばれるジオンのシャア・アズナブル大将がオルドリンを来訪していることを知る。彼はマシュマーとの面談を希望していた。ハマーンとの関係をネタに脅そうというのか?
一方地球連邦では、ルグラン大将率いる第三艦隊の極秘の出動計画について、第八艦隊司令のアマルティア・セン大将が探りを入れていた…。
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【この一文!】
ハマーンは発覚した何度目かのクーデター計画の話をした。マシュマーは理不尽だと思っている。いったい、何の権利や義務があって、幸福に暮らしていた一家族が、遠くジオンの権力抗争のためにバラバラに引き離されなければならないのか。
深夜帰宅し、ケンブリッジの学寮と大して変わらない真っ暗な独身者用官舎のライトのスイッチを点けた時、言いようのない孤独感を感じる。以来、自分が変わったように感じている。少なくとも、以前のような純朴な人間ではなくなった。ジャミトフやシャアのような輩と張り合うにはこの方が良いのかもしれないが、マシュマー自身はそういう自分が好きではない。
▼シャアとの駆け引きは、法的・政治的判断を迫られるものだった。シチュエーション・ルームでは任務を難なく果たすマシュマーも、今までにない対応に疲労困憊だっただろう。週に一度、遠く離れたジオンにいるハマーンと、画面越しにする会話。それが彼の唯一安心できるひと時なのかもしれない。最愛の人を得たからこそ、深まる孤独。大将という地位を得、ソロモン共和国軍のトップに立つに至ったが、周囲の人間も変わってゆく。並みいる策士の中で、「我らがヒーロー」もまた変わっていかざるを得ないのだろうか。
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■第16話「陰謀のトライアングル」
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クワトロ・バジーナの変名でエウーゴに参画したシャア。カペラ・イオパラダリス街道で繰り広げられていたティターンズとエウーゴの衝突は、かつて「赤い彗星」の異名をとった彼とキーゼ博士から贈られたリック・ディアスが加わったことで、形勢が逆転しつつあった。さらなる軍備増強が予定されているティターンズをその前に叩こうと、エウーゴ本部では、ある作戦が動き出していた。モビルスーツ部隊を降下させ、連邦国防委員会の面々とともに南米のジャブロー基地を視察するティターンズの影の領袖、ジャミトフ・ハイマン議員を「排除」しようというのだ。エウーゴ支援者であるアナハイム・エレクトロニクス社のメラニー会長は連邦軍第八艦隊のセン大将をグラナダに招き、カペラ・イオパラダリス街道周辺の警備を依頼する。しかしその頃、第三艦隊ではルグラン大将が極秘作戦に向けて動き出していた…。
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【この一文!】
会談の後、貿易センターの玄関まで見送りに出たマグダレナは公用車に乗る直前のマイノルに近づくと、その耳元にそっと囁いた。助手時代も含め、三〇年間、ずっと言い出せなかった言葉だ。
「愛していますわ、大統領閣下。」
マイノルは頬を赤らめると、それは三〇年前に言って欲しかった、と、言い、マグダレナを抱き寄せて軽くキスをした。強い力で抱き寄せたので、痛い、と、マグダレナが身を捩ると、マイノルは悪かった、と、言い、素直に詫びた。謹直な大統領のそういう姿を見たことがなかったラーベルト警護官が、ポカンと口を開けて二人の姿を見つめている。それから、大統領を乗せた公用車は仰々しいシークレット・サービスの車列を伴い、彼女の前を走り去った。
▼時間のムダと非効率を嫌うマイノル大統領。しかしニューヨークの貿易センターで哲学教授時代の愛弟子と再会したときは、違っていた。地球連邦の現状を憂い、将来を危惧する二人の会話は、大統領の出発予定時間を過ぎても続いている。そんな二人の会話のトーンが、変わる瞬間。ジャミトフを狙うエウーゴ、エウーゴを狙うルグラン、仮病をきめこむジャミトフ、不気味なセン。網の目のように、各々の思惑がからみあい、一点に向けて動き出していく。そんな陰謀とは遠く離れた場所で三十年来の愛を確認する二人は、果たして蚊帳の外にいるのか、中にいるのか。
