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An another tale of Z

 ガンダムAGE全話レビューを終えて 小林昭人さんインタビュー

ガンダムAGEを振り返る〜
「世襲」の物語が示す閉塞感。その先に、可能性はあるのか(1)

 ガンダムAGEの放映が終わり、全話レビューが完結しました。今回は、17話までを小林昭人さんが、18話以降を飛田カオルが引き継ぐというリレー形式でレビューを行いました。そこで、ガンダム00から3年ぶりのテレビシリーズとなった本作を改めて振り返り、小林さんとの対話を通して作品を総括。シリーズ化がはじまった80年代の状況と比較しながら、ガンダムを取り巻く現状と将来について考察します。

1.全話レビューを終えて

評点の平均が2点にも届かず、全話にわたって低評価が続いたAGE

■カオル 最初に、レビューでつけた評点から見ていきましょう。全49話の平均点は1.93点と、低い水準にとどまりました。1〜4のクール別に見ると、第1クールの平均は2.26点、第2クールが1・61点、第3クールが2.27点、第4クールが1.70点という結果になりました。

■小林 当サイトでの評価が低いのはZガンダムも同じで、確か50話の平均は私が1.94点、カオルさんが1.84点ですね。全体として2点にすら届かない状況は、作品それ自体の作話クオリティが低いということでしょうね。Zみたいに出来が悪すぎて腹が立つという話はAGEには無かったはずですから。Zは24話で私は5点評価、カオルさんは4点評価を取っていますが、この作品では4点以上の評価はあったのでしょうか?

■カオル 5点満点の評点で最高点は3点、4点さえ一度もつけられることはありませんでした。しかしZと違って金太郎あめ的というか、どれをとってもどこかで観たような話で、破綻はしていないけれども目新しさも何もない、という印象でした。

■小林 つまり、同じく低評価なのですが、評価の高い話も低い話もあって全般として低い総合点にとどまったZとは違って、AGEは全話の評点が低い。ここに80年代の作品とAGEとの違いがあるということですね。

■カオル 他に気になったところはありますか?

■小林 作品の主題に「世襲制でガンダムを受け継ぐ三世代ヒーロー」を置いた所には疑問もありますが、そういう話であるにもかかわらず、「ダイナスティ」とか、「◯◯の興亡」といった感じの壮大感が皆無というのは言えますね。ガンダムもいろいろな作品がありましたが、今回は主題にも作話技術そのものにも問題があったと思います。


ゲーム的脚本が持つ「可能性」を活かせなかったストーリー展開

■カオル 今回はレベルファイブというスタジオが制作を担当し、「イナズマイレブン」というヒット作を持つ日野晃博氏がシリーズ構成として登用されました。日野晃博は本職がゲームクリエーターだということで、私は当初「ゲーム的な脚本だなあ」と思ったのですが。

■小林  「ゲーム的」というのは私も感じましたね。登場人物のキャラクターに感じるものがなく、作品で次々と起こっていく諸々の事件もなにか薄っぺらで、主人公の前に現れた「イベント」的な感じで描かれたことはあります。RPGでしたらプレーヤーがある程度選択できてヘマをやったり死んだりするのですが、これはアニメ作品で主人公が模範解答を選択することは分かりきっているのですから(笑)

■カオル そうでないと話が続きませんわね。

■小林  その点では第一部だけは評価できる所がありました。主人公ではなくグルーテックという何を考えているか分からないキャラがいて、イベントに直面していろいろ選択していましたから、むしろこちらの方が視聴者が感情移入できるヒーローだったと思います。ゲーム的脚本も悪い所ばかりではなく、そういうキャラとは相性良かったんじゃないかと思います。と言うより、私はAGEではグルーテックがいちばん印象的なキャラですね。あと、後の部で老害を撒き散らすフリット(笑)。ただ、ゲーム的脚本は私はこの話では向かないと思います。そこからして躓いていましたね。

■カオル それは、例えばどのような点でそう言えるのでしょうか。

■小林  この「選択」が曲者で、アニメ作品の場合、模範的な選択というのは主人公がするに決まっていますので、それより劣る選択肢ばかり与えられてもゲームとしても話としても成立しないというのがありますね。ゲーム的な要素を考慮するなら、例えば戦闘の規模を大きくして主人公以外にも活躍しているヒーローもいるという展開にすれば良かったのですが、AGEの戦闘ってこじんまりしていますからね。そういう筋書きも成立し得ない。


従来の型を壊すに至らなかった制作陣

■カオル 私がレビューをはじめた第二部は学園物の体裁でスタートしましたが、主人公はあっという間に卒業して軍に入ってしまいました。学園物というアイデアは悪くないと思ったのですが、問題は、これでは戦いに関わる人物が主人公のアセムと敵のゼハートだけで、あとは傍観者ばかりになってしまうということです。そこですぐに軍に舞台を移してしまった。しかしここが考えようで、ロボット物の基本は「チームで戦う」ことだから、せっかくの高校のモビルスーツ部、これを使って、第二世代のガンダムは合体ロボにすれば、学園物という枠のなかでもっと話を面白く展開できた。友達のフリをしたゼハートがひそかに呼び寄せるヴェイガンと戦うモビルスーツ部一同、一体だれがこの敵を呼び寄せているのか?というサスペンス的展開も可能だったと思います。

■小林 第二部はすでに型に囚われていて、ファーストガンダムの次はZガンダムだ的なノリでしたから、合体ロボはそもそも居場所がなかったと思います(笑)。この新作で過去作のオイシイ部分をリプレイという演出手法はガンダムSEEDから同じなんですよ。だからカオル案は却下(笑)。ロボット戦隊物みたいなノリは悪くないと思いますがね。

■カオル その意味で、第1部のRPG、第3部の学園物、と新しい要素を持ち込みながら、その要素を練り上げることが出来ず、結局従来のガンダムの型に引き戻されてしまう、といったことが繰り返されたのではないでしょうか。

■小林 従来の型に引き戻される」というのは深刻な問題提起で、これは単純にストーリーだとか関係者がといった話ではないんですね。型を壊すということは大変な作業で、それこそ今の仕事の仕方、物の考え方、全てを見直さないとできない。一言で言えばAGEはその制作期間中、サンライズの関係者が手を引く必要があったんですね。ヲタク的な人には黙ってもらって、従来の市場データも捨象する。そのくらいの覚悟でやらないとガンダムみたいに過去作が綿々と積み上がった作品では新しい型はできないと思います。もちろん、制作者本人の覚悟もありますね。どれを取っても弱いことは作品を見れば分かると思います。

→つづく

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