1.日野春・武川ツーリング(2021年9月末)
レビューの補足として、酷暑も明けた2021年9月末に北杜を訪れ、作中の「ねこ道」を実地に見分することにした。
①松本から諏訪、白州へ(AM4:20~6:00)
作中にあるように明け方に撮影するのが望ましいと思い、松本を朝4時すぎに出発。朝食は途中で取り、6時前に到着の予定。
未明の諏訪湖畔公園、午前5時頃。深夜営業の定食屋で朝食を取り、北杜に向かう。長野県は緊急事態宣言は発出されていない。
明け方のサントリー白州蒸留所、アニメには登場しないが日野春のすぐ近くにある。
日東樹脂(株)山梨工場付近から日野春を望む。牧原交差点までの距離は約1キロ。
②釜無川橋から現場へ(AM6:00)
釜無川橋から周囲を撮影。天気以外はほぼアニメと同じ時間帯。
交差点は牧原交差点。
このあたりの風景はアニメでもおなじみ。右はロゴにもある釜無川橋ポケットパーク。
③「ねこ道」に到着(AM6:15)
ねこ道(上り入口)に到着、看板は倒されていた。
意外だったが小川がある。また、ねこ道は橋の方向にもある(赤点線)。小川は人一人が溺れるには小さすぎる。おそらく水捌けの良い溶岩台地の表面を伝った雨水が表土から滲み出したものだろう。同様の場所は他にもあると思われる。
④「ねこ道」を登る(AM6:20)
とりあえず登ってみることにする。入口付近の傾斜は急。以前の検討でねこ道の全長はおよそ300mと分かっている。前後は急勾配で、簡易舗装(原作)などはなされていない。路面状態も悪く、自転車やバイクの通行は無理。
少し登るともうこの高さ(20m)、が、①登りきった後は稜線沿いにごくなだらかになる。これも検討した通り。
湧き水と古い階段らしきものがある。道は最近開削されたものではなく、古い砦に登る登城口と思っていたが、途中に石垣や道祖神、稲荷神社らしきものはない。
②日野春側の出口近くの登りはやや長い。湧き水が多いことは表土崩壊が多いことを予感させる。七里岩は「河川段丘」ではない。硬い安山岩、玄武岩でできた溶岩台地である。
⑤出口に到着(AM6:25)
ようやく出口に到達、登りが長く思ったよりしんどい。路面も腐朽土ですぐ横は高さ数十メートルの崖のため、これは川に落ちるより崖から落ちる方が危険と思われる。ここまでの歩数は430歩、距離にして約300m。
<アニメ「ねこ道」のモデル>
なお、アニメで描かれていた「ねこ道」の入口のモデルはこの近くにあるが、これは道ではなく直下にある釜無川第二水力発電所の関連地である。
手摺を伝って階段を降りた先には水力発電所の揚水タンクがあり、落差を利用して崖下の発電所に水を送っている。この通路も612号線に繋がるため抜け道として使えないことはないが、傾斜はかなりあり、車輪付きの乗り物の通行には全く適していない。
小川と思しきものはここにもあり、むしろアニメのイメージに近いが、これは水力発電所の保守点検のために拓かれたものである。川底までの谷は深く、転がり落ちたらまず助かりそうにない高さである。
⑥椎の遭難場所?と思しき場所(AM6:35)
もと来た道を戻る。写真はアニメで椎ちゃんが遭難したと思える場所。先に紹介した小川が流れており、道からは2メートルほどの落差がある。が、河原自体があまりにも小さく、人が溺れるには狭すぎることがあり。リカちゃん人形を持ってくればよかったと後悔する。
リカちゃん人形
だいたいこのくらいのスケールで、さらにすぐ近くが道路なので、これはカブで乗り込まなくても救出できそうである。
⑦小熊の家と日野春駅(AM6:40)
小熊の住む某工場の社員寮(作品)とされた県営住宅。駐輪場も含めアニメそのままだが、実際のこの住宅はかなり雰囲気が荒れており、朽ちたセルシオなどが放置され、住人のガラも悪そうで、難癖を付けられるのが嫌なので一覧してすぐに立ち去った。
