MUDDY WALKERS 

An another tale of Z

 ガンダムAGE全話レビューを終えて 小林昭人さんインタビュー

ガンダムAGEを振り返る〜
「世襲」の物語が示す閉塞感。その先に、可能性はあるのか(2)

2.低評価に終わった要因

外見は大河ドラマ、しかし中身はいつもの一年もの

■カオル ガンダムAGEは、世襲によって親子三代にガンダムが継承されつつ展開されていく、というストーリー構成で作話されました。第1話では少年だった主人公フリットが、最終回では70歳前後の老人になっているというのは、いまだかつてない大河ドラマ的構成だと思うのですが、第二部のアセム編から視聴した私には、なぜガンダムがフリットから息子に世襲で受け継がれなければならなかったのか、この世襲というシステムを敢えて取り入れた意味がよく分かりませんでした。
 先ほど、小林さんから今回は主題にも作話技術そのものにも問題があった、というお話がありました。小林さんは、どのようなところに問題を感じられましたか?

■小林 つい最近までテレビアニメというのは放送期間と同じ長さ、1年の話なら1年でやるというのが鉄則でしたから、1年のシリーズで百年やるという話は確かに前代未聞で大河の要素があります。しかし、AGEの場合は機械であるガンダムが世代継承のキーパーツになってしまったために、話の上では百年経っても経った気がしない。50年前と同じようなモビルスーツの同じような戦いで終始してしまった。キャラクターの内面も同様で、第4部のフリットはおっしゃる通り70歳の老人なのですが、14歳の時に殺されたユリンという恋人の恨みをまだ背負っている。年を取ったのは外見だけで、キャラクターそのものに深み、深化が無かったんです。同じことはフリットの子のアセムにも孫のキオにも言えますね。ガンダムで戦う理由はといえば、「じいちゃんがそうしているから」としか言えませんからね。話は百年なんですが、中身は1年もののドラマと変わらないような脚本、演出なんです。

時間や長さ,重さを数字でしか表現できない

■カオル アセムには姿を消した後、第三部で宇宙海賊になって再登場します。内面に大きな変化があったことを伺い知ることのできる登場の仕方だったのですが、そこも、ドラマ化が不十分なまま終わってしまいましたね。

■小林  アセムについてはたぶん世代間の葛藤のドラマをやりたかったんだと思います。二部でもフリットとは不和でしたからね。父親の持っているXラウンダーの才能が彼には無いことが明らかになる。それで居場所の無くなった彼の自分探しの話ですね。ラスト付近でXラウンダー能力が無くてもエースパイロットになれればいいと腕を磨く道を選んだはずなのですが、三部の冒頭で唐突に「死んだこと」にされていますからね(笑)。

■カオル あれには驚きましたわ。

■小林  「内面に大きな変化」は、それは美人の奥さん放ったらかして宇宙海賊になるのですから、それは大きな変化だっただろうと思いますが、その辺の説明は二転三転していましたね。最初は確か連邦軍でヴェイガンに内通していた者を私的に制裁だったと思うのですが、後の話では偵察中にシドというモビルスーツに襲われてコテンパンにやられ、連邦とヴェイガンの戦争の背後にあるエグザDBという秘密の存在を知ったからということになっていますね。

■カオル 二部では内通によってグルーテックが殺されるなど、アセムらの属する連邦軍の不協和音みたいなものは描いていたと思いますが。

■小林  これも二部の最後で登場した地球連邦の首相が“実はイゼルカントの手先”で片付けられ、後はフリットが退治した話になっていて、結局広げた風呂敷ほどのドラマは無かった。エグザDBについては結局地球の近くの遊星帯にあったのですが、これもシドに撃墜されてから妻子を捨て、14年間探し廻らなければいけないようなシロモノかと。夜空を見上げれば見えるような場所なんですからね。それと水とか食料とかガンダムのパーツとか14年間どうやって調達したんだという(笑)。彼のライバル・ゼハートはその間冷凍睡眠で寝ていたのというのもなんともはや。

■カオル ゼハートが年を取っていないことに誰もツッコまないのが、もどかしくてなりませんでしたわ(笑)。

■小林  これはまさに、時間とか長さとか重さといったものを数字でしか捉えられない人の作品だと思います。このセンスの無さはクリエイターとしては致命的ですね。


制作者の都合優先のお粗末なキャラとメカ

■カオル 作画については、いかがでしたか?

