MUDDY WALKERS 

ルパン三世(1978)ルパンVS複製人間 

ルパン三世 2014年 日本 133分

監督吉川惣司
脚本大和屋竺/吉川惣司
原作モンキー・パンチ

出演
山田康雄/小林清志/井上真樹夫
増山江威子/納谷悟朗/西村晃 ほか

スト−リ−

 ルパン三世は峰不二子の依頼で、永遠の命が与えられるという言い伝えがある「賢者の石」をピラミッドから盗み出す。パリにいる不二子にそのお宝を渡すが、不二子は冷たい態度でその石を持ち去ってしまう。実は不二子はある人物に依頼されて、不老不死に関するお宝を集めていたのだった。それを見越してルパンは不二子に偽物を渡していたため、ルパンと次元、五ェ門は何者かに襲撃され、アジトも破壊されてしまう。度重なる不二子の裏切りに業を煮やした次元と五ェ門はルパンから離れていき、ルパンは不二子の残したメモ書きの場所、カリブ海のとある島へ乗り込むことに。しかし捕らえられ檻に放り込まれてしまう。そこはナポレオンやヒトラーなど歴史上の人物が生きている奇妙な場所だった。島の主は不二子に不老不死のお宝の収集を依頼した人物で世界の三分の一の富を所有する大富豪、ハワード・ロックウッド。その正体はマモーと名乗る超人的な能力を持った人物だった。彼は自身を「永遠の命」を持つ「神」だと言うが・・・。

レビュー

 ルパンが絞首刑になる、という衝撃的な場面からのオープニング。しかしルパンの死刑を信じられない銭形警部が後を追って行き、まだルパンが生きていて、次のお宝を狙っていることを知る。  死刑台への階段を登ることからはじまる、この印象的なオープニング。このときすぐには分からないが、死んだはずのルパンが生きている、というのは銭形の夢オチでもルパンのトリックでもない。ルパンが不二子の依頼で追いかけ、やがて巻き込まれることになる「永遠の命の科学的解答」である。それが本編でテーマになっている「クローン技術」。ルパンシリーズの中でも、また当時のSFアニメの中でも先進的で特異なテーマを掲げた異色作といえるだろう。

 翌年の「カリオストロの城」が傑作の誉れを得たために後ろに隠れがちであるが、本作は「ルパン三世」シリーズの映画化作品第一作である。「ルパン三世」はもともとモンキー・パンチ原作の青年誌の連載漫画で、1974年に始まったテレビシリーズ第一作は、ターゲットの年齢層を高めにしたハードボイルド路線を走っためあまり受けがよくなく、短期間で終了した。本作公開時には、第一作より下の年齢層、早く言えば「子ども向き」のギャグ路線に転じたシリーズ第二作が放映中で、この作風に親しんできた人がおそらく一番多いと思うが、本作はその延長ではなく、大人向けハードボイルド路線を継承したものとなっている。

 本作を見てよくわかるのは、「ルパン三世」がまさに日本版の「007シリーズ」だということである。ルパンは泥棒だが、お宝の背後にある巨悪のナゾ、そして美女に突き動かされて行動する。きっかけは不二子の「ピラミッドの中にある賢者の石が欲しい」というお願い。ルパンは次元、五ェ門とともに見事に盗みおおせるが、「いつものように」不二子にしれっと裏切られ、まんまとお宝を持って行かれてしまう。実は不二子の背後には巨万の富を持つ「マモー」がおり、不老不死にまつわるお宝を集めまくっていたのだ。不二子は「永遠の若さ」が得られるという言葉に誘われて、ルパンたちを手駒に使い彼の要求に応じようとしていた。ルパンはそんな不二子の手玉に取られていると見せかけてお宝を渡さなかったために、謎の組織に執拗に狙われるようになる。

 と、導入のお宝を狙う話から一気に敵の本拠地に乗り込んでのアクションになだれ込んでいく展開。ルパンは巨万の冨を持つマモーこと「ハワード・ロックウッド(恐らくはハワード・ヒューズがモデル)」から不二子を取り戻すために闘い、ルパンと別行動を取ることになった次元と五ェ門はアメリカ海軍の空母に連れて来られて大統領特別補佐官に会うことに。「いつもの」泥棒の話が一気に世界規模の闘いになっていく事態にぐいぐい引き込まれていく。  マモーは肉体はクローン技術でコピーされ、それを別のところにある「精神」が遠隔操作するような、そんな存在であるのだが、それが彼の「永遠の命」というものである。つまり肉体は滅びるが精神は肉体とは別にあって、永遠に続く「はず」だという二元論的人間理解がベースにあるのだが、そんなマモーがルパンに夢について質問し、ルパンが「夢は見ない」と答えるところが実に意味深である。そのルパンは、マモーを操る「精神」の根拠地に「俺は、夢を盗まれたからな」と、盗まれたものを取り戻すために乗り込んでいくのだから。

 このように文章にまとめると、かなりシュールで難解な話に思えるが、実にそれが分かりやすく、スタイリッシュに、そして当時の「最先端」をも意識して描かれている。マモーの島の、古今東西の絵画が仕込まれたアートな空間でのルパンの逃走劇など、今見てもびっくりするほどシャープな感覚! 当時は東西冷戦のまっただ中、そして一方でSFブームもあり、映画の題材、スケールがぐっと広がっていった時代である。そんな時代を取り込んで、咀嚼して、そして楽しみ尽くせるエンターテイメントに仕上げる監督をはじめとするスタッフの技量に驚かされる。それは現在の日本映画界に最も不足しているものの一つだが、1970年代から80年代のこの当時、いつまでも古い体質を引きずる製作陣が、こうしたより現代的な作劇に「ついていこうとしなかった」ことが、今にまで響いているようにさえ思われた。

 本作は、巨大な脳が宇宙を行くという恐るべき荘厳さを併せ持ったシュールな映像で終わる。しかしシュールの極みはそこで終わらない。ここからの、「三波春夫」がある意味最大の衝撃ではないか。エンディングテーマは「お〜れ〜はル〜パン〜だ〜ぞ〜」ではじまる「ルパン音頭」で、最後に見ている私たちも一緒に宇宙の彼方へと吹き飛ばされるのだ。このエンディングテーマを入れる一件で監督とプロデューサーで一悶着あったようだが、さもありなん。しかし今となってはそれさえも、愛すべき70年代アニメ隆盛期の輝きといえないだろうか。

評点 ★★★★★

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