MUDDY WALKERS 

遠い空の向こうに October Sky

遠い空の向こうに 1999年 アメリカ 108分

監督ジョー・ジョンストン
脚本ルイス・コリック

出演
ジェイク・ギレンホール
クリス・クーパー
ローラ・ダーン
クリス・オーウェン
ウィリアム・リー・スコット

スト−リ−

 炭鉱の町コールウッドの高校生、ホーマー・ヒッカム(ジェイク・ギレンホール)はアメフトで奨学金をもらって大学に進学しようとするが、テストに落ちてその夢もかなわぬものとなっていた。兄はアメフトのチームリーダーで女の子にももてるし、大学行きも保障されているのに比べて、まるでいい所のないホーマー。ソ連が世界に先駆けて打ち上げた人工衛星「スプートニク号」が夜空を横切っていくのを見て感動を受けたホーマーは、ロイ・リー、オデル、クウェンティンとともに「ロケットボーイズ」を結成、ロケット打ち上げ実験に情熱を傾けてゆく。そんな彼らを、担任のライリー先生(ローラ・ダーン)は後押しした。そして全米科学コンテストへの出場をすすめる。もし優勝すれば、貧しく将来は炭鉱夫になるしか生きていく道がない彼らも奨学金をもらって大学に行くことができるのだ。一方ホーマーの父(クリス・クーパー)は面白くない。ホーマーには自分の後を継いで炭鉱に入ることを願っており、父と子は激しく対立するのだった…。

レビュー

 「スプートニク・ショック」という言葉がある。ソ連が世界初の人工衛星を打ち上げたことで「自分たちこそ科学技術の先端を行っているんだ」と鼻高々だったアメリカ人が受けたショックのことである。その結果、NASAが設立されたりアポロ計画が立ち上がったりして、映画のネタもたくさん提供されてゆくことになった。実話に基づいたこの映画は、その元祖とも言えるだろう。

 舞台は50年代のアメリカ。青春映画である。しかしそういったキーワードにありがちなキラキラした時代の輝きは、主人公ホーマーたちが暮らす町コールウッドにはまるで届いていない。ここは炭鉱の町で、今や時代の流れに押しつぶされようとしている。そんな中でホーマーは、ソ連の人工衛星打ち上げ成功のニュースと出会う。そして夜空を横切るように移動していく衛星を、その目で見て感動する。そして彼はそこに自分の生きる道を見つけだすのだ。つまり、自分でロケットを手作りして打ち上げようというのである。それだけならありがちなサクセスストーリーなのだが、映画ではホーマーをはじめとする「ロケット・ボーイズ」に対する冷ややかな目も逃さずに描いている。まず、彼らはみな「もてない君」であり「オタク」「変人」「嫌われ者」である。ロイ・リーは父親が炭鉱で事故死。継父はアル中の暴力的な男である。オデルは片足が悪くびっこをひいている。そしてクウェンティン。彼の家を訪ねたホーマーに「家の事は誰にも言わないで」と言うほど貧しい。夢の持てない炭鉱町の中でも本当に夢を持つことが難しい環境にいるのだ。そんな彼らが始めたロケット打ち上げという「お遊び」を、高校の同級生も町の人たちも冷ややかな視線を送っていたが、担任のライリー先生は彼らこそ町の希望になる、と惜しみない応援を送っていた。やがて彼らの夢に同調して、町の中にも理解者が現れてくる。実話ということで展開は淡々としているが、必要なことがきっちりと描かれているので、この周囲の人たちの変化に、主人公ともども感動してしまう。

 夢を追いかけることとともに、もう一つの大きなテーマとなっているのは父子の葛藤である。ホーマーの父は炭鉱夫のリーダー的存在で、この仕事に大きな誇りを持っている。だからホーマーが自分の仕事に興味を持たず、ロケットを飛ばすなどというバカげたお遊び(実は高度な数学・化学・物理学が必要な科学実験なのだが)にうつつを抜かすのが気に入らない。影ではこっそり手助けしたりもするのだが、ロケット打ち上げの様子は絶対に見に行こうとしないのだ。本当にイヤな頑固オヤジなのだが、ホーマーたちの夢に駆ける情熱に感動する一方で、この父の確固たる信念にも感動してしまう。科学コンテストから帰郷したホーマーが父に対してかけた言葉に説得力があるのも、この父の生き様とクリス・クーパーの熱演があってこそだ。

 最後はそうなると分かっていても、泣いてしまう。監督に「そんなの、ずるいよ〜」と言いたくなってしまうほどである。しかもそのあと、実話であることを示すフィルムとロケットボーイズのその後でまた号泣。大げさすぎない演出がかえって涙をさそうのだ。シンプルだが力強い、実話系青春映画の傑作といえよう。

評点 ★★★★★

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