スーパーカブ

第6話「私のカブ」

あらすじ
 夏休み中に自動二輪の免許を取得した小熊は小型二輪となったカブで解放された自由を味わう。発熱で修学旅行に参加するチャンスを逃した彼女はカブで旅行に中途参加することを目論む。

Aパート:小熊の発熱、鎌倉に出発
Bパート:富士山5合目、湘南弾丸道路

コメント

 前話の礼子と同じくらい小熊の問題行動が目立つ回である。まず、一度不参加を伝えた修学旅行に途中参加することにつき、担任に連絡一つ入れていない。到着後も乗車が禁じられているにも関わらず礼子と湘南で二人乗り走行などやりたい放題である。
 また、宿泊先のかまくら荘(KKR鎌倉わかみや)も不意打ちで、仕入先も閉まっているのに食事をもう一人前用意する余計な手間を強いられることになった。優秀な料理人のいる旅館だから良かったが、通常の共済施設では食事も用意できなかっただろう。この様子では帰路もバイクで帰ったに違いない。実際にやったなら停学モノの不祥事である。
 もう一つの問題は、北杜から鎌倉まで、途中富士山五合目を登っての計180キロの行程で、小熊のペースが実際のこの車種の性能に比べ速すぎることである。作者は単純に距離を最大巡航速度で割っただけの計算しかしていないのではないか。御殿場まで1時間半で到達しているが、その平均は時速60キロで、ありえない速度である。
 ほか、小熊は夏休み中に普通二輪免許を取ったが、ほぼ全日甲府往復のバイトをしていて免許を取得する時間と費用をどこから捻り出したのかという疑問もある。前話との整合性が取れておらず、これは原作の特徴でもあるが、この辻褄の合わなさが回が進むにつれて作品を見にくいものにしている。
 監修したホンダも50ccカブの苦しげな音は再現したくなかったのか、富士山に登るカブは軽々と5合目の急坂を駆け上がっていく。この登攀にはコツが要るはずだが、それについては触れられていない。
 この頃になると小熊も知識を付けていて、礼子との会話でCTがハンターカブと分かるほどになっている。新型車(クロスカブ)が出ていることも知っているが、このあたりはバイク乗りあるあるである。

ブロック修正
 またの名をボーリングといい、精度が低く材質の良くないカブ時代のエンジンでは自動車でもおよそ10万キロごとにエンジンを下ろしてシリンダをボーリング機械で削り直し、オーバーサイズのピストンを押し込んで再生する作業が行われた。ピストンはメーカーで用意されている。精度の向上した現代のエンジンでは不要の作業になっているが一定の需要はあり、整備工場から専門業者に外注する方法で今も行うことができる。費用は一万円弱から数十万円までエンジンの大きさや加工形状により異なるが、原付クラスの修正はエンジンもシリンダも小さく、単気筒で構造が簡単であることから費用も低廉である。加工したエンジンは排気量が向上することから市役所に申請して登録内容を変更する必要がある。内容的には改造ではなく整備の一種であることから、49ccのカブを52ccに排気量アップしたところで性能はほとんど変わらないと思われる。

バイクの巡航速度
 北杜から御殿場までの90キロを小熊はわずか1時間半で走破しているが、実際のツーリング計画ではストップ&ゴーの繰り返し、制限速度や道交法上の最高速度60キロ、燃料補給や休養の時間を考慮して計画を立てなくてはいけない。例えば500mを時速60キロで走行する場合、通過だけなら30秒で通過できるが、同じ時間でゼロ発進から次の信号で停車する場合は時速100キロ近くまで加速しなければならない。当然これは最高速度違反であり、実際は信号待ちの時間がなくても通過に時間が掛かる。
 小熊のカブの場合は時速60キロまで加速するのに15秒掛かるので、500mは40秒台半ば。これだけであっという間に平均速度40km/h台である。そして、このような場所はツーリングではザラにある。加速の途中でトラックが道を塞ぐこともある。
 動画ではより性能の高いカブC125(小熊カブの2倍の性能を持つ高性能車)で同じコースを走ったライダーが朝7時に出発し、富士5合目を除く160kmを御殿場まで3時間40分、鎌倉まで6時間40分で走破したが、現実的には時速30km/hが飲まず食わずで行った場合のスピードの平均で、寄り道で時間を取られれば時速20キロ台もありうるものになっている。小熊の場合はより遅い昼前(11時頃)の出発なので、この時間帯では甲府バイパスや湘南の大渋滞に巻き込まれ、富士山など登ればさらに遅くなり、小田原付近で時間切れになり、夜到着もありうるものになっている。

評点
 停学確実の無謀行動、作者の軽薄さに呆れ果てる。



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