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 宇宙戦艦ヤマト(1974)各話レビュー →宇宙戦艦ヤマト2レビュー

 第9話「回転防禦!!アステロイド・ベルト!!」


あらすじ (人類滅亡まで、あと338日)

 ヤマトの攻撃により冥王星の前線基地を失ったガミラスのシュルツ司令。このままでは祖国ガミラスには帰れないと、ヤマトへ最後の戦いを挑むことを決意する。一方のヤマトは、冥王星での戦闘で大きな損傷を受けたヤマトを補修する必要があった。敵影を発見したヤマトは、かつて太陽系にあった10番目の惑星の残骸である小惑星帯アステロイド・ベルトへ姿を隠す。航行の最中、真田は安全に補修を行い、いざというときの攻撃に備えるためのプランを温め、沖田艦長に提案する。それは、小惑星を反重力によって遠隔操作し、ヤマトの周囲に集めてヤマト本体を小惑星に偽装するというアイデアだった。

コメント

 いまや太陽系を脱して外宇宙へ旅立たんとするヤマトに、ヤマトの撃破なしには生きて帰るわけにはいかないという状況に追い込まれたガミラスのシュルツ艦隊が、決死の戦いを挑んでくる。しかし冥王星での戦いで満身創痍のヤマト。今ここで「本気の戦い」をするわけにはいかない、という事情がある。技術長の真田は敵から身を隠し、防禦体制を固めながら補修を進めるためのアイデアを沖田に提案。「波動砲なし」どころか、その他もろもろの武器も使えない状況で、どうやって決死の覚悟の相手と戦うのか、というところでユニークな展開を繰り広げる。
 真田の出したアイデアは、反重力感応装置を複数の小惑星に打ち込んでヤマトからコントロールで切るようにし、ヤマト本体の周囲を小惑星で取り囲んであたかも大きな小惑星の一つであるかのように見せることだった。

 ヤマトの原案・設定にはSF作家の豊田有恒氏が携わっているが、豊田氏が当初出したアイデアは、異星人のもとへ放射能除去装置を取りに行くというストーリー。そのアイデアでの宇宙船は、小惑星にエンジンをつけるというものだった。それが練りに練られて、結果的には戦艦大和を甦らせるというアイデアへたどり着いたのだが、第9話は、この当初のアイデアを、形を変えて取り入れているのではないか、と思われる。いずれにしても、満身創痍のヤマト、対する特攻覚悟の敵艦隊、というシチュエーションによって、見事に本作に活かされるアイデアになった。

 「アステロイド・ベルト」という言葉以上にSFっぽさを醸し出すのが、ヤマトの周囲に岩石を寄せてくるのに使われる「反重力感応装置」である。ヤマトの世界では、地下都市の透明チューブの中を、タイヤのない車が走っていたが、おそらくこれも「反重力」というナゾの技術が使われているのであろう。「ワープ」とともに、ヤマトがお茶の間に届けた代表的な架空の未来技術の一つといえよう。

 こうして小惑星に偽装したヤマトだが、決死の覚悟のシュルツについに発見されてしまう。しかし真田のアイデアは、単にヤマトを隠すだけのものではなかった。あっと驚くアイデアで、なぜか、ぐるぐる回り始めた小惑星に敵の砲撃はすべて妨げられ、はじき飛ばされた小惑星によって、敵艦隊はみるみるちに壊滅していく。
 こうしたヤマトのアイデア防禦の一方で、よりこの第9話を印象的なものにしているのが、シュルツの体当たり攻撃であろう。「我らの前に勇士なく、我らの後に勇士なしだ」という台詞を残して去ってゆくシュルツ。その瞬間、単なる「悪役」だったキャラクターが、人の心と人格を持ったものとして迫ってくる。