■小林 AGEの作画は面白いところがあって、どうもモビルスーツと人間を同じソフトでデザインしているんです。だからモビルスーツと人間の骨格や関節の位置関係がほぼ同じで、これは敵味方の区別もない。たぶん、3DCGで再現しやすいということでデザインされたと思いますが、人間は頭身が変ですし、ロボットも没個性です。人間の感覚って意外と見くびれないものがあって、表面的な外見は違っても骨格は同じAGEのキャラクターやロボットには同じような印象を受けてしまうものなんです。そして同様の情報が過多になれば、人間というものは忘れますね、そういうふうに脳ができているんです。

■カオル なるほど、それでどのキャラ、どのメカも印象に残らないんですね。

■小林 私だったら少なくとも敵と味方はデザイナーを変えますし、こういう制作者の都合のような話は極力排除することを考えますね。3Dでゲームが出来ないからキャラはこうしてくれなんておかしいですよ。そういう点、AGEのデザイン料は安かったんだと思います。安くてもそれに見合う利益が無ければ意味ないんですがね。

■カオル テレビアニメをプロモーションとして、そこからプラモデルやゲームといった商品を売り上げることで制作費を回収し利益を積み上げる、というのがロボットアニメのいわばビジネスモデルとしてあったわけですが、このように、アニメ「以後」の商品化を優先して、アニメのキャラを3D化しやすいような平板なデザインにするというのは、本末転倒ですね。結果、アニメが低評価に終わって視聴率も低迷すれば、ブルーレイだのRPGだのが売れるはずもないでしょう。何か、制作陣は本質的なものを見失っているような気がしますね。

■小林 そう思いますね、ゲームを買ってもらうためには、まず、作品が面白くなければいけない。視聴者が感情移入できない作品のゲームなんか売れないんです。これはすごいとか、あれはカッコいいとかいうのは、メカのアクションもありますが、ドラマの場合はキャラクターの生きざまですからね。それが非常に弱い。

作品の基本情報さえ伝わらず、深まらないまま進んだドラマ

■小林 AGEの場合はまず、この作品の世界、宇宙に進出して数百年後の人類なのですが、作品でその世界がどのくらいの広がりを持っていて、どんな生活様式で暮らしているかといった基本的な情報が伝えられていませんでした。キャラクターの生きざまにしてもフリットもイゼルカントもごく個人的な動機、復讐から戦っていて、視聴者を捉える大義みたいなものが全然なかったんですね。フリットはユリンのため、イゼルカントは死んだ息子のためですからね。これはそういうものじゃないんです。まるで分かっていない。

■カオル どこの世界かも分からないし、何を目標に戦っているのかも分からないような作品のゲームなんてやった所で面白いはずがありませんね。

■小林 だいぶ昔のものですが、スターウォーズのシューティングゲームがありましたが、そっちの方がよっぽど熱中できましたね。反乱同盟軍は圧政からの解放のため、銀河帝国軍は宇宙の秩序のため。ゲームは本編の主人公らとはまるで関係なく、Xウィングとかタイ・ファイターに乗って戦うものだったのですがね。それがAGEのあの作風でできるかというと、、

■カオル そうですね。全体として、AGEの制作陣には、ストーリーテラーとしての素養が著しく欠けているように思いました。やはり、物語世界を構築するには、登場人物ひとり一人の今現在の思いや感情だけでなく、それを成り立たせている要素、いわば背景にある思想や世界観といったものが表現されていなければなりません。そうしたものに共鳴したり共感するからこそ、視聴者は登場人物に感情移入していくわけです。それは視聴者が大人であろうが子どもであろうが、変わらないと思います。  そのように、物語の背景となるものについて、何も語らないままで、何とかこの作品を最後まで完成させた。薄っぺらな表面だけで奥行きのない世界でよくぞここまでやったものだと逆に感心しますが、これは、「ガンダム」という看板があったから何とかなったということではないでしょうか。

→つづく

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