レビューと概要
1992年12月から1993年8月にかけてNHKで放送された、太平洋戦争のドキュメンタリー番組。現在、インターネットで公開されていることを知り、ぜひ観ておくといいという薦めもあって、視聴した。非常に充実した内容で、あわせて出版された同タイトルの本も読んだ。
番組は、全6集。全体のテーマは、先の戦争における失敗の本質はどこにあったのか、ということであろうか。
戦争が終わったころ幼い子どもだった世代の両親を持つ私にとって、戦争体験の話といえば「物資や食糧の欠乏」であり、「空襲と焼け跡」であり、「戦後の窮乏と進駐軍」であった。学校での平和教育では、これに「原爆投下の悲劇」が加わった。いずれも、戦争によって受けた被害の体験である。私に限らず、ほぼ日本で教育を受けた全員が、戦争とはそのようなものとして、聞き伝えられているだろう。そこから生まれるのは、過去の戦争に対する「被害者意識」ばかりである。
学校の歴史教育の中で、近・現代史がすっ飛ばされることと相まって、私たちは、過去に戦争で受けた「被害」だけを教えられ、その原因や目的、プロセスなどについて体系だてて教えられたことは一度もなかったはずである。だから、戦争といえば、「物資、食糧の欠乏」「神風特攻隊」「空襲」「原爆」といった断面だけしか見ることができずにいたが、この番組「ドキュメント太平洋戦争」では、そこへ至る恐るべき組織的怠慢と失敗のプロセスを、6つの視点を通して提示している。私はこの番組を通して、今まで聞いていた戦争のエピソードが、度重なる政府、軍部の組織的失敗の「顛末」であることを改めて知り、愕然とした。
第1集は「大日本帝国のアキレス腱 〜太平洋・シーレーン作戦〜」
「自衛自存のため」と称してアジア・太平洋地域の欧米植民地を攻略した日本は、大東亜共栄圏の建設を目標に掲げ、戦争遂行に必要な資源の確保のため、石油、鉱物等の天然資源の海上輸送を始める。しかし、海軍は「艦隊決戦」を至上とし、民間の輸送船にまったく護衛を付けなかったため、アメリカ軍潜水艦の餌食となる。アメリカは、戦争に勝つために黙々と、日本の輸送船を沈め続けた。
第2集は「敵を知らず己を知らず 〜ガダルカナル〜」
ミッドウェー海戦で空母機動部隊が壊滅した日本軍は、航空機による攻撃のために必要な飛行場を太平洋の島々に建設しようとする。飛行場をめぐって日米が激戦を繰り広げたガダルカナル島の戦いから、日本陸軍の時代遅れの装備と戦法、そして米軍がいかにして敵である日本軍の兵士の実像を知っていったか、に焦点を当てる。
第3集は「エレクトロニクスが戦を制す 〜マリアナ/サイパン」
艦隊決戦で決着をつけられるものと妄想する海軍は、マリアナ沖での決戦で雌雄を決しようとする。艦隊司令の小沢治三郎中将の作戦は「アウトレンジからの攻撃による奇襲」であったが、米軍はレーダー、VT信管などエレクトロニクスを駆使した兵器を実用化し、投入してきた。防御の兵器を疎んじる日本軍と、科学技術を取り入れて防御力を高める米軍の思想の違いを際立たせる。
第4集は「責任なき戦場 〜ビルマ・インパール」
史上最悪の作戦といわれる「インパール作戦」。援蒋ルートの分断を目指して指揮官の牟田口廉也が立てた作戦は、参謀らから補給が不可能な無謀すぎる作戦とされたが、なぜか準備命令が出され、決行されてしまう。軍としての組織的欠陥と意思決定の曖昧さから、多くの兵士が補給のないまま自決、病死、餓死しなければならなかった悲惨な状況を招いた、その失敗の本質を暴く。
第5集は「踏みにじられた南の島 〜レイテ・フィリピン」
「アイ・シャル・リターン」の名言を残してフィリピンを去ったマッカーサーの米軍に変わってフィリピンを支配した日本軍は、なぜ現地の人々から受け入れられなかったのか。アメリカと日本の戦争に巻き込まれて多くの人が犠牲になったフィリピンを通して、日本の掲げた「大東亜共栄圏」の虚像と現実を明らかにする。
第6集は「一億玉砕への道 〜日ソ終戦工作〜」
終戦直前に日本との戦争に参戦したソビエト連邦。しかし日本はその瞬間まで、連合軍からソ連を枢軸側に引き入れて、和平仲介を求めて虚しく交渉し続けていた。なぜ、仮想敵国としていたソ連に終戦工作の望みを託さなければならなかったのか。外交を軽んじた代償と、国体護持のためには一億人の国民の命を犠牲にしてもよい、という狂気の行く先をたどる。
今は多くが亡くなっておられる、戦争において指導的立場にあった人々の証言と、アメリカ、ロシア、フィリピン、ミャンマー、ソロモン諸島などへの現地取材などを通して構築された番組は、NHKの歴史に残る、名作シリーズの一つといっても良いのではないだろうか。生々しい当時の戦場、戦死者の写真や証言、カラーで撮影された沖縄戦など、衝撃的な映像も多数織り込まれており、日本の戦争の歴史を知るための、重要な一作。
下記リンクより、無料で視聴できます。
NHK戦争証言アーカイブス
★★★★★★
http://www.muddy-walkers.com/dorama/do-tai.htmlTV・ドラマレビュー|ドキュメント太平洋戦争
|