MUDDY WALKERS 

An another tale of Z

 ガンダムAGE全話レビューを終えて 小林昭人さんインタビュー

ガンダムAGEを振り返る〜
「世襲」の物語が示す閉塞感。その先に、可能性はあるのか(3)

3.制作環境の問題点

制作環境を左右するのは経営者の「質」

■カオル そうならない方法は何かあったのでしょうか?

■小林 上のゴーカイジャーと比較すると、まず、「ルールを明確にする」ことですね。東映は過去の戦隊シリーズを素材に使うことは求めましたが、それ以外では口を出さなかったと思います。先の例にあげたような不文律があると制作陣の士気は萎えるので、明確に決めるか、いっそなくしてしまう方が良いですね。ルールを守ってもらうにしても、そのルールにはきちんとした理由(実質)、形式(手続)が無ければいけない。それを明確にすることがスタッフにいちばん効率良く創造的に働いてもらう方法なんです。休み時間は規約上は10分だけど実は不文律で本当は5分、なんてやったら、創造的な仕事でなくてもスタッフの士気はガタ落ちでしょう。同じように制作した後で、「あなたの演出はこうだったけど、実は、、」なんてやってはいけない。そういうのは無いものとして扱う必要がある。

■カオル しかし、ここまでは従ってもらう、ということは決めやすいけれども、ここから先は口を出さない、という自由な領域を作ることは、制作陣には良くても経営者側にとってはかなりの思い切りが必要になってくるのではないでしょうか。何にでも口を挟んで変えさせて、成功したらまるごと自分の手柄にしてしまう、というたちの悪い経営者が多いような気が、、、

■小林 煎じ詰めれば経営者の質ということです。良い仕事をしてもらうためには経営者にはそれなりの覚悟と気迫がなけりゃいけない。レベルファイブのスタッフに一定のルールで仕事をすることを任せるなら、任せたサンライズの経営者も自ら決めたルールは厳守しなくてはいけない。「自由にやれ」と言ったなら、何をされても自由にさせなくてはいけないんです。ゴーカイジャーを作った東映の経営者はそれを知っていた。完全に経営者の質の違いです。失敗の原因を求めるとしたら、それ以外にない。

スポンサーの望む客層と視聴者層は不一致のまま

■カオル こうしたことを反映するかのように平均視聴率2.56%、最終回が各話中の最低視聴率を記録して終わったガンダムAGEですが、この出来ではシリーズの将来も危ぶまれるところではないでしょうか。

■小林 このグラフを見ても視聴率を支えているのはM1層、つまりいい年をした成人男性で、こういうのは自民党の党員みたいなものですから、どんなひどい作品を提供されても文句を言いながら見るというものですね。しかし、彼らがアニメを見ていられるのはスポンサーがいるからであって、そのスポンサーは玩具とかゲームが売れないと収益が入りませんから、そういうものを買う層(キッズ層)にソッポを向かれているのは問題ですね。グラフを見ても視聴率は低いですが、M1を除くとさらに低くなりますから、これは本当にメタメタだったということですね。  それにまずいのは、普通はスポンサーの客層と視聴者は一致してなきゃいけないんですが、この構図では一致してない。現状は視聴率調査の数字よりなお低いということが明らかになったことでしょうか。これはちょっと立ち直れないんじゃないかと思いますね。

■カオル なるほど、視聴率をどの層で取れるか、が問題なんですね。

■小林 宣伝方法も問題で、サンライズが80年代と違ってブランドに認知があると勝手に思い込んでいて、ゴールデンタイムでも何でものべつまくなしにガンダムを宣伝しているのは違和感を感じます。サブカルというのは本来は親に隠して見るものなんです。面白かったら親も見る、それで良いわけで、親がテレビを見ている時間帯に宣伝を流すようなものじゃないと思います。そういう宣伝方法じゃなくて、もっと素の作品それ自体で勝負できるような、それが認められる環境作りの方が大事じゃないかと思いますね。そういう点、80年代と違うのは慢心と驕りですね、作品で勝負しようとしていない。それがいちばん困ったことです。

■カオル 思い返してみれば、私もアニメやマンガは親に隠れて観たり読んだりしていたものです。といっても、テレビが一家に1台の時代で、中学生の頃などまだビデオデッキも普及していなかったので、「こっそり観る」のは実質不可能に近かったですが。とにかく親は、アニメを観ていると内容などともかく、イヤな顔をしたものです。だからこそ、のめり込んだという部分もありますね。当然制作者側もそうした事情は承知していて、だからこそ、大人に通用する中身のある作品を作ろうと、努力していたのだと思いますね。


「自作自演」のツールに貶められたインターネット

■カオル もう一つ、80年代と違う要素としてネットの影響もありますね。

■小林 リアルタイムで作品の評価が得られるということは制作者に取ってもメリットだったのですが、良いと思えたのは最初だけで、その後は制作サイド自身がサクラを大量動員して評判を自分で作るようになりましたから、今ではそちらの害の方が大きいと思いますね。いちばんまずいのは当然悪い評価は嫌ですから、偏った批評ばかりネットに上げていて、その内容に自分が自分で騙されるということです。

■カオル 確かに、黙っていてはなかなか話題にしてもらえないし、メジャータイトルのアニメはまだしも、食堂やホテルなんかはホームページがあっても意見を送るようなヒマ人はなかなかいないでしょうね。

■小林 だからサクラの需要はかなりあるんです。「食べログ」などは私も見るのですが、あれの評判って実際に行ってみるとあまりアテにならないでしょう? そういう狐と狸の化かし合いみたいな話が常態になってしまいましたね。しかし、雑誌の投書欄はすでに死に絶えていて、制作者がナマの視聴者の声を聞くのが難しい環境になっている。東映の場合は着ぐるみを着て全国行脚のショーをやっていたのが良かったかもしれません。しかし、ガンダムの着ぐるみショーもありませんからね。つまり、ネットの普及は便利なのですが、便利すぎて視聴者と制作者の間に壁を作ってしまった。この問題に気づかないといけないと思います。

■カオル ネットの普及で、匿名性によって良い意味で保たれていた平等性というものが崩れ、他のメディアと同じく情報が上から下へ流れるもの、それだけでなく、人を騙してつまらないものを面白いかのように見せかけることさえ行われているようですね。現に低視聴率に終わったガンダムAGEでさえ、Wikipediaには設定やストーリー展開など詳細にわたった膨大な記述があり、そんなに語る内容があったかと我が目を疑うほどですが、これも制作側が「仕事」でやっていることなのでしょう。ある意味、オタク文化は乗っ取られてしまって、制作者側からは、垂れ流されるものを見るだけの存在としてしか認識されていないような気がします。
 そんな中でもし唯一評価できる点があるとすれば、テレビ放映の一週間後に各話をネット配信したことでしょうか。おかげで、各話レビューが実現しましたわ。

■小林 私もネット配信が無ければ見ようとは思いませんでしたね。しかし、配信を一週間遅らせる意味は ほとんど無かったと思いますね。おかげで我々のレビューは一週間遅れたのですが、その時はすでに「はちま起稿」なんかにキャプチャー画が続々と、、

■カオル いくらネット配信しようが、作品が面白くなければ何の意味もないですよね。私としては、面白くない作品を毎週見続けるのは苦行といってもいいものでしたが、ガンダムというコンテンツをとりまく現状を直に見て自身で評価できたことは、意味があったと思います。

→つづく

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