MUDDY WALKERS 

超高速!参勤交代 

超高速!参勤交代 2014年 日本 119分

監督本木克英
脚本土橋章宏
原作土橋章宏

出演
佐々木蔵之介/深田恭子/伊原剛志
寺脇康文/上地雄輔/知念侑季
柄本時生/六角精児/市川猿之助
石橋蓮司/陣内孝則/西村雅彦

スト−リ−

 現在の福島県いわき市にあった、湯長谷藩は小藩で、飢饉の際に近隣の藩に米を援助したりしたために財政が逼迫していた。藩主の内藤政醇(佐々木蔵之介)は江戸での勤めを終えて参勤交代で帰郷するが、帰ってくると、すでに藩の蓄えがまったくないことを聞かされる。しかしそれもつかの間、江戸屋敷にいるはずの家老、瀬川(近藤公園)が血相を変えて飛び込んでくる。江戸の老中、松平信祝(陣内孝則)からの命令を携えてきたのだ。なんと、戻ったばかりの藩主、内藤政醇に対し、5日以内に再び参勤交代せよ、というのであった。老中の松平は湯長谷藩で見つかった金山に目を付け、無理難題を押し付けて藩を取り潰し、金山を我が物にしようと企んでいたのだ。家臣の間で紛糾するなか、藩主・内藤政醇は通常10日はかかる道中を、5日で踏破する参勤交代に挑もうと決意する。しかし問題は、大名行列だった。家老(西村雅彦)は知恵をひねり、幕府のお目付がいる宿場だけ、日雇いの人員を雇ってやり過ごそうとする。出発前夜、怪しい忍者、雲隠段蔵(伊原剛志)が現れて、道案内として雇ってくれ、と言い出す。段蔵を道案内に、一行は街道より距離の短い山中の中を駆け抜けようとするが…。

レビュー

 参勤交代という、歴史の教科書で習って誰でもたいていは知っている江戸時代の奇妙な慣行を、真っ正面から取り上げた異色の時代劇。タイトルはかなり軽くてバカっぽいが、意外に骨も身もある、楽しい映画だった。

 湯長谷藩という小藩の領主、内藤政醇は一年間の江戸勤務を終えて、自分の藩に戻ってくる。領民に気さくに声をかけ、差し出された大根にそのままかぶりつくような、いい人感満載だが小者、という感じの殿様である。逼迫した藩財政は、江戸城中への献上品が大根の漬け物だったりするところにも現れている。しかし、この大根が思わぬ伏線だったりする。

 そんな小藩の金山を狙う悪者老中が、帰国したばかりの内藤政醇に5日で江戸に参勤交代せよ、という無理難題を押し付ける。期限までに江戸に着かねば「取り潰し」で金山丸儲け、という魂胆である。そうはさせじ、と5日で江戸にたどり着くべく、奮闘するという話である。「え、それだけで映画になるの?」という展開だが、参勤交代というところがミソなのだ。大名行列にふさわしい陣容を整えなければいけない。しかし、お金がない。時間もない。そこで、知恵をひねり出してあれやこれやで参勤交代「らしく」しようとする、一行の珍道中が展開されることになる。

 そこに絡んでくるのが、時代劇にはおなじみの忍者団である。怪しいが何となく頼りになりそうな雲隠段蔵を政醇を道案内にする。忍者には忍者とばかり、悪の老中松平の命を受けた悪の忍者団が襲ってくる。さらに、時代劇にはつきものの「お姫様」もついてくる。正確には、お姫様扱いであって姫ではない。政醇が宿で出会った飯盛女である。はや回りするため馬に乗った藩主政醇と、家老+藩士の一団。二手に分かれた「参勤交代」は本当に5日で江戸に到達できるのか、そもそも、連絡もままならない中、無事に再会することは出来るのか。時代劇+タイムリミットもの、という組み合わせの意外さに、ロードムービー的な展開、さらにはワイヤーアクション入りの立ち回りまで見せてくれる「盛りだくさん」な内容で、最後までぐいぐい引っぱっていく小気味好い映画に仕上がっている。

 繊細で神経質な人、というイメージの佐々木蔵之介だったが、ここでは明るく細かいことは気にしない藩主を好演。家老の西村雅彦はまさにはまり役。役者はどちらかというと地味な顔ぶれだが、なんというか、粒ぞろいの実力でそれぞれの役にとけ込んでいる。その、役者の「自分の役になじんだ感」も心地よかった。

 冒頭の大根や飢饉の際の近隣藩への援助、藩主の閉所恐怖症や藩士一同の熱心な武術訓練など、ちりばめられた伏線を見事に回収。さらに「この土をいつまでも大切にな」の将軍吉宗の言葉に、これが実は福島第一原発事故に対する応援メッセージのこもった作品であることに気付かされた。笑いの中に風刺がある。小粒だがピリリと響く、オススメの一品。

評点 ★★★★

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