MUDDY WALKERS 

プレイス・イン・ザ・ハート PLACE IN THE HEART

プレイス・イン・ザ・ハート 1984年 アメリカ 113分

監督ロバート・ベントン
脚本ロバート・ベントン

出演
サリー・フィールド
リンゼイ・クローズ
エド・ハリス
エイミー・マディガン
ジョン・マルコビッチ
ダニー・グローバー

スト−リ−

 1930年代のテキサス。保安官の夫と二人の子どもを持つ、平凡な主婦エドナ(サリー・フォールド)。ある日の朝、朝食の途中で「酔っぱらった黒人が線路内で暴れている」との通報を受け、夫は現場に呼び出される。しかしその黒人に偶発的に射殺され、帰らぬ人となってしまう。途方にくれるエドナ。彼女は家事と育児以外何も知らない女性だった。葬式のあと、銀行家が家を訪れ、家のローンがまだ残っていることを知らされる。子どもを施設に預けて家を手放すよう勧める銀行家に、エドナは絶対に家族を守ると言い切る。返済のあてもないまま、ある日以前に食事を与えた黒人浮浪者モーゼス(ダニー・クローバー)をひょんなことから雇い入れ、彼のアイデアで綿花の栽培を始めることに。銀行家が「下宿代稼ぎに」と押しつけてきた盲目の下宿人ウィル(ジョン・マルコビッチ)も家族に加わり、不思議な共同生活が始まる・・・。

レビュー

「愛は寛容であり、愛は情け深い。また、ねたむことをしない。愛は高ぶらない、誇らない。不作法をしない、自分の利益を求めない、いらだたない、恨みをいだかない。不義を喜ばないで真理を喜ぶ。そして、すべてを忍び、すべてを信じ、すべてを望み、すべてを耐える。」・・・映画のラストシーン、教会で牧師が読む聖書個所に、主人公エドナの生き方があらわれている。エドナは家事と育児の他にはなにも知らない女性だったが、愛を表すことを知っていた。

 夫の急逝で何の心備えもないまま、人生の岐路に立たされたエドナ。姉のマーガレットは美容師をしているが、自分たち夫婦が生活していくので精一杯。姉の夫ウェインは友人の妻ビオラとの不倫に夢中で頼りになりそうにもない。夫を失い、女性、子ども、黒人、盲人と、いわゆる「社会的弱者」の寄せ集めになってしまったエドナの家が、やがて「心の中の場所」になっていく。バラバラだった“家族”を結びつけたのは、エドナのひたむきさと、誰に対しても媚びたり高ぶったり、見下した態度を取ったりしない公平さ、そして何より愛である。人種差別の激しいアメリカ南部、夫を射殺した黒人の少年は白人のリンチによって処刑されるが、彼女は決してそんなまわりの雰囲気に流されず、流れ者の黒人モーゼスを雇い入れ、綿花栽培という事業のパートナーとしていくのだ。

 印象的だったのは中盤の竜巻のシーン。吹きすさぶ暴風の中を、一人、また一人とそれぞれが“家族”を守ろうと、エドナの家の地下壕に集まってくる。狭く暗い地下壕の中で、彼らはほんとうの家族になったと思う。エドナの家と対照的に描かれる姉夫婦、そして不倫関係にある友人夫婦はこれをきっかけに危機を迎える。阪神大震災のあと「夫が自分を置いて避難した」ことにショックを受けた妻が離婚を申し出るということがたくさんあったという。災害のとき、人間関係もまた暴風にさらされるのだ。

 たくさんのメッセージがこめられたストーリーだと思うが、メインはやはり人種差別であろう。重いテーマだが、映画には重苦しさだけでなく、心温まるシーン、そして「やった!」と喜べるある種のカタルシスもある。エドナという女性とそれを取り巻く人々のドラマを通して、違いを乗り越え心を一つにすることの力強さと素晴らしさを、観る者に能弁に語りかけてくる。ラストシーンはいつも通りの教会の日曜礼拝の一場面だが、そこにはこの映画のテーマが見事に集約されている。

 主演のサリー・フィールドの、大げさすぎない自然な演技は胸に迫るものがあった。脇をかためるダニー・グローバーの温かいキャラクター、頑なだが次第に心を開いていく盲人を演じるジョン・マルコビッチの演技もいい。すばらしいシーンがいくつもあって、観るたびに涙を誘う静かな傑作である。

このように、いつまでも存続するものは、信仰と希望と愛と、この三つである。このうちで最も大いなるものは、愛である。
(Iコリント13:13)

評点 ★★★★★

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