MUDDY WALKERS 

火火 ひび 

火火 2004年 日本 114分

監督高橋伴明
脚本高橋伴明

出演
田中裕子/窪塚俊介/黒沢あすか
池脇千鶴/遠藤景織子/岸部一徳
石田えり

スト−リ−

 信楽焼の女流陶芸家、神山清子(田中裕子)とその息子で白血病で夭折する賢一(窪塚俊介)の姿を描く、実話をもとにした映画。

まだ女性の陶芸家が認められていなかった頃から古代穴窯を使った信楽自然釉の復活を目指して陶芸に打ち込む神山清子。そんな彼女を見捨てて、夫は愛人と家を出ていってしまう。収入の途絶えた清子は2人の子供をかかえ、極貧の生活を強いられるが、陶芸への夢が彼女を支える。賢一は母と同じ陶芸の道を目指して地元の高校へ進学する。度重なる失敗を繰り返しながらも、見事な信楽焼を完成させた清子は、陶芸家として認められるようになるが、そんな幸福もつかの間、賢一が病魔に倒れてしまう。清子は陶芸に注いでいた情熱を、今度は骨髄移植の実現に向け奔走するが…。

レビュー

 実話である。しかも骨髄バンクの創設に貢献した人物の話。撮影されているのは私も行ったことのある地元の町だ。いかにもありがちな邦画のダザさと積極臭さを醸し出すような題材で、正直期待していなかった。だがそんな予想は見事に裏切られた。重いテーマを持っているが、からりとした清子のキャラクターと、ところどころで笑いもある脚本で、骨太の映画に仕上がっている。

 物語は、棺が信楽の町に戻ってくるところから始まる。冒頭に映し出される病院の赤十字は、この映画がいわゆる「闘病もの」であることを教えてくれる。それだけではない。恐らく監督は、この赤十字に「十字架」を投影させているのだろう。清子と賢一の背負うものを、暗示しているのである。

 前半は、古代穴窯を使った信楽自然釉の復活に賭ける清子の芸術家としての生き様を丁寧に描いてゆく。神山清子さん本人の制作現場でロケが行われており、炎が燃えたぎる窯の中にまでカメラが入れられている。陶芸というといかにもおしゃれで高級な趣味というイメージがあったが、こんなに大変な肉体労働とは知らなかった。焼物ができあがるまでのプロセスについて、くどくど説明することはせず、すべて清子の行為によって見せている。「本物」を前にすれば、言葉など要らないのだ。芸術とは、できあがったものだけでなくその過程からすでに芸術なんだなあと思わされる。

 うってかわって後半は賢一の闘病記がメインとなる。ヘタをすれば前半と後半で話が分離してしまいそうだが、清子が信楽自然釉を生み出すという芸術的な側面にスポットを当てすぎず、むしろ生き様そのものを描いたことで、後半の賢一の闘病へと自然につながっていった。陶芸に対しても息子に対しても、清子は妥協することなく命を注ぎだしてゆく。

 素晴らしいのは、何と言っても田中裕子の演技であろう。邦画が物足りなく感じるのは、女優が素顔であったり汚れていたりすべき場面でもあくまで「華」であろうとすることだ。しかし田中裕子は見事である。土と煤にまみれてまさに大地に根をおろした母であり芸術家になりきっていた。そして、病に倒れた息子を前に、簡単には涙を見せない。それどころか、厳しく息子を叱責する。ありきたりではない清子というキャラクターをリアルに演じきって見せてくれた。方言も、地元民の耳にも違和感がなく完璧である。

 息子の賢一を演じた窪塚俊一も、はじめは少々ぎこちなさがみられるものの、白血病になってからは迫真の演技を見せてくれる。彼が死ぬことは最初から分かっているが、実に見事な死に様であった。

 ラストに再度、病院の赤十字が大写しになる。賢一は死んだが、その死をきっかけにして、骨髄バンクが立ち上げられ、白血病の人に生きる道が開かれた。イエス・キリスト一人の犠牲によって救いの道が開かれたという十字架を、ここで賢一の人生に重ね合わせてみるとき、大きな希望が見えてくる。

評点 ★★★★★

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 MUDDY WALKERS◇