MUDDY WALKERS 

ターミネーター THE TERMINATOR

ターミネーター 1984年 アメリカ 108分

監督ジェームス・キャメロン
脚本
ジェームス・キャメロン
ゲイル・アン・ハード

出演
アーノルド・シュワルツェネッガー
マイケル・ビーン
リンダ・ハミルトン
ポール・ウィンフィールド
ランス・ヘンリクセン

スト−リ−

 1984年、アメリカ・ロサンゼルス。突然路上に放電現象が起き、作業車の近くに大男(アーノルド・シュワルツェネッガー)が出現する。なんと、素っ裸だ。そのまま歩いてくる裸の男を見つけて、不良少年たちがからかうが、その男は素手で一人を殺すと、ぎこちない英語で言う。「おまえの服をよこせ」。
 同じ時、別の場所に同じような放電現象が起こり、街角に裸の男が出現する。彼は近くにいたホームレスのズボンを奪うと走り去って行くが、異常に気付いた警官に追いかけられる。閉店したデパートに逃げ込んだ彼はそこでコートとスニーカーを調達。そしてデパートから脱出すると、近くに停めてあったパトカーからショットガンを盗んで走り去っていく。
 謎の大男は銃砲店から様々な銃器を強奪すると、電話ボックスに入って電話帳をめくり、「サラ・コナー」という名前を探す。そして最初の「サラ・コナー」宅を訪れると、彼女を無言のまま銃殺するのだった。
 ちょうどそのとき、バイト先のレストランにいたサラ・コナー(リンダ・ハミルトン)は同僚からテレビでそのニュースを見せられる。その夜、ボーイフレンドがデートの約束をドタキャンしたため、サラは彼氏が遊びに来るルームメイトを気遣って一人で外出。店で食事をしているとき、テレビで2人目の「サラ・コナー」が殺害されたことを知る。自分に危険が迫っていると感じた彼女は安全な場所を探そうとするが、通りを歩いていると自分を尾行してくる男がいるのに気づき、とっさにディスコ「テクノワール」に入り、警察に連絡して助けを待った。そこに例の大男が侵入してくる。彼はサラを探し当てると、その額に銃の照準を合わせた。恐怖で身動きできないサラ。するとその大男に向かって、サラを尾行してきた怪しい男が突如発砲し、ディスコは一転、大混乱に。激しい銃撃戦が繰り広げられる中、その男はサラを助け出して車で逃走を始めた。おびえるサラを落ち着かせると、彼は自分をリース(マイケル・ビーン)と名乗り、「君は狙われている」「自分は君を助けるために来た」と言う。あの大男は未来から送られてきた殺人マシン「ターミネーター」だったのだ。

レビュー

 今「白馬の王子様」的存在というと、誰になるのだろうか。やはりヨン様ことペ・ヨンジュンか。そういえばこの人は「微笑みの貴公子」などと呼ばれているようだ。私にとって貴公子といえば「音速の貴公子」アイルトン・セナをおいて他にはいない。貴公子の条件はいくつかある。まず、憂い顔が美しいこと。瞳で語ること。守るために戦う男であること。決して裏切らず、愛を貫くこと。そして、悲劇的な最期を迎えること。この条件に照らし合わせてみると、ヨン様はどうも笑いすぎである。私にとっては貴公子というより商家の若旦那といった程度の雰囲気しか感じられない。ベッカムの方はまだ近いが、彼には致命的な欠点がある。王子様は独身でないと!

 映画はそんな「白馬の王子様」に酔える最高のエンターテイメントだが、意外にも古典的かつ普遍的な王子様キャラに出会える機会は少ない。「スター・ウォーズ」のルーク・スカイウォーカーは囚われのお姫様を救い出す典型的な王子様キャラだったが、イケメン度とカッコ良さでハリソン・フォード演じるハン・ソロにお株を奪われてしまった(お姫様の心も奪われた)。昨今はむしろ不良キャラに女性の目が留まる。王子様キャラには不遇の時代なのだ(当時小学生の私もハン・ソロ派だった)。

 しかし、この映画は違う。白馬の王子様が、お姫様を守るために悪と戦うという、古典的ともいえる流れを踏襲しているのだ。大学生のとき「金曜ロードショー」でやっていたのをビデオで録画して見たのだが、完璧にこの映画の中の王子様にハマってしまった。今見直しても、同じである。SFホラーアクションというキワモノっぽい映画にこういう王子様キャラを配置するジェームズ・キャメロンの手腕にはほとほと、感心させられた。

 実は当初、ターミネーターに狙われるサラ・コナーを守る(これが王子様キャラですね)カイル・リースにはアーノルド・シュワルツェネッガーが予定されていたそうである。ターミネーター役は刑事として出演しているランス・ヘンリクセンになっていた。ところが、シュワの英語はあまりにもドイツ語訛りがひどく演技も大根だったため、あまりセリフのないターミネーターに変更されたというのだ。これが当たった。撃たれても撃たれてもまた起きあがって襲撃してくるターミネーターに追われる恐怖感が、体格の一番大きいシュワが演じることによって2倍、3倍にもふくれあがった。セリフが少なく、しかも棒読みなのも感情を持たない機械らしさを感じさせて、とても良い。キャスティングの妙とはこのことであろう。

 一方のカイル・リースを演じることになったのはマイケル・ビーン。シュワに比べると登場シーンから着ているものから(ヨレヨレのコートにホームレスおやじから奪ったパンツ/笑)とにかく貧相で、目つきも怪しいのだが、物語が進んでいくにつれて、どんどんカッコ良くなっていく。撃っても撃っても決して死なないと彼自身一番良くその恐ろしさを分かっているターミネーターからサラを守るためだけに、彼は何も持たずに未来からやってきたのだ。任務に徹するためにカイルはサラに自分の内面を見せることはない。「彼は精神異常なの?」と疑っていたサラだが、ターミネーターによる警察署襲撃をきっかけに、カイルの腕に飛び込んでいくようになる。2人の精神的距離はほとんどセリフでは語られないが、見事な場面展開とカイルがサラに向けるまなざし(そう、これこそ貴公子の「憂い顔」であり「瞳で語る」こと!)で、恋愛感情の高まりがひしひしと感じられるのだ。しかも2回目に観るときには、もう彼を見る目が変わってしまう。「そうか、彼は実物のサラに出会う前からすでに…」などと思うと、どの顔にも切なさが溢れ出ているような気がして、胸がしめつけられるのだ。まだ若いマイケル・ビーンはとってもハンサムだから、本気で恋してしまう女性も少なくないと思う。こういう少女漫画風味なラブ・ストーリーを絡めるというジェームズ・キャメロン監督の手法から、のちに「タイタニック」が生まれることになる。

 低予算に加えて出演者は(当時)B級俳優ばかり。とにかく何もかもがB級なのだがジェームズ・キャメロンの才能はそれを越えた。108分という時間の中に、ムダなシーンは一つもない。迫り来る恐怖、激しいアクション、そして一時の静寂という波が見事に調和して、何度見ても飽きさせない映画に仕上がっている。特にディスコ「テクノワール」での最初の銃撃戦から警察署襲撃に至る展開は見事というほかはない。

 公開当時はR指定だったらしい。そういえば、「金曜ロードショー」で見たとき、シュワルツェネッガーが素っ裸で登場する最初のシーンでは股間に黒いボカシが入っていた。DVDではボカシがなく、まあなくてもはっきりと見えるわけではないのだが、しかし何かブラブラしていたような(笑)。

評点 ★★★★★

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