レビュー
太平洋戦争時の1943年に行われた「キスカ島撤退作戦」を題材にした戦争映画で、特撮を「ウルトラマン」シリーズで有名な円谷英二が担当した。私が生まれる前年に公開された映画だが、まだ白黒映画だったことに時代を感じる。もう一つ、悲壮で悲惨な戦いが繰り広げられた太平洋戦争の中で、このように、米軍の目を欺いて見事前線からの撤退を果たした、ある意味胸のすくようなエピソードを取り上げ、映画化したということも、まだ戦後20年、高度経済成長を迎えた時期ならではと言うことができるだろう。
アッツ島が玉砕し、敗戦の色が徐々に濃くなってきた1943年。大本営は、アッツ島と同じアリューシャン列島に位置するキスカ島に残る5000人の守備隊を撤退させることを決意する。しかし、制空権、制海権をアメリカに掌握されており、キスカ島は事実上孤立無援の状態にあった。艦隊司令の川島中将(山村聡)は大村少将(三船敏郎)を作戦司令に任命するが、大村は海軍兵学校をドンケツで卒業したという人物だった。大村は、キスカ島周辺の海域がしばしば濃霧に包まれることに着目。霧に身を隠して撤収部隊を送り込むという前代未聞の作戦を立案する。
特撮を円谷英二が担当したというだけあり、濃霧の中を進む艦隊など、ミニチュアとは思えない迫真の映像が楽しめる。また、戦闘シーンは多くはないが、やはり戦争経験者がまだ現役である時代であっただけに、非常にリアルで昨今の戦争映画にも引けを取らない迫力があった。ある意味、勝利なき戦場の地味な作戦だが、それを作品として見応えのある一本にまとめあげた手腕は見事。また、見終わった後にしてやったり、という気分が味わえるという、ユニークな一作でもある。DVDには、実際にキスカ島守備隊で任務についており撤退作戦に関わった近藤敏直氏のインタビューも収録されており、貴重な戦争体験の証言を聞くことができる。
評点 ★★★★ |