MUDDY WALKERS 

男たちの大和 YAMATO

男たちの大和 2005年 日本 145分

監督佐藤純彌
脚本佐藤純彌
原作辺見じゅん

出演
反町隆史/中村獅童/松山ケンイチ
鈴木京香/仲代達矢 ほか

スト−リ−

 2005年4月、真貴子(鈴木京香)は鹿児島県枕崎の漁師・神尾(仲代達矢)に60年前、戦艦大和が沈んだ場所まで舟を出してほしいと懇願した。真貴子を乗せた小型漁船を走らせているうちに神尾の脳裏にも60年前の出来ごとがよみがえってきた。

レビュー

 この映画を観る前、ストーリーの紹介を読んでピンときたのは、要するにこれは日本版「タイタニック」だなということだった。巨大な船が、なすすべもな く沈んでゆく。そのことに気づいてしまうと、映画史上に残る「タイタニック」を超えられるとはとても思えず、「どんなもんか、まあ観てやろう」ぐらいの 気持ちで映画館に出かけたのだった。

 映画は、大和の沈む海に向かう船の上での老人の回想という形でストーリーが展開される。これもまた、完全に「タイタニック」のパクリである。映画として の工夫や新鮮味が感じられないのは残念だが、しかしこの物語には現代との接点が必要で、このように始められなければならなかったと思う。それはいいのだ が、必要以上にだらだらと長すぎて、大和が登場するまでに飽きてくる。旅先で事件が起こる火曜サスペンス劇場風の現代パートからやっと本筋に入ったかと思 うと「その時歴史が動いた」式のナレーションで時代背景や当時の戦況が説明され、あまりに統一感のない作りに翻弄されて、なかなかその世界に入っていけ ず。ヘタをすると最後まで傍観者で終わってしまう。

 ここ20年来日本では戦争映画はあまり作られず、あっても「火垂るの墓」や「戦場のメリーク リスマス」など、視線を戦場からずらしたものばかり。前者は戦災映画、後者は変態映画。それぞれの映画に価値はあるが、激烈ともいえる時代を歩みながら、 まだ語るべき物語が十分に語られていないのではないかという気がする。多くの戦場の、兵士たちの物語が語られないままに埋もれている。その意味で、一兵卒の目から戦艦大和の最期を描いたこの作品を作ったこと自体は評価したいのだが、あまりにもいろんなドラマを詰め込みすぎて、肝心の大和そのものの悲劇性を描ききれなかった気がする。

 思えば大和の最期はまさに「滅びの美学」で、映画としてはタイタニック的でありながら、実は「ラスト・サムライ」と同じ構図を持っている。近代装備の官軍に騎馬で突撃していくサムライこそ、航空戦という戦術的革命の前に無用の長物となった大和なのだ。「ラスト・サムライ」では勝元の最期を目の当たりにし て土下座する兵隊の姿が挿入されて、泣ける場面で爆笑してしまったが、そうでもしないと日本人以外に、あの突撃は日本人にとって非常に価値のあるものだと 分からせることが出来なかったのであろう。滅び行く者に対する畏敬の念は、土下座ではなく語り継ぐことによって表されるものである。誰か、ジェームズ・ キャメロンの映画「タイタニック」は20世紀という時代そのものを沈めたと言った人があったが、大和によって沈められたのは戦場における戦いの美学ではなかったかと思う。そんな視点から、女たちのメソメソしたドラマは削ってもっと骨太な戦争ドラマに徹して欲しかった。

評点 ★★

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