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■第17話「大統領暗殺」
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地球降下作戦を断行しようとするエウーゴ、その作戦をかぎつけて待ち伏せるルグランの第三艦隊。その戦端を開いたのは、強力な武器をもつ新型モビルアーマーを与えられて索敵していたシロッコだった。「敵艦隊と交戦中」との通信を受け、巡洋艦の格納庫で待機していたライラ・ミラ・ライラ少佐は出撃する。そこには、クワトロ・バジーナ率いるエウーゴの精鋭部隊「クワトロ・サーカス」が待ち受けていた。
一方ジャブロー基地では、カラバの部隊が守備部隊との戦闘に入っていた。突然の大規模攻勢をいぶかしむ基地司令官ブルターク大佐は、基地上空に多数の「流星」が降下してくるのを目撃した。基地を視察していた議員団の一人は基地からの離脱を求めている。同じ頃、カラバの戦闘空域となっていた南米上空を、大統領専用機「フェデレーション1」が通過しようとしていた…。
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【この一文!】
「すいません、こら、引っ張っちゃいけません。」
幼児を引き離した母親らしい女がジャミトフに詫びる。いいんですよ、と、ジャミトフは言い、慣れぬ作り笑いで子供に微笑んだ。子供は嫌いだが、たまには親切な老人のふりをするのも悪くない。
「窓の外が見たいんでしょう。さあ、坊や、こっちにおいで。」
ジャミトフは幼児を抱き抱えると、何度も詫びる母親に、いいんですよ、と、言い、幼児と一緒に窓外の情景を見た。雲とアマゾンの緑の原野が抜けるような青い空の下、どこまでも拡がっている。風雅などにはおよそ関心のないジャミトフも、この風景はそれほど悪くないと思っている。
最大の政敵の死が明らかになるのは、もう少し後のことになるはずだ。
▼エウーゴのジャブロー降下作戦は、ティターンズの影の将軍ジャミトフを、他の議員団一行とともに亡き者にするためだったはずだ。しかし、17話のタイトルは、私たちに大統領が暗殺されることを教えている。いつ? 誰が? どうやって? 何のために? それぞれが、己の思惑に従い、己の勝利を信じてた戦いの火蓋を切るが、全編にわたって繰り広げられる激しい戦闘の最後に、青空の下で笑顔を見せるのは、他でもない、死んでいなくてはならなかったジャミトフだった。大規模作戦の意外な結末、微笑むジャミトフの不気味さを思いながら呆然とする。そして思うのだ、一体この陰謀は誰が、誰に嵌められたのか? |
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■第18話「エウーゴ受難」
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ジオン公国の公王となったハマーンは、サイド2に亡命していたギュンター・フォン・フリッツを通産大臣に任命するなど、新しい人材を登用し改革に乗り出していた。フリッツの登用が驚きを持って受け止められたのは、彼がかつての婚約者マチアスの兄だったからだ。ジャブロー事件の一報が届いたのは、ハマーンが女帝として颯爽たる門出を果たしつつあった矢先のことだった。
軌道上から核攻撃を受けて壊滅したジャブロー基地。その頃第三艦隊と交戦していたエウーゴ艦隊。核ミサイルを放ったのは当然、ジャブロー基地を急襲したエウーゴであると思われていた。しかし彼等はこの攻撃で多くの僚友を失い、テロ集団と見なされて行き場を失っている。レイキャビクの食堂のテレビでこの事件の報道を観ていた艦長のマーロウは、乗員たちがエウーゴの核使用に憤りの声を上げる中、画面に見入っていた。エウーゴ艦隊の奇妙な動き、核ミサイル発射の瞬間のクローズアップ。連邦軍報道官の説明に、マーロウは腑に落ちないものを感じていた…。
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【この一文!】
「今まではこういう内容はマイノル大統領が介入して紛争を未然に防いでいたのだが、その大統領も今や故人だ。今朝、死亡の公式発表があった。大統領に昇格したトム・バンカーは急進派のどうしようもない男だ。ジャミトフの丁稚小僧と言われている。弔問外交でどこまで事態を修復しうるか、、」
