■考察(3) ねこみちの考察
方向がおかしいアニメの描写
第1話では登校する小熊を椎が追い抜く場面があるが、「アニメにおける地理」の図だと椎の家のあるのは高校から見て小熊の反対方向で、11話まで続けられるこの場面はいつ見ても不自然なものである。長坂にある彼氏の家に外泊、自宅は別にあるという説明もあるが、不純異性交遊は作風から見て論外で、全メディアを通してカフェ・ブールは店舗兼住宅と説明され、8話でも椎の母親が「ただいま」と声を掛けていることから、これは登校の場面だけがおかしいのである。
椎救出の場面
これが問題になるのが11話で、10話で小熊が目撃した光景だと椎は自転車で坂を登り、それからねこ道に入ることからショートカットは上り方向以外ありえない。小熊との会話も「韮崎にコーヒーを買いに行く」と言い、目的地が日野春駅であることが明示されている。椎が乗り入れていたのは上り方向のはずである。
この作品は実際の地理を少し変えているため、検討には先ず日野春停車場線の実際の地理を元に白地図を制作する(上図左)。それから道幅を自転車が通れる程度に拡げ、アニメとコミックで描かれている小川を描きこむ。アニメの風景に合わせて上り入口の場所も変更する。椎も小熊もここから乗り入れている。
コミックではねこ道のことはカフェの話題になっておらず、日野春から帰る椎が乗り入れる場面しかないため、下り入口の近くにも小川を描きこむ。小熊が椎を発見したのは入口から100mなので、双方正しいとすると小川と水たまりは2つあることになる。
地図を彩色して図示すると、アニメとコミックでは方向が正反対であることが分かる。アニメは10話と11話アパンでは椎は下りで転落し、頭を釜無川側に向けているが、発見された時には日野春駅の方向に頭を向けており、川に落ちた自転車の方向も同じで、電話から発見までの間に人も自転車も方向が変わっている。
トンネルもある険峻な地形なので、このような場所に小川や水たまりがあるとは思わないが、話のために地形を変えたなら、どこをどう変えたのか、その部分はしっかりと詰めて説明できなければならない。
作者の救出案
原作小説では作者が考えた椎救出の場面が詳述されているが、彼の案だといろいろと説明の難しい問題が生じることになる。
図は記述から場所を七里岩ラインの途中、小熊の家から1キロに入口を設定した場合だが、等高線の数を見て分かる通り、近くにトンネルも掘られているこの場所はショートカットと呼ぶにはあまりに急すぎる。V字谷の渓谷は険しすぎ、転落するような水たまりを作る場所もなさそうだ。勾配は25%で、とても自転車の登れる場所ではない。カブでも1速がせいぜいで2速は使えない。
なお、作品では「日野春七里岩の河川段丘工事」で作られた道と書かれているが(コミックも同じ)、正しくは「河岸段丘」で、七里岩は溶岩台地ではあるが河岸段丘ではない。これがあるのは白州や須玉など釜無川西岸地域である。地形選択の不適切さに用語の間違いと、あまり考えて書かれていないことが伺える。
こちらの図はアニメスタッフが取材した穴山付近のつづら折れで入口は七里岩ラインにある。作品の風景に良く似た小川があるが、見ての通り急峻な地形で川には確認できるだけで3つの砂防ダムがある。小説の描写もこの場所を意識したものになっているが、日野春よりも傾斜が急のため、つづら折れの長さは横手道より長いものになっている。本道より長いショートカットは普通はない。さらに駅は穴山駅の方が近く、距離も日野春から5キロ離れている。
おそらく作者は日野春周辺のいろいろな場所をミックスしてあの場面を書いたと思われるが、地図を見る目がないのかと思えるほどの場所選択のまずさ、無理矢理押し込めばストーリー全体が歪むほどの場面で、アニメスタッフはさぞ苦労しただろうと思わせる。
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