MUDDY WALKERS 

ファイヤーフィックス Firefox 

ファイヤーフィックス 1982年 アメリカ 136分

監督クリント・イーストウッド
脚本アレックス・ラスカー/ウェンデル・ウェルマン
原作クレイグ・トーマス「ファイアフォクス」

出演
クリント・イーストウッド
ウォーレン・クラーク
フレディ・ジョーンズ
ロナルド・レイシー
ディミトラ・アーリス

スト−リ−

 東西冷戦時のアメリカ。ソ連で、これまでの戦闘機の常識を覆す斬新な戦闘機「ミグ31 ファイヤーフォックス」が開発された、という情報がもたらされ、NATOはこの最新鋭機の強奪を計画する。任務遂行者として白羽の矢が立ったのは、ロシア語を話すことができる元戦闘機パイロットの退役軍人、ミッチェル・ガント(クリント・イーストウッド)だった。彼はベトナム戦争の後遺症でフラッシュバックなどに悩まされ、アラスカで隠遁生活を送っていたが、この作戦のためにかり出され、ソ連への潜入工作を実行することになる。しかし彼はパイロットとしては一流だったが、スパイとしてはまったくの素人だった…。

レビュー

 クリント・イーストウッドが監督・主演を務めたスパイ&スカイアクション映画。ベトナム戦争の後遺症でフラッシュバックに悩むアメリカ人の元戦闘機パイロット、ガント少佐は、ソ連が極秘裏に開発を進めている最新鋭戦闘機「ファイヤーフォックス」を、潜入工作の上強奪する、という任務を受け、モスクワに飛ぶ。共産主義政権下のソ連の息詰まるような監視社会をかいくぐり、反体制側の人物の協力を得ながら、ついに格納庫にたどり着き、アメリカに向かい大空へ飛び立ってゆく。

 東西冷戦の最中のソ連の社会に潜入するのがスパイとしては素人同然の戦闘機パイロットなので、とにかく戦闘機に乗るまでの緊迫感が半端ない。ガントには、受け入れて彼を導く現地の工作員がいるのだが、彼らの手口に慣れないガントは震え上がり、狼狽し、敵であるKGBのエージェントの引っかけ問答にハマってしまって、ついに地下鉄の駅のトイレでKGBのエージェントを殺してしまう。逃走、なりすまし、潜伏、そして情報提供者の博士との接触。ファイヤーフォックス開発者の博士はユダヤ人で、これが完成すればソ連から用なしにされる運命であり、その冷戦時、共産圏ならではの非情な関係が、否応なく緊迫感を盛り上げる。そんなこともあって、協力者たちの屍を文字通り乗り越えて飛び立ってゆく場面は感動的でさえある。

 そして、ガントが戦闘機に乗ってからは水を得た魚のような活躍を見せるワケだが、この前半・後半が、まるで別々の映画を見ているようにパシッと分かれてしまっているので、全体としては微妙な仕上がりになっている気がする。後半ではソ連の最新鋭戦闘機はレーダーに映らないステルス機能とか、思考誘導機能とか、斬新なアイデアが盛り込まれていていて、見どころはいろいろあるのだが、前半とは緊迫感の質が違いすぎるのだ。全体としても、クリント・イーストウッドがこのガント少佐の役にあまり合っていない気がする。また、イーストウッドの作品の特色は、一見派手なアクションやサスペンスがあったとしても、その背後に登場人物の内面を掘り下げていく内省的な一面が強く出てくることにあると思うが、この作品ではそうした試みがあまりうまくいっていないというか、端的にいうと、ベトナム戦争の後遺症というガントの内面が、最後でどう克服されていったのか、その辺りが中途半端になってしまったように感じた。これも、イーストウッドの作風とこの原作が合っていないか、あるいは要素を詰め込みすぎて的を絞りきれなかった、そういうところがあるように思った。

評点 ★★★

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