MUDDY WALKERS 

フィールド・オブ・ドリームス FIELD OF DREAMS 

フィールド・オブ・ドリームス 1989年 アメリカ 106分

監督フィル・アルデン・ロビンソン
脚本フィル・アルデン・ロビンソン
原作W.P.キンセラ
「シューレス・ジョー」

出演
ケヴィン・コスナー
エイミー・マディガン
ジェイムス・アール・ジョーンズ
レイ・リオッタ
バート・ランカスター
ティモシー・バスフィールド

スト−リ−

 レイ・キンセラ(ケヴィン・コスナー)は37歳。父親に対する反発から家を出て遠く離れたカリフォルニア大学バークレー校に進学。学生運動にあけくれ、そこで出会ったアニー(エイミー・マディガン)と結婚。アイオワに農場を購入して農業を始める。以来平凡な人生を送っていたが、ある日トウモロコシ畑で奇妙な声を聞く。「それを作れば、彼はやってくる」…。それとは何か?彼とはだれか?はっきりとは分からないまま、レイは「そんな気がする」ということで、妻を説得してトウモロコシ畑の一部を潰し、ナイター施設のある野球場を造った。しかし、誰もそこにはやって来ないまま冬がきて、また夏になった。望みを失いかけていたある日、一人娘のカリンが、外に誰かが来ているのに気付く。レイが外に出てみると、そこには八百長疑惑で球界から永久追放された伝説の名選手、シューレス・ジョー・ジャクソン(レイ・リオッタ)が…。

レビュー

 この映画は、原作本を先に読んでいて、その話が好きだったので観に行った。驚いた。原作も面白いが、涙を流すようなことはなかった。しかし映画は違った。1回目に観たときはストーリーを追うのに夢中になっていて、最後に思わず涙ぐむぐらいだったが、2回目に観たときはハンカチが絞れるほど泣いてしまった。映画の中で“声”が語る「心の痛み」を、私も持っていたからかもしれない。

 冒頭に語られる主人公レイの生い立ちは、単に彼が農夫となってトウモロコシ畑に今いることの説明と思って聞き流してしまうが、これが後になってきいてくる。ファンタジーRPGのオープニングに似ているかもしれない。ラストに対決すべきボスが、プロローグにそれとなく存在感を匂わせているのだ。レイは父親が人生に疲れ切り、何も冒険をしないまま死んでいった。そんな父親への反発心が、レイを冒険へと駆り立ててゆく。といっても剣をとってドラゴンと戦うことが冒険なのではない。彼にとって、それは生活基盤であるトウモロコシ畑の一角をつぶして、野球場を造ることだった。それはなぜか。レイ本人にも分からない。しかしナゾの声が語るとおり「彼」はやってきた。それは父親が敬愛してやまなかった往年の名選手、“シューレス・ジョー”である。よかったね。めでたし、めでたし。「で?」と思う間もなく、次の声が聞こえてくる。「彼の心の痛みを取り除け」。このあたりから、もうまるで展開が読めなくなってくる。

 レイはナゾの声に動かされ、手がかりを探して旅に出る。レイの作った野球場には、人々の失われた夢を実現させる不思議な力が宿っているのだ。その象徴となっているのが“シューレス”ジョー・ジャクソンだ。メジャーの歴史に疎い日本人にはピンとこない名前だが、あのベーブ・ルースが手本にしたという伝説的な強打者である。しかも人気を誇りながら、八百長疑惑で他の7人のチームメイトとともに、球界から永久追放されたあとは二度と人前でプレーすることはなかったという。シューレス・ジョーのプレーする姿をもう一度、というのはいわば「アメリカの夢」なのだ。

 これと対照的に置かれるのが「レイ本人の夢」だろう。レイが声に従って呼び集めた人物、隠遁生活を送る作家テレンス・マン、そして打席に立つことなく引退して町医者になった“ムーンライト”グラハムが、それぞれの夢を叶えていく。それは野球にまつわる個人的な夢だ。ひとつひとつがユニークだが、それは、その人の人生のほんの小さなエピソードにすぎない。しかし最後になってレイ自身が気付く自分の夢には、もう一つの「アメリカの夢」が隠されている。

 同年に公開された「ニュー・シネマ・パラダイス」と双璧をなす映画だが、「ニュー・シネマ・パラダイス」が女性に愛されるのに対して、「フィールド・オブ・ドリームズ」は男性に受ける映画といわれる。非常に珍しいことに、女性よりも男性の方が泣ける映画なのだ。それは、単にテーマが野球ということにとどまらない。例えばレイの妻、アニー。レイがトウモロコシ畑をつぶして球場を造ると言い出すと、彼女は家計を逼迫する結果になることは分かっていただろうけれども、「あなたがそうしたいと思うのだったら」とそれを励まし、手伝いさえする。現実には、そんな妻の態度はほとんど、あり得ない。男が夢を叶えようとして妻との闘争に明け暮れるのが世の常だ。その意味で、この妻アニー自体がすでに男にとってのファンタジーかもしれない。でも私は女性だけれども、この妻をすごく素敵だと思う。レイの夢を自分も共有することを選び、レイと感動をともにするのだ。

 主人公レイを演じるケヴィン・コスナーをはじめ、活動的だが夫とよいパートナーシップを築いている妻アニーのエイミー・マディガン、人嫌いの作家テレンス・マンのジェームズ・アール・ジョーンズなど、それぞれの演技が自然でとてもよい。老いた町医者を演じるバート・ランカスターの存在感、シンボリックなキャラクター、シューレス・ジョーのレイ・リオッタのこの世の人でありそうでなさそうな、不思議な雰囲気もお見事。そして何より、実際に舞台となるアイオワの農場に造られたあの野球場がすばらしい。すべての手の技が完璧に整えられて、奇跡のような感動を生み出した。本当に、夢のような一本である。

評点 ★★★★★

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