■ブラック・レイン　BLACK RAIN　

1989年　アメリカ　125分 監督■リドリー・スコット 脚本■ クレイグ・ボロティン ウォーレン・ルイス 出演■ マイケル・ダグラス アンディ・ガルシア 高倉健 ケイト・キャプショー 松田優作 神山繁 若山富三郎

スト−リ−

　ニューヨーク市警の刑事ニック・コンクリン（マイケル・ダグラス）は麻薬の売人から金を巻き上げたことで審問にかけられようとしていた。そんなある日、昼食をとっていたレストランで、日本の暴力団幹部と思われる人物が日本人の男に何かを奪われ殺害される現場を目撃。犯人を追跡して相棒のチャーリー（アンディ・ガルシア）とともに取り押さえる。しかし日本大使館からの要請で、殺人犯の佐藤（松田優作）を日本に送還しなければならなくなった。自分のあげたホシなのにとニックは悔しがるが、チャーリーと２人、佐藤を大阪まで送還する任務につく。そして大阪空港で警官に佐藤を引き渡したが、実はその警官は偽物だった。大阪府警の対応に業を煮やしたニックは、警部補の松本（高倉健）を巻き込んで、姿をくらました佐藤を捉えようとするが…。

レビュー

　大阪を舞台にしたハリウッド映画、しかも監督はあの「エイリアン」「ブレードランナー」のリドリー・スコットとあれば見ておかないわけにはいかないと思い、内容にはあまり期待しないまま見た。

　ニューヨーク市警の刑事ニックとチャーリーが逮捕した佐藤という男はドル紙幣の偽札づくりと暴力団抗争に絡んでおり、日本大使館から、日本へ送還するよう通達がくる。自分の挙げたホシを横取りされるようで面白くないニックだがチャーリーになだめられ、２人で佐藤を連れて飛行機に。大阪空港で機内にやってきた警官に佐藤を引き渡すだけの任務だったが、現れたのはニセモノだった。まんまと佐藤らの罠にはめられたニックは怒りがおさまらず、監視役の警部補松本を引き込んで、逃げた佐藤をつかまえようとする、という話。いわゆる異国体験ものとバディもの（主人公が相棒を得て活躍するタイプの作品）をかけあわせたようなストーリーでそれほど目新しさはないのだが、何と言ってもその舞台が大阪である。ニックがクラブ・ミヤコで働くアメリカ人ジョイスに、佐藤のことを聞き出すシーンがあるが、佐藤が暴力団の大親分菅井と対立していることを「誰が知っているんだ」とニックが聞き、ジョイスはこう答える。「1100万人が」。この答えになんだかしびれてしまった。単に大阪が舞台なのではなく、大阪の街こそが主役という気がしたのだ。ヤクザの抗争を市民全員が知っているなんて「それはないやろ」と思いはするが、一方で、大阪ならそれもあり得ると思わせる何かがある。だから、リドリー・スコットはあえて東京ではなく大阪を舞台に選んだのだろう。

　私は関西に住んでいるから、大阪の街を映像で見るのは日常茶飯事だし、道頓堀のグリコの看板なんて別に珍しくも何ともないが、映画でこの場面が出てきたとき、なんだかものすごく感動してしまった。そこにマイケル・ダグラスとアンディ・ガルシアがいて、それは「リドリー・スコットの大阪」なのだ。美しく、混沌としており、猥雑で、薄汚く、そうしたものがその下でうごめく見えない人間関係のドロドロとしたものを覆い隠している…。そんな街として、大阪の風景が切り取られ、物語の舞台として再構築されているのだ。ただタクシーが並んでいるだけの風景でさえ美しく、フィルムの力というものを感じずにはいられないのだ。ガッツ石松や島木譲二、安岡力也などのお笑い俳優が並んでいても、画面が安っぽくならないのは本当にすごいとしかいいようがない。

　キャスティングも誰が考えたのか知らないが、ものすごくハマっていると思う。マイケル・ダグラスと反発しながら信頼関係を築いていく警部補に高倉健、ニューヨークのレストランで白昼ヤクザの男を斬りつける大胆不敵な男に松田優作、マイケル・ダグラスを邪魔者扱いする大阪府警の部長に神山繁、暴力団の大親分に若山富三郎で、この作品が遺作となった松田優作のキレた演技が絶賛されるが、他の日本人キャストも一様にすばらしく、ここでも監督の力量を伺い知ることができる。アンディ・ガルシアと一緒にレイ・チャールズを歌う高倉健なんて想像もできなかったし、若山富三郎演じる暴力団の大親分なんて本物以上に恐すぎる。

　単純に、アメリカ人刑事がいい奴で日本人警部がダメな奴になっていないところもいい。冒頭で、ニックが麻薬の売人から金を取っていたという話が、ラストに生かされていて、ニックと松本、別れ際のさりげない和解が心を打った。タイトルにあるブラック・レインについては、暴力団の大親分菅山を演じる若山富三郎の口から語られるが、物語のキーをにぎるような事柄ではない。だいたい、黒い雨が降ったのは大阪ではなく広島なのに、大阪が主役のこの映画がなぜ「ブラック・レイン」？　…と、そこのところはあまり深くつっこまないでおこう。

　阪急梅田店は改築されるそうだが、そうすると、あの美しいステンドグラスのコンコースももう見られなくなってしまうのだろうか。マイケル・ダグラスとアンディ・ガルシアが松本と苦い再会を果たしたあの場所が。そう思うと、ちょっと残念である。

評点　★★★★

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