ピックアップ 「特攻」

 特別攻撃、略して特攻。第二次世界大戦の末期、戦闘員が死ぬことを前提として日本軍が行った体当たり攻撃をこう呼ぶ。「お国のために」自らの命を犠牲にして敵を倒す。それは犠牲的精神の発露として、国威掲揚のために戦時中は美化されて伝えられてきた。戦後もその犠牲的精神に対しては、敬意を持って受け止められている。日本においては、「特攻」は特別な意味を持つものなのだ。
 その「特攻」を、憎むべき敵であるはずのガミラス、遊星爆弾による攻撃を指揮し、地球を放射能汚染で滅亡寸前にまで追い詰めたシュルツ司令に敢行させた。考えてみれば不思議なことである。なぜ、こうしなければならなかったのだろうか。
 シュルツはもうすでに、デスラー総統からヤマトを撃沈できなかったのに勝利したという勇み足の報告をした責任を問われ、生きて祖国に戻る望みを絶たれている、という事情があった。ならば、このままどこかへ逃亡して生き恥をさらすよりも、自らの命を犠牲にしてでも相手と戦い抜いて、死んで名誉を残したい、という思いで体当たり攻撃を敢行したものと思われる。そこには、かつて犠牲的精神によって特攻を行った日本軍、というよりも、名誉ある死を重んじる「武士道」に似た価値観があるように感じられる。製作者は、悪役である敵も、私たちが共鳴する価値観を持った人間的な存在として描こうとしたのではないだろうか。
 「我らの前に勇士なく、我らの後に勇士なしだ」。シュルツのこの言葉とその最期の姿は、私たちが持っていた「敵」のイメージを、大きく転換させたのだ。


関連レビュー
「宇宙戦艦ヤマト2第9話 突撃!ヤマトを撃沈せよ」



先生、もっとボリュームを!───── 山田安彦


あらすじ

 テレザートへの道すがら、ヤマトはガトランティスの攻撃機を捕らえる。パイロットを捕虜にした古代らは捕虜から彗星帝国の情報を得ることを試みる。


ヤマトの拷問係山田

Aパート:斎藤の出撃、山田登場
Bパート:メーザー脱走、デスタール艦隊全滅

コメント

 防衛軍長官から彗星帝国についての情報を求められた古代は戦闘艇を拿捕して捕虜から情報の収集を試みる。ヤマトシリーズの汚点、拷問係の山田安彦(2の生存者18名の中に含まれていないので後の戦いで戦死したものと思われる)が登場する回で、謎の拷問装置の存在といい、自白剤の常備といい、これが正義の宇宙戦艦のやることかという異色の回である。負傷した捕虜の回復を待たずに尋問を強要する古代の姿もらしくないといえるが、どうも2の古代は艦長代理になって杓子定規になったというか、自身が反乱という究極の規律違反を行いながら、人格者を装ったり規律を主張したりなどとちぐはぐな行いが目立つ。
 古代が促した山田による拷問にも口を割らなかったメーザーだが、酒を勧めた佐渡には心を開き、ガトランティスの歌など披露する。ヤマト2には主人公古代の成長を描く目的もあるので、先の土方やこの佐渡など大人の柔軟な対処と対比させつつ、主人公に成長を促すという作劇上の理由があるかもしれない。今までの所、アンドロメダとの対決や空間騎兵隊との衝突など古代が関わった揉め事は全て佐渡や真田など年長者が収めていることを見れば、これはそういう意図なのだろう。
 徳川に潜入工作班員と疑われたメーザーだが、実のところはデスタール艦隊の一偵察員にすぎず、脱走したメーザーの帰艦をデスタールは拒絶する。「彗星帝国が捕虜になった者に甘い顔をすると思うか」とし、規則は変えられないとメーザーに立ち去るよう求めるデスタールだが、それでもミサイルや追っ手を放って撃墜しないあたり、部下への一抹の温情を感じさせる。デスタール艦に突っ込むメーザー機に狼狽する彗星帝国の兵士など捕虜を取られた敵側にもスポットを当てた話で、パート1の同じ話より複雑だが、もっと掘り下げて欲しかった話でもある。この場合、メーザーにはヤマトに投降する可能性もあったことから、彗星帝国の規則はおそらく処刑も求めていたはずだが、デスタールもさすがにそこまではできなかったようである。いずれにしろメーザーは自爆し、デスタールも直後のヤマトとの戦いで戦死することから、ヤマトらしからぬ拷問係の存在といい、相手の艦隊も消え去った、さながら幽霊のようなエピソードである。
(レビュー:小林昭人)

評点
★★★ 藤川脚本の巧みさは認めるが、やはりヤマトで拷問は良くない。話も荒削りで、普通の脚本家なら★2つ。

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