JR日野春駅と駅から望む南アルプス。
⑧スーパーおの(AM6:50)
開店前のスーパーおのとアニメのポスター、ハッピードリンクの看板。スーパーと看板はアニメにも登場。
スーパーおのの張り紙。実は目前の道は狭く、スーパーの全景は向かい側の隣家の敷地に入らなければ撮影できないため、真っ昼間から人の敷地にノシノシと入り込む「カブ主」が多いことが伺える。問題の私有地は駐車場のため、バイクを停めたり、「オラオラそこどけよ」とカメラ片手に客を怒鳴ったり、何か分からないが「危険物」を持ち込むなど、他のアニメには見られないファン層の劣悪、マナーの悪さが伺える。
参考として、「ゆるキャン△」の身延駅のみやげ物店。注意書きなどは無く、作品が地元住民にも親しまれていることが伺える。カブの方はスーパーもありがた迷惑のように見える。
⑨武川高校とバイク店シノ(AM7:00)
武川高校(中学校)とバイク店シノのモデルのKuma’s Office。工房の方は現在取り壊し中であるが、作業は進んでいないようである。使われなくなってかなりの年月が経過しており、周囲に赤錆びた機械類などが転がっている。
事前調査でも最後まで分からなかったこの坂は工房への途中の道をデフォルメした架空の場所のようである。実際はもっとなだらかで坂などない。この場所は河岸段丘なので、関東平野に多いこういう形のアップダウンはあるはずのないもの。
⑩真原桜並木と養鶏場(AM7:10)
礼子の家の近くにある真原桜並木と雪遊びをした養鶏場兼キャンプ場。現在は様々な物が置かれ、やや雑然としている。
周囲には電気柵が張られ、うっかり触れて感電してしまった。左はキャンプ場の一部。
⑪その他(AM7:30)
礼子の叔父が勤める信用金庫(JA)とスーパーむかわのモデルであるスーパーやまと。スーパーの方はすでに閉店し建物が売りに出されている。
スーパーやまとの売家看板と武川町唯一の温泉「むかわの湯」、残念なことに開業前。
2.まとめ
見学には以前作った上記の図を頭に入れて行動した。修正すべき点はなく、概ねこの図で案内できる感じである。
あと、作品でも重要な位置を占めていた椎の家(カフェ・ブール)、バックハウス・インノは武川町にはなく、10キロ近く北の大泉町にあるため、今回は訪問しなかった。モーニングがあるが、いかにもなカブ型バイクで訪問するのは気が引けたことがあり、これは行くならクルマで行くこととしたい。同様の理由でタダの展望台なので和田峠みはらし公園も対象から外した。
気候については、概ね長野県より2度ほど高めで、信濃境付近では実際に寒風があり寒かったことから(気温14度)、八ヶ岳颪(おろし)の影響を受ける武川ももしやと思ったが、小淵沢付近から徐々に暖かくなり(気温17度)、概して諏訪・宮川流域より温暖な様子である。真冬はともかく、9月で寒中装備の必要を感じるほどではない。せいぜいが衣替えだろう。
次回はバックハウス・インノを中心に清里あたりを周遊することとしたいが、プライベートな旅行で、特に報告の必要はないように思われる。
(追記)
別の機会にクルマでバックハウス・インノを訪問したが、コロナの影響でモーニングは休止中で、早朝の薄暗い店内で脇目も振らずにパン生地を捏ねる親子の姿が印象的であった。こういうことをしていれば小説で「ドイツパンはダサい」などという椎の言葉は出てこない。小説で本来描くべきはこういうものであっただろう。アニメは最後までそこそこ見られるが、描くべきものを描いていない点、つくづく原作小説のレベルの低さ、ポテンシャルのなさを思い知った次第である。