MUDDY WALKERS 

 著作集

宝島社 別冊宝島094


僕たちの好きなガンダム 全登場キャラクター徹底解析編

2002年11月2日発行
定価:本体857円+税

宇宙世紀のお嬢さまスタイル イセリナ・エッシェンバッハ

 イセリナはお嬢様です。ガンダム一いっても過言ではないほどの。お嬢様という立場にあるといえば、ミライもセイラもそう。しかしミライはお袋さんだったし、セイラも強気なお姉さんで、決してお嬢様ではありせんでした。そう、お嬢様とは「生き方」なのです。
 イセリナはどこか浮いていました。敵方の御曹司に惚れてしまい、父の苦々しい思いをまるで理解しようとしないどころか、市民と娘のどちらが大切なのかという難題をぶつけます。自分が一番大切にされている。それがお嬢様のアイデンティティを支えているのです。ガルマを選んだのは、彼の方が自分を大切にしてくれると思ったからでしょう。
 しかしイセリナが本領を発揮するのは、むしろ愛する人を失ったあと。彼女は父の元へは戻らず、ホワイトベースを追って敵討ちを果たそうとします。そんな、本気の恋を貫く「お嬢様」ならではの無謀さと妥協しない態度に、女は密かに憧れていたりするのです。

逆襲のシャア シャア・アズナブル「仮面の告白」

 ファーストガンダムの頃、シャアはいつもマスクをしていた。その下に隠れているのはもちろん美貌。だから「次はいつマスクをはずすのか」もガンダムを見るときの楽しみの一つだった。あれから14年。『逆襲のシャア』で再び姿を現す彼の顔にマスクはない。
 かつての復讐にすべてを賭けたストイックな姿はそこにはない。ガルマとイセリナの恋を「戦場のラブロマンス」と鼻で嗤った彼が、戦術士官のナナイを愛人にしている。彼はナナイに公然と寄り添い、その胸に顔をうずめさえする。その一方で、ロンデニオンで偶然に出会った少女クェスを自軍に誘い込み、やさしい言葉をかけてすっかりその気にさせてしまう。その心が一体どこにあるのかは、一番親密であるはずのナナイでさえもわからない。それゆえナナイとクェスはシャアをめぐって火花を散らし、部下のギュネイにはロリコン呼ばわりされる始末である。
 戦略家としても揺れている。隕石落としを実現するため、連邦政府を欺いて核の売買をするかと思えば、ひそかにサイコフレームの技術をアムロに無償提供していたりする。以前の彼も敢えて自軍を欺く行為に出ることがあった。それはすべて、ザビ家への復讐のためだった。しかしネオ・ジオンの総帥として立っているこのとき、彼は「地球人類の粛清」という大それた行為を画策しながら、どこか他人事のように冷めた目でそれを見ている。ミライはシャアを「純粋な人」というが、行動を見る限りは純粋に思えない。シャアはマスクを取ってもなお、総帥という仮面をかぶっているようである。
 しかし、戦いがクライマックスを迎えるとき、シャアはその仮面を捨てて素顔をあらわにする。「それでこそ私のライバルだ」と、一軍の将としての立場を捨てて追いつめるその敵、アムロこそが彼の純粋な動機であった。ジオン・ダイクンの子、ネオ・ジオンの総帥としてではなく、そのときシャア・アズナブルそのものとして彼は最後の戦いを始める。 シャアにとってアムロは、決着をつけなければならない相手であった。しかし同時にアムロと戦っているそのときだけ、シャアはナナイにも立ち入らせなかったその心の深みをさらけ出すことができたのだ。『逆襲のシャア』はまさにシャア対アムロの最終章だ。そこに私たちは、マスクの下に隠されていた、シャアの涙を見るのである。

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