Mobilesuit Gundam Magnificient Theaters
An another tale of Z ATZ資料集(27)



ナ級が本来の性能を発揮できれば、大型戦艦とも互角に戦うことができる。これがこの艦の設計者が意図した戦闘方法だとガディは乗員に言った。だから操縦桿があり、統合戦闘システムが装備されている。サラミスでは及びもつかない。
「エイジャックスは本艦と良く似た戦闘艦だが、この条件なら勝てないまでも、負けないことはできると思っていた。」
「彼らはどうなるんでしょうか。」
 置き去りにされたハイザック隊や輸送船の乗員について、オペレータが尋ねた。
「そんなことは知らんよ、私は少し休む。」
 ガディはそう言い、敬礼している乗員に答礼すると艦長室に戻って行った。






〇〇九八年九月一日 午後
巡洋艦「ロンバルディア」


マ・シーン中佐は投降したパイロットの一人を艦長室に呼び出した。エウーゴの兵士に両腕を掴まれたパイロットスーツの男が彼女の前に突き出され、彼女は顎で手を組むと、その男の顔を机から見上げた。艦長室に彼女の顔を見た捕虜は驚いた顔をしている。
「久しぶりね、ニコラ。」
 ニコラ・ベンリコ中尉、ティターンズ学園で彼女の後輩の二期生のパイロットで、ジェリドと同じビスマーク高校の出身である。彼女は連行した兵士に退室するように言うと、手錠を外されたベンリコを椅子に座らせた。艦長の机の上に丸眼鏡を見たベンリコが興味深そうな視線を向けている。その視線に気づいたエマが眼鏡を手に取った。
「伊達眼鏡よ、この船にはほら、私より年上の人が沢山いるでしょ。」
 だから見くびられないようにしないといけない。そう言い、エマは彼の目前で眼鏡を掛けた。
「どう? 似合うかしら。」
「ちょっと知的な感じがしますね。」
 捕虜の言葉にエマは女性としては少し嬉しいと礼を言った。
「エマさん、あなたとは戦いたくなかった、、」
 実は憧れていたとベンリコは彼女に言った。一期生の先輩として、実はそれ以上だったかもしれない。だから脱走はショックだった。彼の告白に彼女は微笑した。
「ハイザックにヘルメス・ピークを突破する能力はない。」
 あなたは見捨てられたの、彼女の言葉にティターンズの中尉は顔を背けた。おそらく最初からそういう作戦だった。アレキサンドリアが陽動し、艦隊が投降したザクや輸送船の収容に手間取っている間に、より充実した耐爆装置を持つサラミスで数十〜数百グレイの放射線が充満するヘルメス・ピークの回廊を突破する。ザクや輸送船と異なり、軍艦であるサラミスにはある程度の耐爆能力がある。
「突破できたとしても、艦は放射化して使い物にならなくなると思うけれども。」
「我々はどうなるんです?」
 この時代、捕虜の扱いを定めた戦時国際法規というものは存在していない。強いて言うならば大戦時の連邦軍の捕虜取扱い準則は一定の役割を果たしたし、ジオンのそれも同様だが、〇〇〇一年の地球連邦の成立により、主権国家というものがなくなったため、戦争法規の必要もまた消失したのである。
「マーロウ提督があなたたちを引き取りたいと言っている。私はその指示に従うつもり。」
「助かります。」
 ベンリコが安堵の息を吐いた。旧同盟時代からソロモン共和国のそれは人道性には定評がある。処刑は共和国の国是にそぐわないし、捕虜を養う費用はバカにならない。おそら


く彼らは簡易な取り調べの後、本国送還されるだろう。エウーゴの場合は特に規定がないため私刑や虐待が日常化しており、エマも不愉快に思っている。ティターンズやオーブルはもっとひどい。面会を終え、電話で兵士を呼んだ後、彼女はベンリコに声を掛けた。
「ニコラ、これでもまだティターンズに戻るつもり。」
 彼女の言葉にベンリコは首を振った。
「もう懲り懲りです、自分は別の場所でやり直したい。」
 そうね、エマはそう言い、入室してきた兵士に捕虜を営倉に戻すように命じた。




〇〇九八年九月一日 午後
ソロモン艦隊 戦闘巡洋艦「エイジャックス」


の連結作業が難航しており、「地下室(バンク)」のブッダ大佐から連絡があったという報告にマーロウは戦闘艦橋のモニタを繋いだ。機動戦闘中のエイジャックスのコントロールは艦の重心位置に近い戦闘コントロール室にあるが、艦の連結作業は見晴らしの良いこの艦橋で行われれている。地下室組は艦長のほか、参謀長のバーゼルやゲアリ中佐が含まれており、連結作業に手間取っているので彼らとの再会は数時間先になりそうだ。コックのビリアッツィも地下組なので、マーロウは全艦に非常食料の配布を命じた。
「爆破ボルトで吹き飛ばして分離するのは簡単なのですが、合体の方は厄介です。」
 アレキサンドリアとの戦闘でファルコンは船体の一部を破損しており、また、船体も高機動運動で数メートル伸びたことから、イーグルに保管されている予備ボルトの取付は難航している。
「本当は連結器を作りたかったが、重量と予算の都合で爆破ボルトになった。」
「イーグルもエンジンがあった方が良いです。艦位を合わせるのが厄介で、とにかく、新しいコンセプトですのでいろいろと不具合があります。」
 艦の改良につき航海長のプレスコットと話をしつつ、艦橋の窓からマーロウは作業の進捗状況を見守っている。そこに「地下室」のブッダから連絡が入る。
「司令、ちょっとイーグルに来ていただけませんか。ティターンズの捕虜が興味深い内容を話しています。」
 艦長の言葉を受けると、マーロウはノーマルスーツを着こみ、艦橋の隅にある移動カプセルの扉に手を掛けた。分離状態の場合、直接艦と艦とを繋ぐエアロックは両艦にはなく、移動はこの方法によるしかない。司令官を乗せたカプセルがスルスルとロープを伝って直下の要塞空母に降りていくのを見て、プレスコット航海長が操舵手のバーナードに声を掛けた。
「合体戦艦エイジャックス、まるでスターガイアンの船だが、後始末が大変で、面白うてやがて悲しきという感じだな、貴官は楽しんだと思うが。」
「エイジャックスは最高ですよ!」
 巨大戦艦の高速戦闘に興奮しているバーナードが言った。巡洋艦まで含め、アフターバーンまで搭載している艦は他にはない。この装置は合体状態では船体が歪むため使用は禁止されている。
「私には妻子がいるんだ、ヒラリー、君の暴走運転はもう懲り懲りだ。」
 航海長はそう言い、操舵手に首都にいる彼の娘のことを話した。アシュリー・プレスコット航海長の娘エリカは後に共和国軍に入隊し、少し古くなったエイジャックスに乗り組むことになるが、それは別の物語である。



(おわり)




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