MUDDY WALKERS 

少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録 

少女革命ウテナ 1999年 日本 85分

原案・監督幾原邦彦
原案・漫画さいとうちほ
脚本榎戸洋一

出演
川上とも子/渕崎ゆり子/子安武人
三石琴乃/草尾毅/久川綾

スト−リ−

 全寮制の名門校、鳳学園に転校してきた天上ウテナ(川上とも子)。この学園では奇妙なゲームが行われていた。“バラの花嫁”と呼ばれる姫宮アンシー(渕崎ゆり子)をめぐって、決闘をするのだ。参加できるのはバラの刻印のある指輪を持つ者に限られ、彼らは“デュエリスト”と呼ばれる。決闘の勝者と、アンシーは一夜をともにするのだった。この決闘ゲームに巻き込まれたウテナは、デュエリストたちがアンシーを手に入れることで何を得ようとしているのか、疑問に思うようになり…。

レビュー

 15歳あまり年下の女友だち、Mちゃんは保育士を目指す子供好きのとても女らしい人だが、高校生の頃は男の子みたいになりたくて、髪をベリーショートにし、周りの友だちには男の子風のニックネームで呼んでもらっていたそうだ。今の彼女からは考えられないにしても、そういう女の子は決して珍しくはない。男装して自分のことを「ボク」と呼ぶ天上ウテナは、ある意味少女漫画の定番キャラであり少しも目新しくはないのだ。小さい頃自分に志の高さを教えてくれた“王子様”の存在も然り。貴族の子息が通うような全寮制の学園、画面を埋め尽くすほどの赤いバラ、ゴージャスな制服を身にまとったスター的存在の生徒たち。出てくるものすべてが、少女漫画の定番を極端にデフォルメしたパロディのような作品である。だからこの世界に慣れ親しんだことのある女性なら、面白くないワケがない。

  “バラの花嫁”“世界の果て”“世界を革命する力”…など、意味不明なキーワードをちりばめながら、少女漫画の耽美な学園生活をアヴァンギャルドに演出して独自の世界を描き出す、カルトムービー。正直、わけがわからないと言ってもいいようなストーリーだが、演劇的な展開と美しい映像で、不思議な空間にぐいぐい引き込まれていく。思春期の少女たちを取り巻く危うい感情が比喩的に織り込まれ、感性のスイッチが入った人を虜にしていく。そう、これは思春期特有の“殻”にこもった少女が、外の世界へ出て行こうとするときの苦悩を描いた物語。あるいはアニマとアニムスの分離のプロセスなのか。主人公は天上ウテナで、彼女を含む“デュエリスト”たちが“バラの花嫁”姫宮アンシーを奪い合う話と思いきや、実は主体は姫宮アンシーで、彼女が自分の中のアニムスを廃し、アイデンティティを確立していく。描かれているのはそのプロセスではなかったか。近親相姦や同性愛を思わせる描写がそこかしこに見られるが、これはそうした内的葛藤のメタファーではないのか。…そんな解釈はともかくとして、ウテナカーに乗って外の世界を目指すアンシーの前に“お兄さま”が現れるシークエンスに、私はすっかり魅了されてしまった。アンシーの“王子様”鳳暁生の声(及川光博が特別出演/笑)がいいんだよね〜

  別の言い方をすれば、少女漫画の世界を描きながら、少女漫画に死の鉄槌を食らわせた罪深い作品ともいえよう。それにしてもこの話、大島渚監督の『御法度』と実によく似ていると思うのだが。こちらは外に突き抜けていく話、『御法度』は内に閉ざしてゆく話。その指向性の違いは一体どこからくるのだろうか。

評点 ★★★★

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