MUDDY WALKERS 

バトル・オブ・シリコンバレー Pirates of Silicon Vally

バトル・オブ・シリコンバレー 1999年 アメリカ 97分

監督マーティン・バーク
脚本マーティン・バーク
原作
ポール・フレイバーガー
マイケル・スウェイン

出演
ノア・ワイリー
アンソニー・マイケル・ホール
ジョーイ・スロトニック
ジョン・ディマジオ
ジョシュ・ホプキンス
ジェマ・ザンプローニャ
ジェフリー・ノードリング
アラン・ロイヤル

スト−リ−

 アップルの創業者、スティーブ・ジョブズ(ノア・ワイリー)はオーソン・ウェルズの「1984年」をモチーフにしたCMを撮影していた。1984年1月に発売するアップルのパーソナル・コンピュータ「マッキントッシュ」をPRするためのものである。
それに先立つ1970年代。スティーブ・ジョブズと親友のスティーブ・ウォズアニック(ジョーイ・スロトニック)は、ブルー・ボックスという装置を使うと無料で長距離電話をっけられるということを知り、この装置を作って学生に売りさばいていた。やがてこの不正な商売から足を洗うと、ジョブズは一時期ヒッピー文化に傾倒する。インドなどを放浪していたジョブズがカリフォルニアに戻ると、ウォズアニックと二人で、これまでなかった個人用のコンピュータを開発し、売り込みを始め、「巨人」IBMとの戦いに挑み始めた。
 同じ頃、ハーバード大学の学生寮にいたビル・ゲイツもまた、友人スティーブ・パルマー(ジョン・ディマジオ)、ポール・アレン(ジョシュ・ホプキンス)とともにコンピュータのプログラミングに熱中し、アメリカ西部のアルパカーキに移って「マイクロソフト社」を設立。パソコン市場に進出しようとしていたIBMに、DOSというOSの売り込みをかけ、一か八かの大勝負に出るのだった。

レビュー

 アップル創業者のスティーブ・ジョブズと、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ。パソコンの歴史を切り開いてきた二人のパイオニアの若き青春の日々と、新しい個人向けコンピュータ開発の歴史をドラマ仕立てで描く。原題は「Pirates of Silicon Vally(シリコンバレーの海賊たち)」で、本編を見れば、この原題の方がよりふさわしいと気付く。ジョブズとゲイツ、彼らは互いに戦ったというよりも、むしろ、すでに開発されたテクノロジーを、よりふさわしく使えるように奪って、アイデアを盛り込んで世に出した、ということが分かるからだ。

 本編は、ジョブズの親友であり、のちに彼から離れていったスディーブ・ウォズアニックを語り手に、学生時代のジョブズとゲイツが、個人向けコンピュータという新しいジャンルを切り開くために、どのように考え、打ち込み、ときには奪い、そして形にして売り込んでいったか、ということが、彼らの独特のパーソナリティ、人との関わり方とともに描かれてゆく。原題の「パイレーツ」はジョブズがアップルの社員に語った言葉「海軍に入るより、海賊であれ」に由来しているかと思うが、彼が「海軍」と表現したのは、当時のコンピュータ市場を席巻していた巨大企業IBMで、そのIBMこそがジョブズの「敵」であった。ジョブズは、アップルの製品は芸術でなければならないという信念を持ち、それを体現するアイデアや技術を実現できない社員を激しく罵倒するなど、組織の中で独裁者として振る舞う。
 遅れてきたビル・ゲイツは、パソコン市場で先をゆくジョブズに追いつき、追い越すために、彼の敵であったIBMを取り込む作戦に出る。それは、パルマーが「切り取って額に入れ、美術館に飾っておきたい」と言うほどの、歴史的瞬間であった。私はそれぞれが、独自に今のMacやウインドウズにつながる技術を開発したのだと思っていたが、実はそうではなく、彼らは文字通り、まさに「海賊」だったのだ。そこにとにかくびっくり、の一作であった。
 この二人の「巨人」の、良く言えばハングリー精神にあふれた、悪くいえば他人のものを奪って大成功をおさめた形のサクセスストーリー、そしてその二人の間の闘争、確執とその収束点とを、フィクションをまじえながら包み隠さず描き出しているところが、とても面白かった。IBMをはじめゼロックス、ペプシ、ヒューレット・パッカードなどの社名ももちろん実名で登場。コンピュータ用語については詳しくないとよく分からない部分もあるが、それでも彼らの驚きのサクセスストーリーや毀誉褒貶、そして開発にまつわる話など、最後まで飽きさせず楽しめる内容となっている。

 ジョブズ、ゲイツはどちらも、誰もが一度はその容貌を観たことがあるだろう。顔のよく似た俳優が演じていて、そのヒッピーであったり、オタクっぽい言動やファッションまで、よく雰囲気が捉えられてるところも面白い。この手のお話しは、例えば日本ではNHKの「プロジェクトX」のような感動的なドラマに仕立て上げられがちだが、この話にはそんな所はみじんもない。そうではなく「人としてどうよ?」的な図々しさ、貪欲さを隠さず、地道な努力や見返りなく続けられてきた研究が実を結ぶというのとは真逆のやり方で成功していくところがユニークである。そうしたこと全体を通して、この革新的な発明の舞台裏を知ることができる、オススメの一本といえよう。

評点 ★★★★★  

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