副首相のヘイスティングスが言った。できたばかりの「ソロモン共和国」の閣僚一同は、改めて死せる連邦大統領の存在が大きかったことを感じた。一同が沈黙する中、マシュマー君、と、リーデルがポインタを片手にパネルの前に突っ立っている作戦本部長に声をかけた。
「君も弔問団の一員として行ってもらうぞ、マシュマー。」
「しかし、私はソロモン軍の防衛体制の確立が、、」
ポインタを両手に持ちつつ、困惑した表情のマシュマーが言った。
「そんなものはどうでもいい。少なくともマイノル大統領の葬儀中は何も起きまい。今は弔問外交の時間だ。」
リーデルはキッパリと言った。
▼ジャブロー事件を報じる連邦のニュースで、ソロモンがエウーゴを支援する関係にあったこと、使われた核兵器がジオン公国製のJミサイルであったことなどが次々に明らかにされている。今回のこの事件は、エウーゴがティターンズの野望を砕くどころか、紛争を未然に防いできたマイノル大統領の命を奪うものとなってしまった。さらにエウーゴと巻き添えに、成立したばかりのソロモン共和国と、新公王を迎えて改革途上にあるジオン公国までも窮地に陥っている。武器と軍隊による戦いは終わった。これから、弁論による戦いが始まる。次なる戦いを宣言するリーデル首相は、「我らがヒーロー」に喝を入れる私のヒーロー。
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■第19話「ハマーンの初舞台」
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ジャブロー事件で死亡したマイノル大統領の後釜に座ることになった副大統領のトム・バンカーは、ひっきりなしに来訪する客人の対応に追われていた。しかし誰を、どの役職に登用するか、それを決めるのは影で彼を操るジャミトフ・ハイマン下院議員である。これから営まれる故マイノル大統領の国葬で、彼はバンカーにスペースノイドを糾弾するスピーチをさせ、目指すコロニー国家の再併合への契機を作ろうと企んでいた。
ニューヨークには、ソロモン、ジオンをはじめ各国からの弔問団が集結しつつあった。エウーゴとの関係が取沙汰されているソロモン共和国軍の作戦部長、マシュマーとジオンの女帝ハマーンは、さっそく報道陣に取り囲まれ、扇情的なマスコミの餌食になってしまう。その偏向報道に怒りを覚えたハマーンは、自らテレビ出演しようと画策し始めた…。
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【この一文!】
やられたわ、独占インタビュー? しかも相手はジオンの女帝。マックウェルの事は知っている、誠実で良心的な、そう、一流と言っていいジャーナリストだ。しかし、あの時流から半歩遅れている、ダサい公営放送のPBSが独占取材をやるなんて! 「ニュースアワー」? あんなジジむさい番組を見るのは引退したジジイ、ババアだけよ。特殊効果もなく、セットといえば壁紙一枚、貧乏ったらしいスタジオで、ださいスーツを着たキャスターが延々とインタビューする低予算の退屈な番組! 放送時間は一時間もあるのに、扱うニュースは平均二本!MCVでそんな番組を企画したら、企画段階でボツだわ。レーザーやフラッシュのない番組に出演するなんて、私は耐えられない!
ベルトーチカはヒステリーを起こしながら、ジオンの女皇帝に出し抜かれた怒りを羽布団にぶつけた。
▼一癖も二癖もある個性的なキャラクターが次々登場する第二部だが、中でも異色なのが彼女、「突撃イルマ」ことベルトーチカ・イルマ。連邦のテレビ局MCVの美人キャスターである。「女の勘」で、さっそくハマーンとマシュマーの関係に食いついていくあたり、これまでになかったハラハラ感を感じさせてくれてとても新鮮。そんな彼女を通して、マスメディアという「第四の権力」のパワーが良くも悪くも描き出される。メディアを通して君臨したいというベルトーチカの野望の餌食にされるところだったハマーンの見事な逆襲。「ダサい公営放送」の「ジジむさい番組」が一番のハイライトとなるという大逆転の面白さ。
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