MUDDY WALKERS 

An another tale of Z

 ガンダムAGE全話レビューを終えて 小林昭人さんインタビュー

ガンダムAGEを振り返る〜
「世襲」の物語が示す閉塞感。その先に、可能性はあるのか(3)

3.制作環境の問題点

過去の資産をうまく活用している「ゴーカイジャー」

■カオル このように見てみると、80年代の作品とAGEとでは、ガンダムシリーズとしての蓄積の有無というのがまず違いとしてありますね。しかしシリーズとして経験を積み重ねてきたことが、プラスになるよりもむしろマイナスに作用しているように思うのですが。

■小林 過去の作品の資産を上手に活用してということでは、同じ年にやっていた戦隊シリーズ(海賊戦隊ゴーカイジャー)がそれで、これは見ていても結構面白いものでしたね。過去作の魅力を引き出すと同時に、若い新しいヒーローの良さもきちんと表現している。彼らは一部の作品では放映当時生まれていなかった俳優なのですがね。作品の中でゴレンジャーに変身したりバトルフィーバーになったりしている。最近では宇宙刑事ギャバンも出てきましたね。それでいて新しい演出とか世界観とかの構築もちゃんとやっている。

■カオル 具体的にはどんな感じでしょうか。

■小林 ゴーカイジャーは従来の戦隊物のほとんど全部がそうだったような、「ご当地ヒーロー」じゃないんです。流れ者の宇宙海賊で、悪の帝国に追われる身として登場する。これまで戦隊ヒーローといえば視聴者の子供にごく近い所に住む日本人で、視聴者とヒーローの利害関係はほぼ一致していたのですが、これは全然関係ない存在になっている。ゴーカイジャーは地球が滅びても痛くも痒くもない。私が見たのはギャバンが登場する映画版ですが、地球人とは関係ない彼らは敵ザンギャックとの戦いでは平気で市街を巻き添えにする。言葉遣いも「なにいっ!」とか「てめえ!」といった感じで、正義の味方風じゃないですね。つまり、今の世界は横に置きつつ、海賊たちの跳梁する銀河宇宙というもう一つの世界を構築して、並行して話を進めている。この辺のスケール感は今までにはあまりなかったものですね。次のゴーバスターズはパラレルワールドだそうですが、期待できそうですね。

■カオル 戦隊物についてはよく知らないのですが、ガンダムよりさらに低年齢層向けのシリーズとはいえ、このような世界観を構築し得る制作陣は侮れない存在ですね。

過去作でできた「お約束」に縛られたガンダムAGE

■小林 これと比較すると、AGEの場合はガンダムはこうじゃなきゃいけないというお約束が多すぎたと思うんですよね。ゴーカイジャーも過去の34作を全部背負った作品ですが、決められるべき部分とそうじゃない部分の線引きが明快だったと思います。守らなきゃいけない部分は34の戦隊を当時のコスチュームで出さなきゃいけないことと、放映当時の設定は変えないということですね。しかし、その他の部分では自由にやっていい、そういう感じで作られたと思います。

■カオル かなり自由度が高いんですね。

■小林 ところがAGEの場合は同じく過去のガンダム作品を背負ってはいるんですが、その内容がきちんと線引きされていない。設定の違いもあるのですが、やっていい部分とそうでない部分を誰が決めているかが最後までウヤムヤで気持ち悪かったんですよね。これは極めて日本的な職場の姿です。どこの職場でも、不文律を押し付ける人って少なからずいますよね。社則でも法律でも無いのだけど、このルールは守れみたいな。

■カオル その手の話は、よく聞きますわ。

■小林  これは私の知っているあるホテルの例なのですが、交替制の仕事で社則には集合は始業5分前と書いてある。ところが実際は10分前で、そんなことはどこにも書いてない。強いて言うなら社長がそう言っていたからというしか無いんですね。ほかにも、週休2日のはずが1日でシフトが組まれていたり。新卒の新入社員が1〜3年で会社を辞めるという話があって、今でも多いのですが、会社自体に問題のある例がほとんどですね。


不文律はクリエイターの自由な発想と制作環境を破壊する

■カオル なぜ、そうなってしまうのでしょう。

■小林 規則でも法律でも無いのですから、結局のところ彼らがやるのは脅迫です。村八分というのもありそうな手口ですね。ま、上の例は三重県の山の中にある、とあるホテルの話なんですがね。そのホテルは数年前に潰れたと聞いています。民事再生法の適用を受けて営業を再開したという話ですが、話を聞けば再開しても似たり寄ったりの体質のようですね。某所では従業員がマリファナをやっていたという評判もあったホテルなのですが、労務環境の悪さを見るにマリファナは今でもありそうな話です。

■カオル クリエイティブな仕事の場合は、このようなをやったらその影響は壊滅的で破壊的でしょうね。

■小林 この作品を作る際にも過去の作品は素材として活用しろ、くらいの指示はあったと思います。しかし、制作者として苦痛なのは、上のホテルみたいにルールブックにないルールを振りかざす人が経営者以外にも多すぎたということでしょうね。サンライズにレベルファイブ社長の日野晃博に、前作をやっていたスタジオ・オルフェのオルフェ千葉に原作者の富野由悠季に、、他にもいたでしょう。レベルファイブにアニメーション制作の環境は無かったと思いますから、アニメ会社の無名の人もうるさ型でいたんじゃないかと思いますね。これではクリエイターは萎縮してしまう。

■カオル それで前作の焼き直しみたいな話が多かった。

■小林 「いちばん無難な提案」を持っていった感じですね。「自由にやっていい」と言われても、不文律が多すぎて不自由だったのですから、彼らが捻り出すのはそういうものでしょう。これじゃ視聴者は面白くない。スタッフも面白くない。作品半ばでそういう感じになって、後は惰性で漂流してしまった。そういう感じの作りだと思いました。これだったらいっそ打ち切った方が良かったかも知れませんね。

→つづく

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