MUDDY WALKERS 

かもめ食堂 

かもめ食堂 2005年 日本・フィンランド 103分

監督萩上直子
脚本萩上直子
原作群ようこ「かもめ食堂」

出演
小林聡美/片桐はいり/もたいまさこ
マルック・ペルトラ

スト−リ−

 フィンランドの首都ヘルシンキで日本食を出す「かもめ食堂」をはじえたサチエ。しかし開店以来まだ一人も客が入って来なかった。最初に入ってきたのは、日本かぶれのフィンランド青年。ガッチャマンの歌を教えてくれと言われるが、サチエは答えられず。ずっと歌のことが頭から離れずにいた。するとたまたま書店で出会った日本人女性ミドリ(片桐はいり)が歌詞を全部覚えていて、教えてくれる。特に行くあてもないミドリは、サチエのかもめ食堂に居着いて一緒に働くようになる。そこへもう一人、「荷物が届かない」と困った様子の日本人のおばさん(もたいまさこ)が加わって…。

レビュー

 フィンランドの首都、ヘルシンキで、日本人女性が一人で始めた「かもめ食堂」。外国人受けする日本料理店ではなく、あくまで「食堂」らしい庶民的なメニューにこだわる。メインは、おにぎりなのだ。だが、そんなお店のポリシーは伝わることなく、開店から何日たっても、お客は一人も来ないまま。そんなある日、一人の青年が店に入ってくる。日本かぶれのフィンランド青年は、ガッチャマンの歌を教えてくれという。その場では思い出すことができなかったが、ある日たまたま書店で出会った日本人女性が、歌詞を覚えていた。何かワケありっぽい彼女、いつのまにか客の来ない「かもめ食堂」に居着いて一緒に働くことになるが…。
 群ようこの原作は読んでいないが、なんだかとてもいい雰囲気でいやされる映画であった。群ようこは好きではない。私をよく知る元同僚の鳥五郎さんという人に私が群ようこと「めっちゃ似ている」と言われてむっとして以来、読まなくなってしまった。私はあんなにぐうたらな女ではないと思っていたからである。まあ、確かに似ているというのは当たっているのだが。

 さて、かもめ食堂である。女が一人、異国の地で日本の「ソウルフード」おにぎりを出す店を始める。そこには何か相当な決断、人生の転機というものがあったに違いないのだが、この映画ではそこを語らない。主人公サチエは、人に聞かれても冗談めかした口調で答えをはぐらかしてしまう。
 そこに転がりこんでくる日本人女性ミドリ。これもまた何かワケありな様子である。日本を出ないといけないと決意して、地図でえいっと指した所に来たのだという。そこまでして日本を出なければならなかった理由は何か。主人公は聞こうとしないし、語らない。肝心なところで心を閉ざしている女性。毎日のように通りがかるおばさん三人組が店をのぞいていくが、彼女たちもなかなかこの清潔で感じの良さそうな店に足を踏み入れようとしない。心を閉ざした店主の店には、なかなか人が寄りつかないということなのか。

 「シナモンロールを作ろう」と突然思いつき、その匂いにつられてついにおばさん三人組が店に入ってくるが、だからといって店が急に繁盛するわけでもない。そういう結果を求めてしゃかりきになる生き方を、捨てているのだ。胸に秘めたものを語ろうとしないサチエだが、過去や将来にこだわらず、ただ今を淡々と受け入れて生きる彼女の存在感に引きつけられて、同じような人たちが集まってくるようになる。…ということなんだろうなと思ったのだが、そういう主張があるわけではない。とにかく淡々と、かもめ食堂の日常が描かれている「だけ」の映画なのだ。日常の延長として小さな事件がいくつか起こるが、それによって何かが劇的に変化するわけではない。ただ、秘められている思いが、いくつかの出来事を通して断片的にあらわれる。そんな感じである。

 友人の5歳の子どもがついてきて、彼女も一緒に見たのだが、5歳児なりに楽しんでいたようだ。終盤にさしかかったあたりで淡々とした展開にやや退屈してきたら、ちょうど子どもももぞもぞし始めた。私の集中力は5歳児並みなのか。しかし映画が終わりとわかると「えー、もう終わりなの?」と思ってしまった。物足りないというより、ずーっとかもめ食堂を見ていたいのである。そういう意味で、とても不思議な映画であった。「この映画を観ると、癒される」という前評判を聞いていたが、それは本当だった。見終わったあと、号泣とかではないけれど、心の中が温かくなってすごく感動していたのだ。しかし振り返ってみると、何にどう感動したのか、よくわからないし説明もできない。ただ一ついえるのは、かもめ食堂、それは魂に休みが与えられる場所になったということだったのではないだろうか。そこを訪れる人みんなが、それを求めていたのである。

評点 ★★★★

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