レビュー
2014年に放映された大河ドラマ「軍師官兵衛」を視聴しているとき、黒田官兵衛の嫡男、黒田長政を演じていた松坂桃李は確か特撮でデビューしたんだっけ？と調べて鑑賞することになった戦隊シリーズの一本。だらだらとして盛り上がりに欠ける「軍師官兵衛」とは正反対の、最終回に向かってぐんぐんとボルテージが高まっていくドラマ展開と、戦隊シリーズでは異色づくしの設定に、ぐいぐいと引き込まれていくことになった。
異色である理由の一つは、主人公ら戦隊が現代のサムライであるという設定にある。戦隊のリーダーであるレッドが殿様、ブルー、グリーン、ピンク、イエローの４人は家臣という明確な主従関係があり、武家屋敷の会合風景はさながら時代劇のそれである。さらに、その関係性から殿様である主人公の丈瑠は、常に家臣である４人のメンバーとは立場的にも心情的にも一線を引いていることもある。そもそも丈瑠は家臣の招集にさえ異を唱え、自分一人で戦う、家臣である若者たちを巻き込む必要はないと言い切っていた。前半では、そうした孤高を貫こうとする侍、丈瑠と４人の家臣たちとが次第に主従を越えた絆を結んでゆく様子がコミカルに描かれる。殿と家臣とのよそよそしい関係に、丈瑠の幼馴染で寿司屋の梅盛源太が加わることで、丈瑠の人間的な一面が引き出されてゆく。
異色であるもう一つの理由は、主人公の抱える闇である。丈瑠は志葉家当主だけに受け継がれる、外道衆の頭目・血祭ドウコクを封印する文字の使い手である。そのため、戦いにおいて家臣たちは、自らの命を惜しまず丈瑠を守ろうとする。彼の命が失われれば、封印の文字も失われてしまうからである。ところが、そうであるにもかかわらず、丈瑠＝シンケンレッドはしばしば自らの体を投げ出し、「肉を切らせて骨を断つ」戦いをしてしまう。それがシンケンレッドのえも言われぬ魅力となっている一方で、彼自身の存在意義と齟齬をきたしており、家臣たちはその行動に翻弄され、しばしば衝突の種となるのである。この、主人公の抱える闇は終盤の大どんでん返しにつながってゆくため、詳細はここには書かないが、中盤以降の物語を引っ張る牽引力のひとつとなってゆく。
さらに付け加えるなら、敵である外道衆と、主人公ら人間との間にいる「はぐれ外道」なる存在もまた異色といえる。外道とは道理に背く行いをする者をいうが、人間でありながら、人の道を外れた行いをしたために外道に堕ちた者たちがいて、シンケンジャーらを大いに惑わす。薄皮太夫と腑破十蔵である。二人は江戸時代に大罪を犯して外道に堕ちたため外道衆となった人間で、後半に描かれるそれぞれの過去は、とても幼稚園児が主たる視聴者層の作品とは思えない、人の心を蝕む執着と渇望とをむき出しにする。
普段はカジュアルな服装をしている殿様と家臣たちだが、侍がモチーフとなっているだけに、戦いの場面では戦隊を補佐する黒子たちによる陣太鼓に続いて志葉家の家紋の入った幟が掲げられ、陣幕が張られ、袴姿からシンケンジャーへと変身する。名乗りを上げて見得を切るその変身シークエンスは戦隊シリーズの定番だが、時代劇がかった設定だけにまったく違和感なく楽しめる。さらに特殊能力の「モジカラ」や、筆と携帯電話が一体化した「書道フォン」、三途の川に浮かぶ血祭ドウコクの「六門船（六文銭とかけている）」など、あちこちに散りばめられた遊び心が、極上のエンターテイメント空間を作り出している。
それに加えて、テレビの世界が連綿と作り上げてきた時代劇でおなじみのモチーフがあちこちに織り込まれており、それを見つけるのもまた一興である。第一話の冒頭で後見役の彦馬が述べる口上は「水戸黄門」そのままで、このために本家「水戸黄門」で格さんを演じた伊吹吾郎をキャスティングしたのであろう、それが見事にはまり、現代の侍の存在感をぐっと引き立てている（のちに印籠も登場する）。そのほか「暴れん坊将軍」「遠山の金さん」「銭形平次」など、お子様たちの知らない時代劇ネタを見てほくそ笑むのも大人の楽しみといえよう。
特にすごいのは物語終盤である。丈瑠が抱えてきた秘密が明らかとなり、戦隊は敵のラスボス、血祭ドウコクとの直接対決を前に瓦解寸前となる。抱えてきた心の闇のゆえに丈瑠に惹きつけれてきた腑破十蔵は、丈瑠を剣の道へと誘う。それは明かされたゆえに立場を失った丈瑠にとって、唯一の存在意義となるものであった。
ここから始まる丈瑠と十蔵との一騎打ちは、その快楽ゆえにやめることができない、というほどの迫力である。馬を走らせながら刀を合わせる二人が炎と化して激突するとき、私たちもまた、十蔵の堕ちた外道へ引き込まれようとしているのだ。
これがデビューとなった松坂桃李をはじめ、シンケンジャーを演じる若手俳優の一人ひとりが素晴らしく、現代の侍というユニークな存在をコミカルに、しかしあっても不思議のない距離感で演じている。演技そのものが初めてだったという松坂桃李にとっては厳しい日々だったようだが、しかし、ある意味彼の天性があってこその作品かもしれない。家臣たちと一線を画しつつ、次第に心を開いていくさま、秘密を抱える者としての苦悩、そしてすべてを失って空っぽになってしまったときの、その表情。成長し開花していく才能を見るのみまた、若手の登竜門ともいうべき本シリーズの醍醐味であろう。
現に昨今では、一年間を通して放映されるドラマはN HＫの大河ドラマを除けば、特撮モノしかないのが現状である。喜怒哀楽をわかりやすく伝える演技に加えてアクション、アテレコもこなさなければならない大変なシリーズだけに、ここで揉まれた若手の中から大きく成長する俳優が出てくるのも不思議ではない。本作は特にメインの５人の出演者が、その後それぞれに次の舞台で活躍している様子から、そんな彼らを見出し育てた作品の器を創り上げた創作陣のシリーズ愛さえ感じられる。終盤の大どんでん返しから、思いがけず明るい結末へ、今を生きる子供たちへの心のこもったメッセージが響く。それはむしろ、今大人が受け取るべきメッセージなのかもしれない。
評点 ★★★★★
http://www.muddy-walkers.com/dorama/shinkenger.htmlＴＶ・ドラマレビュー｜スーパー戦隊シリーズ「侍戦隊シンケンジャー」
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